第73話「氷聖」
「――――っ!!」
選抜戦に際して開かれたセレモニー。
その会場に、センと共に高窓から半ば強引に侵入した。
そして相方は能力行使でグダり――
(……まぁイケるっしょ)
(お、このコンマ数秒で回復したのか!? 流石は剣聖!!)
(……いやいや。クレスが何とかしてくれるかなと)
(は!?)
(……着地、任せた)
重量に逆らうことなく、むしろ速度を上げて落下中。
下に……人はいない。
強いて言えば料理が乗った円卓があるくらい。
「センッ!」
「……ほーい」
気の抜けた返事をする剣聖様を空中で引き寄せる。
仕方ない。
最後まで面倒を見ようじゃないか。
「――氷魔法、造形!」
◆◇◆
同刻、同じくして場所はセレモニー会場。
それはクレスたちが落下する数分前のこと。
「――結局クレスのやつ来ねぇな」
「――うん」
僕の名前はウィリアム・コンラード。
ハーレンス王立魔法学園の1年生であり、選抜戦に選ばれた者であり、そしてクレス・アリシアの友人でもある。
僕と会話しているのは勇者の1人、コウキ・スガヌマだ。
「ところでよ、デニーロ先生は……」
「あそこに座ってるよ」
「うわぁ、顔が死んでるな」
「もう流石に来ないだろうしね。あと――」
懐中時計を確認。
残り1、2分で式は開始だ。
「ご愁傷様だぜ」
「だけどクレスも酷いよね。来るって言ってたのに」
「まぁアイツはお利口な感じして、結構破天荒だし」
「本人曰く、義理の姉風な師匠の影響が大きいらしいよ」
「義理の姉風ってなんぞ……関係から面倒そうな……」
かなり熱い人だとかなんとか。
クレスからして、たぶん普通の人じゃないだろう。
「でもクレスにとって、今一番めんど……大変なのは――」
会場の中心に注目。
そこには今回の華、ダークパープルの髪をなびかせた美少女がいる。
そう、帝国の戦姫ローズ・エーベルングだ。
(ただ雰囲気は不機嫌そうだけど……)
デニーロ先生の話だと、クレスに会うことをとても楽しみにしてたとか。
「あの戦姫さんと勇者っつー俺たち3人は、この式の前にだいぶ喋ったし」
「戦の天才と呼ばれる人だ。自分の部隊も持ってる。たぶん今のうちにクレスに息を掛けておきたいんだろうね」
「ん? 俺たちには?」
「勇者はなんかんだ言って王国の預かりで手を出しにくいんでしょ。それにその勇者の1人を倒した学生、興味を持つには十分すぎるステータスだ」
しかしクレスは何日も姿を消している。
事前に会おうとしたかは不明だけど、今日は絶好のチャンスで間違いない。
「キツいよねぇ。どこに居るって聞かれて、なんにも分かりませんって」
「教師としてどうなのって話になるか」
「減給にならないよう祈るとしよう」
「今度ジュースくらい奢ってやるか」
この調子だと秋の文化祭でどうなるか……
心労で倒れないと良いけど……
「――皆様、大変お待たせしました。これより式典の方を始めさせて頂きます」
壇上には進行役が登場。
会場中に開始のアナウンスが告げられる。
(時間は……ほぼピッタリ。そりゃ1人や2人いないだけで遅らせることはないか)
開始時間を正確に言えば1分早いかなーくらい。
ただそんなのは誤差も誤差。
気に留める必要も無い。
「まずは今年度の選抜戦責任者より、ご挨拶の方を――」
進行に促され、間もなく立派な服を着た人が登壇する。
言う内容は形式張ったもの、ただそれは選抜戦始まりの合図。
これより大会が本格始動するわけだ。
「本日はお忙しい中、お集まり頂き誠にありがとうございます。私は今大会を預かっておりま――」
あーあ。
やっちゃったねクレス。
もうコレは完全アウト――と思った瞬間だった。
ドガシャアアアアアアアアアアァァァァァン。
――轟。
突如として響いた衝撃音。
食器の割れる音、卓の柱が折れる音、色々な破砕音が混じり合っている。
それは要人の挨拶を止め、また会場中の注目を総取りした。
「――な、なんだっ!?」
「――凍ってる……」
「――う、上から何か落ちてきたぞ!!」
「―ー警備! 警備兵!」
人々がざわめく。
この位置からでも分かる、ホールのほぼ中心は氷が侵略していた。
それは冷たい霧を発生させ、この場の温度を下げていく。
魔力の残粒子、これは魔法だ。
しかしそれでいて規模や展開位置が緻密に計算され、損害を最小限に抑えている。
この一連の出来事に辺りは騒然としている。
すると氷霧の中から会話が聞こえてくる、そして近づいてくる足音も――
「――もう少し抑えて良かったんじゃない?」
「――無茶を言うなぁ。そもそもセンをこうして担いでやったんだから」
「――担ぐって……せめてお姫様抱っこと言おう」
1人は女性、聞き覚えはない。
ただもう1人の方は――
「……コウキ」
「……これギリギリセーフに入るのか?」
「……さぁ、なんにしても怒られるだろうね」
派手な登場だね。
主役は遅れてくるってかい?
まったく、流石と言わざるを得ないよ。
「け、剣聖様!?」
「もしかしてアリシアか!?」
教徒さんたちと、デニーロ先生が飛び出してくる。
誰よりも待ちわびていたせい、反応が誰よりも早い。
「おまたせー。ボクさんじょー」
「ったく、お待たせじゃないっての……」
黒燕尾を来た男はヤレヤレといった面持ち。
彼は白ドレスの小柄な少女を抱きかかえていた。
両者は共にとても美しい顔立ち。
驚かされたオーディエンス、恐怖や畏怖は感動感嘆へと強制的に塗り替えられた。
天より来たる、聖なる者と氷の担い手。
――――氷聖、ここに見参。
文量少なくてすいません。
活動報告でもお伝えしたんですが、
本作のイラストレーターは「あれっくす」先生です。
ツイッターのURL張っておきます。気になる方はチェックどうぞ↓
https://twitter.com/alexmaster55





