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第76話「帝街」

挿絵(By みてみん)

 ※クラリスさんのラフです。

  ちなみにこのイラストは没になったらしく、本編には載ってないそうです。

「――おぉぉ!」


 選抜戦の際して、帝都では〝祭り〟が始まる。

 往来の両脇に数え切れないほどの出店がひしめき合う。

 各国の商人も観光客も混ざり合い、期間の始めたる今日は特に街中賑わっていた。

 宿を出たこの直後でも、ソレはよく分かった。


「色々めちゃくちゃでしたけど、昨日のセレモニーがこのお祭りの開始合図の役割も担います」

「なるほどなるほど」

「めちゃくちゃ、でしたね?」

「あ、あはは……」


 クラリスさんにジロッと半眼を向けられる。

 睨まれるってわけじゃないが、まぁ俺が主犯格の1人だとは自覚してる。


「そ、そういえば、クラリスさん、今日はワンピースなんですね。似合ってます!」

「あら。上手いこと褒めて話そらそうとしてません?」

「い、いや! そんなことはないです!」


 確かに話題を変えようという意図はあるけど……別に嘘はついてない。

 我らが生徒会長の貴重な私服姿、こんな間近で見れるなんて俺は幸せ者だよ。

 ちなみに俺も同じく私服、今日は制服で来るな(、、、、、、)と念を押されてたし。


「なんか新鮮です。ただ私服でもやっぱりお嬢様感出てますね」

「それは私、お嬢様ですから」

「っふふ。自分で言います?」

「いけません?」

「いいえ。エスコートしますよ」


 今回は一応〝デート〟をするってコンセプトだしな。

 え? なんでそんなことになったって?

 

(元々2人で出かけるみたいな約束は結構前にしてたんだけど――)


 選抜戦の予選前くらいにね。

 ただソレをほったらかしてセンと短期外出……別にやましいことはしてないけどさ。

 とりあえず今日1日付き合うってことで怒りは静めて貰った。

 マジで昨日のクラリスさんは怖かったなぁ…………


「でもクレス君、エスコートできます? 帝都に来たばかりでしょうし、あまり気を使わせてしまったのなら……」


 ノリにノリを重ねたやり取りだったが、後にちょっとバツの悪そうな表情をする。

 根が真面目というか……優しすぎるんだよなぁ。

 

「ま、ぶっちゃけ適当に歩くだけですから。それとも明確なプランがあった方がいいです?」

「……いえ」

「じゃあ大丈夫ですよ。行きましょ」

「はい」


 杞憂でしたかねとクラリスさんは加えて言った。

 少なくともセンに付き合ったお陰で、帝都の飲食店には詳しいぞ。

 

「人が多いですし、はぐれないためにも手を繋ぎますか」

「あーはい……」


 今回は護衛もいない、というか俺が付いているなら良いと彼女のお父様にご快諾頂いた次第。

 かすり傷であろうとも、万が一怪我でもされたら……

 

「では! 繰り出すとしましょう!」

「かしこまりました、お嬢様」


     ◆◇◆


 数日掛けて行われるこの祭り。

 始まりの今日は、特に賑わいが凄い。

 ただ帝都の大通りは横に広い創り、人とぶつからずに歩けるぐらいの余裕はある。


「――はい、どうぞ」

「――ありがとうございます」


 今日はそこまで暑くないが、とりあえずと飲み物を買った。

 なんでも教国特産のエーラという果実をすり潰したものだとか。

 乾燥させて保存したりもするらしい。


「本当にお金はいいんですか……?」

「そりゃクラリスさんの方がお金持ちですけどね。これぐらいは男を立てさせてください」

「ふふ、男を立てるですか」

「あ、なんで笑うんです?」

「いやクレス君もそういう事を考えるようになったんだなぁと……ちょっと嬉しくて……」


 遠くを見ながらしみじみと呟く。

 まるで母親か姉みたいな雰囲気だ、流石にそれぐらいの配慮ありますって。


「分かりました。今日は男を見せて貰いましょう」

「任せてくださいよ」

「あ、でも今度女装もしてもらいますが」

「女装……」

「一時はケンザキさんとの試合の結果で決めようと話しましたが、引き分けでしたし。ただ昨日遅刻した分をチャラにするには丁度良いと思います」

「皆も納得してましたね……」

「満場一致です!」


 セレモニーでの遅刻が切っ掛け、この埋め合わせは秋の文化祭で女装をすることでまとまった。

 俺は反対したけど、全員が推すもんだから……

 デニーロ先生も今回ばかりは味方をしてくれなかった……


「というか、食べ物以外にも色々売ってるんですね」

「はい。雑貨にアクセサリに似顔絵に、実際買うかはまた別の話ですけど」


 今回は当てのない買い物。

 足取りはスローに、行き交う人の中にまぎれ辺りを物色する。

 

「ん」


 ふとした拍子。目に入ったとある物に足を止める。

 

「これ……」

「髪飾りですか?」


 夏という時期に真っ向から相対するような、白銀色の髪留めを発見。

 しかも若干青みがかっていて、なんだか自分の特性(、、)と似ているなと。

 珍しい色合い――あ、そうだ。


「クラリスさん、たまに髪留めつけてますよね? 今も」

「時折ですね。いめちぇん、というやつです」

「異世界語……」

「はい。マイさんに教えて貰った言葉です」


 クラリスさんはいつの間にかマイさんを名前で呼んでいる。

 俺がセンと抜けている内になにか接触があった――?

 悪い事態に繋がる可能性はかなり低いが、少し気にしておこう。


「…………良し、すいません。これください」


 空いている右手を顎に添え、ちょっとだけ考える。

 普段からかなりお世話になってる。

 うん。感謝の心はなにも値段で決まらない……と思う。

 店員さんに一声、パパッと取引を済ませる。


「クラリスさんこれ」

「……」

「あのー」

「は、はい!」

「普段お世話になってるお礼です。クラリスさんが身につけてるほど高価な物じゃないですけど、もし良かったら受け取ってください」


 昨日なんかも、クラリスさんに以前買って貰った燕尾服で過ごした。

 金銭的価値だけ考えればもちろん釣り合わない。

 ただ、あんまり高い物だと受け取ってくれそうにないし。

 そもそも俺がそんな物を買えたら不自然だろうし。

 

 ま、色々言い訳してるが最初に言ったとおり。

 日頃の感謝があるからこそ。これ大前提。


「……慎んで受け取らせて頂きますっ!」

「は、はい。たまーに気が向いた時とかに使って貰えたら嬉しいかなぁーって……」

「毎日使います!」

「そ、そんなに気合入れなくても……」

「使います!!」


 グイグイ来ますね……


「大事にします。本当にありがとうございます」

「そんな頭を下げるほどじゃないですって!」

「……私、今日で運を使い果たしました」

「そんなに!?」


 どれだけ俺はケチ? もしくは鈍感? だと思われてるんだ。

 ちゃんと恩は感じてますよ。

 それを今日で少し返しただけ、気まぐれとかじゃないんだけどな……




「――っ!?」




 クラリスさんが喜んでくれたなら良かった。

 それで貰いっぱなしだった自分の心が、少し楽になった。

 そう安堵したのもつかの間、何とも言えない〝感覚〟が一気に内心を塗り上げる。

 

(誰かに見られてる!?)


 でも敵意は感じない。

 大賢者の時のようないやらしさも感じない。

 これは――


「クレス君?」

「……あ、はい」

「どうしたの急に黙って?」

「ちょっと待ってくださいね」

「?」


 クエスチョンマークを頭に浮かべるクラリスさんを尻目に、魔力を微力ながら展開。

 また視線を上下左右、四方八方に瞬時に動かす。


(……急に感じた違和感、そういうことだったか)


 こういう事もあるんじゃないかと、予想していなかったわけじゃない。

 向こうは気付いていないだろうが、こっちはもう察知した。


(スミスたち、付けてきたな……)


 離れた人混みの中に、スミスとスガヌマの姿を発見した。

 あの調子だとウィリアムとケイネルもいるだろうな。

 隠れているつもりだろうが、もうバレたぞ。


「まったく……」

「?」

「いえ、なんでもないです」


 なんだなんだ。

 警戒して損したってわけじゃないが、スミスたちなら安心だ。

 少なくとも敵じゃない。

 でもこの場にとどまってジロジロ見られるのもな、さっさと巻くか……


「クラリスさん。とりあえずこの場を離れ――」


 後方に向いていた視線を元に戻す。

 

「……」

「クラリスさん?」

「……銀色」

「銀?」


 今度は彼女の方が目を見開きながらフリーズ。

 方向は俺の真後ろ、もしかしてスミスたちに気付いたのか?

 ただこのチグハグなやり取り、なんか漫才してるみたいだな。

 でも銀ってのは一体――


「あのクラリスさん、まずは此処から……」


 離れましょう。

 しかしその言葉は、突如降りかかる強く響く声に真ん中からボキッと折られた。





「――――クレスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」





 ガヤガヤと騒ぐ群衆を一発で吹き飛ばすような、力強い、魂の籠もった一声。

 それは――俺の名を呼んでいた。

 それだけ。ただそれだけだ。デカい声で呼んでるだけ。

 でも……


「……マジ、か」


 訂正する。俺が間違っていた。

 さっき感じた違和感の正体、それはスミスたちじゃなかったんだ。


「クレスゥゥゥゥゥゥゥ!」

「あの、なんか名前を呼びながら凄い勢いで向かってくる人がいますけど」

「……」

「クレス君、ものすごい汗ですよ!? 大丈夫ですか!?」


 夏のせい、ではないな。

 この人混みの中、大声を上げて迫ってくる女性。

 俺は彼女の正体を知っている。

 忘れることなど万が一にもない。

 視界に入れずとも分かる、常に威風堂々とし、その真っ赤な髪(、、、、、)を強くたなびかせるその人。

 

 盛り上がりとは違う意味で群衆の喧噪は増す。

 そりゃそうだ、指名手配の人物が道を突っ走ってきてるわけだろ。

 俺なんか怖くて見れないよ。


「クラリスさん」

「はい?」

「――本当にありがとうございました」 


 一瞥しつつ、真面目に感謝の言葉を口にする。

 うん。もう少し学園生活を送ってみたかったな。

 だけど残念、どうやら出逢うべくして出逢うようだ。

 彼女と接触すれば俺が災厄、少なくともその関係者と察すだろう。

 ここまでだ。

 




「――――さらば、仮初(かりそ)めの青春よ」

 

 

 もう毎度のことなんですが、遅刻してスイマセン。


 ただようやく彼女が出せましたし、ようやく邂逅です。


 来週からはイラストに加え色々と〝告知〟もして行きます。

 よろしくお願いします。

 

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