第69.5話「原因」
帝国からそう遠くないとある森。
それは最近になって魔獣が増加した場所。
そしてクレスとセンが目指す所でもある——
「準備はどれだけ進んでいる?」
「っは! もうまもなく第二陣は完成、第三陣の方も着々と準備が進んでおります!」
魔獣増加の原因。
それは——魔族であった。
「ふむ……」
「はい……」
しかもそれを実行しているのはただの魔族ではない。
「それでターナカ様、他に気になった点などは……?」
「特になし。持ち場に戻ってくれ」
「っは!」
ターナカと呼ばれた魔族は『元人間』である。
かつていた日本で事故に遭い、そしてとある魔族種に転成する。
その種とは——
『しっかしスライムだというのに、あの威圧感は凄いな』
『流石は堕天の魔王、グラシャラスに認められた方』
『今回は四天王たるターナカ様が指揮を執ってくださる』
『ああ。この作戦で勇者もろとも人間を滅ぼしてくれるわ』
森のアチコチで魔族が帝国に攻めるための準備を整えている。
ただし少数精鋭でだ。
その中心に指揮官たるスライム、ターナカは鎮座していた。
細心の注意を払い、人間にバレないよう事を進めている。
「……佐藤が行けとウルサイから渋々来たが、ここも大概だ」
魔族たちは小さな声でブツブツと。
その殆どは畏怖されてのものだが……
彼は同じく四天王の1人にして元人間、佐藤なる者に言われてここに来た。
今度こそ勇者を倒せと命じられたのである。
「最初はスライムなんてと絶望したが、いやはや、この種こそが戦闘では最強だ」
スライムとは一般的に最弱の魔獣として知られる。
三十路の彼でも某ゲームでだいたいソレは察した。
しかし工夫すれば意外、四天王になるまでの存在となる。
「ふっふっふ。同胞には悪いが、俺はスローライフを送りたいんでな」
いや元同胞か、そう付け加える。
「ここは実力主義の世界、情けはかけん」
やるかやられるかなのだ。
今は帝国を落とすため、下準備として静かに魔獣を増やしていた。
「最近になってようやく気づいて来たようだが、もう遅い」
気づいたと言っても、魔獣が増えてきたんだというレベル。
まさか四天王が姑息な準備、そして潜んでいるとは万が一にも思わない。
「これで——」
「た、ターナカ様!」
「む、どうした?」
魔族の1人が血相を変えて四天王の元に飛んでくる。
「そんなに慌てて……何かあったのか?」
「に、人間が来ました!」
「人間? また冒険者か? 対処はお前たちに頼んでいたはずだが」
「で、ですが、その人間がオカシイんです!」
「おかしい? まったく世話が焼ける。一体どんな輩が……」
使えない部下だなと内心でターナカは思った。
だがそれは仕方の無いことであったと、後から思う。
なにせ……
「————おーっと、大将っぽいのみーつけたー!」
深い森の中、力強い女の声が響く。
彼女の姿、ターナカも目視で確認する。
「おんな……?」
それは人間、真っ赤な髪と瞳を持っている。
背中には巨大な剣を背負っていた。
服は適当に着ているせいで多くがはだけ、露出した肌は陽の下でよく映えている。
「不穏な感じしたから来たんだけど、なんか面白そうなのいるなぁ!」
ハッハッハと笑いながら、ターナカへとゆっくり近づいていく。
彼女の歩いた道は煙を上げる、近くに草花や木々はチリチリと燃えていく。
——普通の人間ではない。
転生者たるターナカは一瞬でそう悟った。
「……何者だ!?」
スライムの薄い肌に緊張感が宿る。
赤い女はそれに対して飄々。
その静かな歩みを止めず。
ただ近づきながら、ニヤリと笑ってその正体を告げた。
「名はアウラ・サンスクリット!」
轟。
名乗った瞬間に豪炎が舞う。
辺りを圧倒的な熱量で融解、荒野へと変貌させる。
「——私は5番目の災厄!」
手甲に刻まれた『Ⅴ』の刻印を見せつける。
それは魔力を通し、真っ赤に輝く。
「災厄の数字っ!?」
「た、ターナカ様!」
「まさか勇者サイドに付いたとでも言うのか……」
赤い女はバーサーカー感を前面に。
ターナカの頬に流れた汗、それはきっと暑いからだけではない。
戦闘が始まるのを予期してこそ。
「スライム! お前をとりあえずぶっ倒す——!!」
「っく、俺に厳しいのはこの世界も一緒か——!」
炎の災厄と、スライムに転生した元人間。
今ここに衝突————
どうも。東雲です。
書籍の方、当初から言われていた事を思い出しながら執筆しました。
クレスが鈍感すぎるとか…ヒロインがチョロすぎるとか…
ラップ調も封印、ほぼ一から書き直しましたかね。
なのでこの書籍版に限っては、皆さんと一緒に書いたつもりです。
だから今より、もっともっと面白くなってるはずです!
少しずつですが、イラストや情報を公開していきます。
個人的にはナンバーズの集合イラストが気に入っています(笑)
あと実は、特典SSをどうするかずっと悩んでまして…
ネタがある、また読みたい話がある方は、今回の活動報告で是非教えてください。
どんな話でも構いません。1本は絶対採用します。(たぶん2本ぐらいは…)
そして最後に言いたいことは……
『アマゾン』や『楽天』などで既に予約が始まってます(宣伝です。スイマセン)
1巻だけでも、手に取って頂けたら幸いです。
Special thanks.
この素晴らしい読者方に祝福を!
よろしくお願い致します。





