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第三十一夜 『オルガン』ポロックの拠点へ。2


「ねえ、三人共。三者三様にヴァシーレに対して、特別な感情があるんでしょ? 馬鹿じゃないの? あたし達の世界では裏切り者は惨殺する。容赦無く処刑する。あんたら三人が戸惑っていたら、示しが付かない。あたしが始末してやろうか?」

 残月は、レスターとムルド・ヴァンス、そして、メテオラの顔をそれぞれ睨み付けていく。

 そう吐き捨てた後、残月は自身のアジトに向かうと、尋問室を出る。


「ヴァシーレの調子はどうだ?」

 メテオラは訊ねた。


「やはり、吐いてくれませんね。それにまだ、私達に対して思う処があるのでしょう。まるで、闘争心を消そうとしない。四六時中、見張って、何も出来ない筈なのに」

 レスターは淡々と言った。


「そうかよ」


 メテオラはヴァシーレの下へと向かう。


 牢屋の中のヴァシーレは半日前と比べて、見る陰も無かった。

 身体の所々に赤い痣が出来て、顔も酷く腫れ上がっている。

 何か所か、骨も折れているのだろう。


 おそらく、やり方から見て、レスターがやったに違いない。

 後遺症が残らないように慎重に手加減しながらも、ただし、標的の心を折りに掛かるような拷問の仕方だ。


 メテオラは空中に水の入ったバケツを取り出すと、バケツの水をヴァシーレへとブチ撒ける。ヴァシーレは目覚めて、眼の前のメテオラを睨み付けた。


「こっぴどくやられたみてぇじゃねぇか。良いザマだな」

「師弟の縁を切られたぜ。ったくよ、どうせ、俺をバラすんなら、さっさと楽にしろよ。今度はなんだあ? 生きながら火で焼いたり、手足の指でも削ぐのかよ? って聞いたら、ブン殴られたぜ。クソ、あの理不尽野郎」

「…………、お前、ほんとに俺達に生かされているって自覚が無んだなぁ。マイヤーレだったら、とっくにテメェは車椅子で生活するのを余儀なくされているだろうぜ。オルガンだったら、解剖されて自身の内臓を見る事になるのかな?」


 メテオラは、そこに何も無いかのように、鉄格子をすり抜ける。

 そして、ヴァシーレの頭を鷲掴みにする。


「なあ、おい。これでも、俺はテメェの事を気に掛けているんだぜ」

「メテオラ。クソ道化師。俺はテメェの首を切り落とす事ばかり考えているが、テメェは俺ごときが気になって夜、眠れないのか? トイレだって一人で行けないとかあ? ……ひひっ、この場を切り抜けたら、またテメェの命を狙い続けてやるよ」


 メテオラはヴァシーレの左頬を転がっているバケツで殴り飛ばす。


「聞けよ。ヴァシーレ。俺達に楯突いて、この俺の首を狙って、それでどうするんだ? 俺の地位が欲しいのか? いっそ、くれてやっても良いって思っている、この地位が?」


「はあ? くれてやってもいい? なら、寄越せよ、テメェの地位を、利権を」

「嫌だな。これは復讐だからな。前のアルレッキーノのボスに対しての、な…………」


 メテオラはヴァシーレの顔をまじまじと見ながら、両手を広げる。


「少し……昔話をする。どこにでもいる少年ギャング団のグループがあった。バンド組んだり、路上で酒を飲んだり、クラブに行って女ナンパしたり。……、でも、ガキ共のメンバーの中で、巨大カジノを取り仕切っているマフィアに沢山の借金をした。で、そのガキは骨の髄までしゃぶられて、両親共々、路上に惨殺死体で転がる羽目になったわけだ」

 死の道化師は、あくまでも“一人の少年”として、暗い表現で話を続けていく。


「そして、その少年ギャング団のメンバーは次々とマフィアに殺されていった。……でも、その中の一人が強力な能力者でな。マフィア達を次々と返り討ちにしていって、ついには、組織のボスもブッ殺したわけだ」


「…………、メテオラ……。それがテメェか」

「…………、ヴァシーレ。お前は殺されて、海に放り込まれた俺の親友に似ている。そいつはマフィアに憧れて、いつかマフィアの英雄になりたいって言っていた。……あの頃、俺達は夢を見ていたし、何より刹那的だった。拳銃やドラッグが格好いいと思っていた。…………、アルレッキーノの裏ルールを、お前、知っているな? ボスを殺害した奴が次のボスになれる。俺は望んで、今の地位にいない。他に……、もう向かう場所が無かったから、今の地位にいる…………」

 

 そして、二人の間で、しばらくの間、沈黙が続いた。

 どうせ、幾ら話したって、話は噛み合わない。

 それが、持っている者と、持たざる者の違いなのかもしれない。


 メテオラは、別の話題を振る事に決める。


「で、お前は何に狙われている?」

 鉄格子越しに、メテオラはヴァシーレに訊ねる。


 ヴァシーレはメテオラの顔に向かって唾を飛ばす。唾は空中に制止して、止まる。


「吐いちまえよ。コミッションは裏切り者のテメェに手心を加えるって言っているんだぜ。本当ならさっさと始末しねぇといけねぇんだが」


 部屋の中にレスターが入ってくる。


「ヴァシーレはまだ沈黙を続けているみたいですね……」

「ああ。やっぱ、拷問とかした方がいいのかあ? こういう状況はなあ。俺はそういう事する連中は、下っ端のマフィアだと思っているんだがよおー」

「私も快く思っていません。拷問による尋問は優雅とは言えない。我々はMDマフィア社会の秩序を保たなければならない。……特に、今、マイヤーレが無くなり、オルガンが暴走している。全てに、ポロックはよからぬ計画を“仕込んでいる”という情報が入っています」

 レスターは意図的に、ヴァシーレに情報を与える形で、メテオラに言うまでもない事を話す。……レスターの策により、ヴァシーレは少し顔を緩ませる。


「なあ、おい。ウォーター・ハウス達の情報を俺にくれねぇか。それで取り引きしてぇ」

 ヴァシーレは楽しそうに笑う。


「暴君には『ハイドラ』の残月が直々に接触を試みている。俺は赤い天使の方に接触を試みるぜ」

「そりゃいい。返り討ちにされるだけだぜぇ!」

 ヴァシーレは小馬鹿にしたように叫んだ。


「かもな。だが…………、『オルガン』のボスに追い付かなくちゃあならねぇ。俺と残月で、オルガンのボス、ポロックの研究施設に潜入したんだが」

 メテオラは帽子を取り、中から、何かを檻の中へと放り投げる。


 それは人間の指先の生えたネズミだった。未だ生きている。

 それはヴァシーレの顔付近の壁でうねうねと蠢いていた。


「こういうものが沢山、作られていたぜ。ポロックは……いや、オルガンはイカれていやがる」


「メテオラ。一つだけ、情報を教えてやるぜ」

「なんだ?」

「コルトラはお前の地位を欲しがっている。警視総監殿はな。奴が独自に結成している組織だが、お前はよく知らねぇらしいじゃねえか。俺は調べているぜ」


 道化師は口元を指先で押さえる。


「…………、だろうなー。やはりか。そして、ヴァシーレ。俺達、コミッションがお前から引き出したい情報はだな。“俺達の上に存在する何か”の事だぜ。なあ、俺達、MDマフィアの上に何がいる? 何がこの世界に君臨している? 中枢とか、深部とかって言われているよなあ? 俺達、MDマフィア組織の最高峰でさえ、中枢に関しては知らねぇー。それを知ろうとした者は戻ってこねーらしいからな」

 メテオラはヴァシーレの眼をまじまじと見据えた。

 レスターは……この二人は、何処か似ているな、と思った。青臭く……、良くも悪くも、ガキだ。


「ヴァシーレ。我々が貴方から引き出したい情報ですが」

 レスターは口元に指を当てて訊ねる。


「もしかして“話せない”という何かしらの能力、攻撃を喰らっているんですか? 貴方個人の意志とは関係無しに」

「さあな」

 ヴァシーレは首を横に振った。


「分かりました。それなら仕方無い」

「それより、この俺をさっさと解放しやがれよ! あるいは始末するんじゃねえのかあぁ?」

 レスターは少しだけ考える。


「とにかく、貴方の処置は、暴君とオルガン。そして、他の中小組織のボスの動きに掛かっている。それからヴァシーレ。貴方はマイヤーレの代わりを継ぐ意志はありますか?」

 レスターはそんな提案をした。

「俺はアルレッキーノのカジノ利権が欲しい。売春斡旋利権で妥協、納得しろ、と?」

「あくまで、提案、ですよ」

 ヴァシーレは少しだけ考える。


「悪くない条件だ」

 ヴァシーレは、変幻自在の両性具有の少年は、狡猾そうに笑った。

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