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第74話「式典」

挿絵(By みてみん)

 ※8番目の災厄、究極生命体(オカマゲノム)ことボーンさん。

  変身中の一幕。登場は結構最初の頃ですね。

「アリシアァァァァアアア!」

「あ、先生、これってギリギリセーフですかね?」

「貴様ぁぁぁぁあああああ!」

「ちょ、そんなにグイグイ来ないでください センが落ち――」

「……よっと」

「普通に立てるんかい!」


 登場と同時、デニーロ先生が血相変えて迫ってくる。

 だいぶ怒らせたようだ。

 しかも巻き込まれるのが嫌のか、センはお姫様状態から離脱。


 もう回復は済んだらしい、ただ教徒たちの元に行くことはない。

 そそくさと俺の後ろに隠れ――


「剣聖様! どこに行ってたんですか!?」

「……人助けの旅」

「心配したんですよぉ……」

「……めんごめんご」


 ひょこっと顔だけ出して応答している。

 どうやら説教を免れたいらしい。


(口にしているの本当の……ことだけど)


 ただ素直に信じてもらえるかは微妙。


「……まさかと思うがアリシア」

「はい?」

「剣聖殿に手は出(、、、)してないだろうな(、、、、、、、、)?」

「え?」


 少し冷静になった先生がゆっくりした口調で聞く。

 だいぶ意味深い。

 どうやら教国の大物にちょっかいを出したか心配らしい。

 確かに一緒に数日過ごしたけど、それは杞憂だ。


「いやいや。俺とセンは――」

「……裸の付き合いだよ」 

「「「「「っえ!?」」」」」


 友人ですよ友人。

 余裕の表情でそう言うつもりが、隣の少女は爆弾を投下する。

 静まり返っていた会場、全員が同じようなリアクションをした。


「おいおいおい! なに言ってるんですかセンさん!?」

「……誇張した。……まだ下着の付き合い」

「それもそれでマズイ! いやホントに何もなくて――」


 強いて言えば着替えさせる時に、ちょーっと見たぐらい。

 やましい気持ちなんでこれーっぽっちも抱いてない。

 はい。抱いてないですよ。


「お、終わった……俺の教師人生が……」


 ガクッと膝をつくデニーロ教師。

 いやマジで何もないですって。


「まさか幼女に手を出すなんて……」

「クレスにそんな趣味が……」

「ウィリアムとスガヌマまで!? というかセンは同い年!」


 久しぶりにクラスメイトたちと出会う。

 ただ感慨に浸る間もなくツッコミをする。


「クレス君が……」

「剣聖に先を……」

「このルートは予想外っ……」


 クラリスさん。マイさん。ワドウさんの順。

 懐かしい面々は他にもと思ったが、デニーロ先生と同様にテンションは低め。




『い、一旦、仕切り直します! 関係者の方々は――』




 このままではいけない。

 進行役がせわしなく動き、場を取り持とうとする。


「なぁセン」

「……ん?」

「これ、遅刻して来た方が怒られなかったんじゃない?」

「…………かもね」


 人を誰1人として傷つけてないし、損害も最小限に抑えた。

 でも会場の空気は……

 遅刻を承知でコッソリ来るのが正解だったのかも。

 こんなこと言ったら元も子もないけど、ぶっちゃけ遅刻したら死刑みたいな、そんな緊急案件というわけではなかったし――


「……なるようになる」

「まぁね」

「……お説教、一緒に受ければ怖くない」

「うん。最高の一句だよ」


 肝心の開会式は初っ端で頓挫。

 いやある意味、剣聖のこの格言によって選抜戦の幕は開けた――


     ◆◇◆


「――お咎めは特になし。ただ気をつけなさい」


 センと共に乗り込んで少し経過。

 運営である帝国の方々が迅速に行動したおかげ、セレモニーは本来の形にすぐ戻った。

 そして俺は、我らが王国の騎士団長アルバートさんのもとにいた。


「まったく、君の乗り込みには度肝を抜かれたよ」

「あはは……」

「先ほどの王の言葉に嘘はない。ただ、おイタはほどほどに」

「……はい。肝に銘じます」


 センとは一旦別れ、それぞれの重役のところに。

 俺は自国の王様と騎士団長にお説教……はされなかった。

 あまり派手なことはしないように、なんでもないようにそう言われた。


(もっと怒られると思ったけど……)


 意外と軽い反応だった。

 ちなみに今はアルバートさんと2人きり。

 久しぶりに会ったついで、お互いの近況を伝え合っていた。


「――っと、あまり私とばかり喋っていても退屈か」

「いやぁ、あんまり知り合いいませんし……」

「だからこそだよ。こういう機会だ、友人を作るといい」

「友人……」

「さっきの一件で注目はされている。この流れを活かすんだ」


 活かすって……

 厳しくないですかソレ……


「というわけだ。頑張ってきたまえ」

「はぁ……」


 アルバートさんは王様たちの所へと戻っていく。

 護衛の続きをするのだろう。

 そういう意味では、俺との会話をそろそろ終わらす必要があったのかも。

 配慮が足りなかったかな……


「まずはウィリアムたちの所にい――」

「ハロォォォオ! クレス・アリシアァァア殿!」

「っは、はい?」


 アルバートさんと別れてすぐ、凄い巻き舌の老人が現れた。

 背丈はセンと同じくらい。

 格好はまさかの白衣。白髭を大量にたくわえたその姿は一発で科学者であることを分からせる。


「ワタシはアリミナ商国にて魔導具開発をしている、ヒョーンと申します」

「商国の……」

「ええぇ! ぜひヒョーン博士と呼んでくださーい!」


 シワシワの顔にとても良い笑み。


「実は一度お会いしたかった! するとまさか先の剣聖とシンクロ飛び込み! いやぁ見事!」

「ど、どうも」

「最近の若者にはないチャレンジ精神を感じましたぞぉ! ヒョーン博士もうっひょっひょーんってテンション上がってしまいましたぞぉ!?」

「…………」


 あ、ヤバイ人だ。


「さすればワタシの開発した魔導具を……はいコレとコレとコレ、お勧めはコレですな。ぜひご鑑定を。我ながら力作揃いだと思ってましてな」

「……」

「ヒョーン博士よ、これこれそんなに迫ってはアリシア殿が引いてしまう! 博士はもっと落ち着いているものですよ! うんうん。確かにそうである」

「…………」


 売り込みかと思ったら、なんと1人で会話? を始める。

 周りからも同情の目が。

 完全に頭のオカシイ人、ただ――


「ん」

「む! ソレに気がつきましたかなぁぁあ?」

「良い造りしてる……」


 アリミナ商国は文字通り商人の国である。

 技術者も多く暮らしているとかで、このヒョーンさんもきっとその1人。

 渡された魔導具の品質は総じて高い。


「ソォォレは、アリシア殿の魔法理論を応用して造ったのですぞ」

「え?」


 1つ気になって手に取って見ていた代物。

 だが突きつけられる衝撃のカミングアウト。


「い、いや、僕なんの提供もしてないですけど……」


 魔法理論? 覚えはない。


「覚えてないですかな? 確かに書きましたぞ」

「そんな記憶は……」

「魔法学園の入試、魔法学の試験内容は?」

「…………魔法理論の小論文」 

「デスぞ!」

「え。ですぞ、じゃないでしょ!」

「パク……提供してもらいましたぞ」

「しかもパクったって言いかけてるし!」


 ど、どういうこと?


「実はワタシの開発室、御校と提携してるんですぞぉ」

「提携、ですか?」

「イエッス。君たちが授業や実験で使ってる多くは我が社のモノっ!」


 懐から自社のロゴを見せる。

 あ、確かによく見たことある。

 話を聞くに、どうやら学園の魔導具の多くはこの人が造ってるらしい。


「まだ春の頃。学園から凄い理論文があると連絡がありましてぇな。ワタシも渡されて見たわけですよ」

「はいはい」

「それがアリシア殿の! 素晴らしいモノでした!」

「あ、ありがとうございます」

「我々には自由な発想、それでいて超効率的な――――」


 長いので割愛。

 ただ褒めてくれてはいる、っぽい。


「……はぁはぁはぁ、そういうことで、造ったかんじ」


 年寄りとは思えないほど饒舌。

 しかし一区切りつくと、息が上がってヨロヨロと。

 放っておくのもな。

 軽くだが身体を支えてあげる。


「ウチの学校と関係があるのは分かりました。だけどあの小論文が使われてるっての初耳ですよ」


 道理で返ってこないと思った。


(もう俺も忘れてた……)


 ただデニーロ先生からはなにも聞いていない。

 使うなら使うで、一言説明があるはず。


「あー。返却することなく勝手に使いましたぞ」

「えぇ……」

「どうせ近い内会うからその時にでも的な感じですわ。わっはっはっは」

「……笑い事じゃないですって」


 たぶん先生たちももう忘れてたんだろう。

 書いた本人ですら申告することなく、記憶から消えてたわけだし。


「しかし! ワタシも無料(ただ)で使うほどクズではありません!」

「おおー」


 絶対対価ないと思ってただけに、素直に感嘆。

 

「というわけで! この魔導具全部差し上げます!」

「……え」


 床に散乱した細々した魔導具たち。

 なにか性能はある、ゴミだなんて言うつもりはない。

 で、でも――


「しゃ、謝礼金とかは……?」

「開発にキリキリまでつぎ込んでるんで厳しいですぞ!」

「……」


 はぁ、仕方ないか。

 もともと何かを貰うつもりで論文を書いたわけじゃない。

 この人に交渉してもどうせ進まない。

 細かいことは後でデニーロ先生に相談しよ。


「ふっふっふ。お金がないと聞いてガックリしてますな」

「正直そうですね」

「安心してくださぁい。そういう反応すると思って、実はとあるブツを――」


 瞳がギラリと輝く。

 ま、真剣(マジ)な感じだ。


(よ、よく考えてみれば、ただの学生にお金を露骨に渡すのは世間的に問題あるとか? でも代わりに高価な品物をくれるっていう――)


 誤解していたよ。

 このおじいさんも開発者(へんじん)の前に人なんだ。

 さぁ何だ。何をくれるんだ――


「じゃじゃーん!」

「わー………い?」

「アリシア殿が書いた(くだん)の小論文でーす!! ワタシが採点をしておきましたぞぉ!」

「……」

「さぁさぁ! 受け取ってください!」


 半ば強引に渡されたのは、見覚えがある文字が羅列した解答用紙。

 黒文字の上には、ちょっと汚い感じで赤い花丸がデカデカと書かれている。

 そして右上には『10000点』と記載されていた。


「100点ではなく、10000点ですなっ!」

「……」

「ヒョーン博士がここまでの点数を付ける、ひょーんな事もありますなぁ! わっはっはっは!」


 もうリアクションするのも……

 期待したよ。本当にしたんだよ。

 アンタも意味ありげに言ったし。



「……………………いらな」

 


 もはや言葉を取り繕う良心はない。

 数ヶ月という時を経て、解答用紙はどでかい花丸を得て俺に返却された。

 

 今回はボーンさんだけでしたが、

 今月の終わりあたり?には、エリザ(Ⅰ)やセローナ(Ⅱ)たちのイラストも載せる予定です。

 どうぞお楽しみに。

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