空飛ぶ芋虫
2026年(令和8年)1月14日【オーストラリア 中央部 ノーザン・テリトリー地球連合防衛軍基地】
「出来たっス!」『フィー……』
やりきった表情の瑠奈と、アシスタントのツルハシ13号が、油と汗にまみれた顔を拭う。ツルハシは汗をかいていないが一応、 主の真似をしている。
「で?……この芋虫が空を飛ぶのですか、お嬢?」
首を捻りながら作業を見学(監視とも言う)していたワイズマン中佐が訊く。
「ムキーっ!?信じてないっスね!試作品だから見てくれはアレですけど、今の地球連合防衛軍には必要なアレっスよ!」
小さい胸を張る瑠奈。ツルハシもツルペタボディの胸を張る。
「先ずは、実戦に耐え得るか試験するっス!」
※イラストはイラストレーター 鈴木プラモ 様です。
そそくさと飛行機械の機首コクピットに乗り込むとワイズマンを手招きする瑠奈。
ちゃっかり瑠奈の背後スペースに某R2〇2みたいに収まったツルハシ13号も手招きをする。
何となく負けた気分になったワイズマン中佐だが、勇気を振り絞って先頭座席に乗り込む。
「浮上っス!」
全長5m程の飛行機械が、両サイドの可変式ロケットエンジンをボバッ!と噴射しながら、フワリと垂直に浮き上がる――――――150m程。
「—――—――ヌガァァァ!早い早いっ!こんなんじゃ機体の前に身体が持たん!」
急上昇のGがかかって座席に座ったまま押し潰されそうになったワイズマン中佐が警告する。
「ええ~そうっスか?飛行操縦系、姿勢制御系共に問題無いっス!早速戦場で試して合点ッス!」
あっけらかんとした平常運転の瑠奈。
「……ぐぬぬ。まだ垂直に上がっただけですお嬢。戦闘に耐えれるかはこれからです」
悔しまぎれに負け惜しみを口にするワイズマン中佐。
芋虫型の試作飛行機械は可変式ノズルを下へ噴射させたまま、機体尾部にある小型単発エンジンを噴射して前方へ加速して飛行する。
基地から15Km程離れた最前線防衛陣地上空に到達すると、操縦席の無線機から防衛陣地指揮所からの通信が入る。
『こちらバークリー陣地。見慣れない機体だな。所属はどこだ?』
「ミツル商事戦闘団の瑠奈っスよ!空中戦闘砲台の試験飛行ッスよ!腕試しがてら手ごろな目標プリーズっす!」
気軽に実戦を要求する瑠奈。
『ハハッ!ボーナスに感謝する。
防衛陣地右翼前方3Kmの岩山麓に大型の生体反応が見つかった。こちらからだと岩山が邪魔で直接銃砲が撃てん。頼めるか?』
「承りッス!」
『頼んだぞ!ワームバスター』
瑠奈とワイズマンを乗せた飛行機械は、火山灰で視界が遮られる中、レーダーとマイクロビーム、簡易GPS(瑠奈が気球を飛ばして位置測定拠点とした)の誘導で操縦は簡単だ。
ヘッドアップディスプレイに表示された地図と、探知座標を手掛かりに岩山を回避してサイボーグワームが潜む砂地上空に到達する。
ワイズマン中佐の操縦席から目標探知アラームが鳴る。
「うおおっ!何か鳴った!」
「目標補足!ワイズマン中佐、出番っス!」
ビビるワイズマンに後部座席から励ます瑠奈。
「なになに……これが武装制御系か?お嬢、この並んでるカラフルなボタンを押しまくればいいのか?」
「そうっス!左から順番にお願いするっス!」
「この赤いやつだな。ほれ!」
ワイズマンが赤いスイッチを押す。
途端に座席の後ろからヘッドアップディスプレイ付きのヘッドセットが迫り出し、ワイズマンの頭にスポッと嵌る。
「何だこれ?」
「30mm視覚連動型バルカン砲っス!」
飛行機械機首下部のバルカン砲がブーンと低く唸りながら火を噴く。
前方の岩山がバルカン砲の破壊力の前にガリガリと削り取られていく。
ものの30秒で岩山の高さが半分になり、ワイズマンと瑠奈の視界に眼下の砂地で蠢くサイボーグ・ワームが入る。
「次っ!黄色いボタンっス!」
「ほれっ!」
操縦席のすぐ後ろ、機体両側に備え付けられた8連装ロケットランチャーから、ロケット弾がシュババッ!と勢いよく飛び出す。
16発の非誘導型ロケットは砂地へ真っすぐに着弾して爆発すると、サイボーグ・ワームの破片が交じった砂を空高く噴き上げた。
生き残ったサイボーグ・ワームが頭頂部からヒゲの様に生えたセンサーで飛行機械を捉えると、巨体をくねらせて砂地からジャンプして襲い掛かる。
「のわっ!お嬢!」
「オレンジボタン!押す!」
「うぉぉぉ!!」
恐怖に耐えかねたワイズマン中佐が、オレンジボタンを連打する。
連打ボタンに反応した30mmバルカン砲が再び火を噴き、機体の上下に装着されていた4基の多目的ミサイルが次々と発射された。
「誘導はお任せッス!」
瑠奈が多目的ミサイルの誘導を担当する。
30mmバルカン砲を至近距離で喰らって殻の一部を破壊されたサイボーグ・ワームは、砂地へ逃げ込もうと巨体を翻すが、背後から多目的ミサイルが直撃して爆炎と共に破壊された巨体が砂地に散乱する。
「ターゲット撃破っス!」『オミゴトデス。マスター』
「……ウェイ」
瑠奈が前方に座る疲労困憊のワイズマンとハイタッチを交わすし、ガッツポーズをとる。
『こちらバークリー。目標の消滅を確認。よくやってくれた。ワームバスターのボーナスに感謝する!』
苦戦続きだった防衛陣地から久しぶりに歓声が挙がる。
ノーザンテリトリー基地へ帰投した瑠奈とワイズマン中佐は司令部に赴き、ジョーンズ中将に試作兵器の性能評価結果を報告した。
「……以上ッス!使い物になるッスか?」
「ワームバスターとして充分に使えるとも!
間に合わせのパーツであれほどの物が出来るとは。……でかしたぞ!二人とも」
手放しで賞賛するジョーンズ。
「これで前線部隊の負担が少しは減るだろう。火山灰の影響を受ける事無く、空中支援を行えるのが良い!」
30mm機銃と同調していたガン・カメラの録画を視て喜ぶジョーンズ中将。
「……中将閣下。戦闘時空中稼働時間が15分足らずですが、よろしいのでしょうか?」
運用面を懸念するワイズマン中佐が尋ねる。
「複数の機体を交互に運用すれば、空中支援は維持される。対地上攻撃用空中砲台としては問題ない」
答えるジョーンズ中将。
「……苦戦を強いられている他の戦場でも利用出来るといいですね」
ジョーンズ中将と共にガン・カメラを視ていた作戦参謀が呟く。
「この試作飛行機の設計図を、ニューグラスゴーへ送信できるかね?」
ロイド提督を助けたいジョーンズ中将が瑠奈に尋ねる。
「いいっス!このUSBメモリに入ってるっスよ!」
躊躇せずジョーンズにUSBメモリを手渡す瑠奈。
「瑠奈嬢には助けられてばかりだ。感謝する」
瑠奈の頭をジョーンズのゴツゴツした手が優しく撫でる。
「んぁ~、最高っス!」
うっとりと目を細める瑠奈。
「それじゃ、お嬢。これから突貫工事で量産だ!」
「そんなぁ~ご褒美は他に無いっスか?」
ワイズマン中佐がウットリしていた瑠奈の首根っこを掴むと、倉庫へ引きずって行く。
倉庫では先程のガン・カメラを見た整備兵たちが集結しており、瑠奈に組み立て作業への協力を申し出てきた。
「早くあの新兵器を量産して、虫けら共に喰われた戦友の仇を取ってやるんです!」
血走った眼で瑠奈達に申し出る整備兵。
「了解ッス!みんなでじゃんじゃんバリバリ作るッスよ!」
整備兵達の前で仁王立ちすると、力強く頷く瑠奈。
連日連夜の試行錯誤と組み立て作業で疲労困憊している筈の瑠奈だったが、そのような事をおくびにも出さず嬉々として整備兵たちの群れに飛び込んで製作作業に取り組んだ。
「……あそこまで人を思いやるとは。とても人工知能の化身とは思えん」
ワイワイと大勢の将兵達と騒ぎながら作業に打ち込む瑠奈を見守りながら呟くワイズマン中佐だった。




