第69話「剣聖2」
——帝都の冒険者ギルド本部。
俺とセンは朝一で出発するため、手続きをこうして前の日に済ませに来た。
「……賑わってる」
ギルド内部はクエストの受付をするだけでなく。
物品の売買所、飲み屋、休憩所など、様々な施設? エリア? がある。
「そりゃ帝都の中心、冒険者もたくさんいるよ」
数あるギルドでもトップクラスに大きい規模。
こう言っちゃ何だが此処は帝国、血の気が多い奴が結構いる。
自然と冒険者の数も増え、発達発展するのは当然とも言える。
「……ちょっとうるさいレベル」
「まぁ酔っ払いもいるしな」
「……うん」
「ただまだ良い時間だし、騒ぐのも仕方ない」
視線の先には豪快に酒盛りをする男たちの姿。
「……教国では見ない光景」
「あー、センは一応教徒だったか」
あの国は特殊。
ギルド支部もないし、確かに違和感を感じるのは仕方ないのかも。
「……一応って」
「だって食べ物のことばっかり、教徒とは全然思えない」
「……失礼な、ボクはちゃんと神の徒として日夜働いてる」
「働くって……せめて奉仕って言えよ。あと教徒は疲れた顔でそんな台詞は言わん」
「……だって神のためならなんでもするとか。……アホすぎるでしょ?」
どうやら相当ブラックな環境にいるらしい。
しかも信仰心が薄い……
ただ実力がある分、仕事にはよく駆り出されるらしい。
「ま、とりあえず受付を済ませよう」
「……おー」
ウィリアムには慈善活動をすると言って出てきた。
当分姿を消しても誤魔化せる……はず。
なんとか……うん、なんとかなる! なんとかなるはずだ!
(あの状況も何とかやり過ごせたぐらいだし。今回もきっと大丈夫)
自室にパンツを持ったセン、そこに訪ねてきたウィリアム。
久しぶりにあれほどの危機感を抱いたよ……
「——すいません」
「——はい。依頼の受け付けですね」
いくつも並ぶカウンターの1つ、座っているお姉さんに声をかける。
まずはあの店主に聞いた通りのことを話すが——
「ああ……あの森ですね……」
「やっぱり。問題になってるんですね?」
「はい。個々の強さはそうでもないんですが、いかんせん数が多くて……」
既に冒険者が何組かその森へと向かっているらしい。
「まだ大きな被害は出ていませんが——」
「……でてる」
「え?」
「……スイーツが食べれなかった」
魔獣のせいで材料不足、困った店主と出会いましたよ。
ただそんな神妙な口調で言うことでもないような……
「あらあら。妹さんは甘い物が好きなんですね」
「い、いや……」
センは低身長ゆえ、カウンターに何とか背伸びして顔を出すレベル。
その必死な様相と訴えにお姉さんもクスクスと笑っている。
「……妹じゃない」
「え!? 彼女さんですか!?」
「……違う」
「な、なら、まさか娘さん……?」
いや、そんな大袈裟な。
もう悪乗りしてるだろ。
お姉さん自体は真剣に訪ねてくるけど——
「コイツはまぁ相棒、ですかね。な?」
「……今はそんな感じ」
「へえ、そうなんですかー」
剣聖ですとカミングアウトするには場が悪い。
絡まれるのも面倒なんでな。
ここぞという時までは極力黙っている方針だ。
「あ、ごめんなさい。話が逸れましたね。それで具体的な内容なんですが——」
仕事の内容を詳しく聞いていく。
簡単に言えば2つ。
魔獣を沢山討伐する。後は相手の規模を確認する。
「リーダーとなる方。どちらかギルド証の提出をお願いします」
「はい」
俺が出そう、というかセンは持ってないだろうし。
しっかりと偽造済みのソレ。
クレス・アリシアという存在はここで露見するが、致し方ない。
「で、後は……ここにお二方のサインをお願いします」
さ、サインか……
しまった。
普通にセンも名前を伝える必要あったんじゃんか……
「……ぬぬぬ」
「ん?」
俺は既にサイン済み。
後はセンだけなわけだが、つま先でプルプル震えながら紙面へと向かっている。
そりゃ書きにくいだろ。
「よっと」
「……お」
「パパッと書く」
「……屈辱」
本当に妹を……いや、あまり妹に例えるのはよくない。
思い出すからな……
やったことはセンを抱っこ。
(見た目通り、かなり軽いな)
持ち上げてサインを書かせる。
センの性格のせいか、それとも出るとこが出てないせいか、こういう行為をしても羞恥心は湧かない。
「セン……かの剣聖と同じお名前なんですね」
「……一緒」
ただ俺と違いセンは名前だけ。
出身や所属は不明のまま。
受付のお姉さんも彼女を剣聖とは思わなかったらしい。
そりゃ俺ももっと筋肉ムキムキの怪物女を想像してたし……
「——これで受付は終了です」
「ふぅ」
「……おおー」
黙って行くという手もあるが、バレた時が面倒。
別に悪事を働こうってわけじゃないんだ。
最低限のことは済ませてから帝国を出る。
もうギルドに用はなし。
後は——
「ようよう! 可愛い姉ちゃんがいるじゃんかー!」
受付を去ろうとした俺たちを阻む人物が。
格好からして冒険者以外の何者でもない。
「ねえお姉ちゃん、俺と一緒にのまなーい?」
「ちょっとトーラスさん!」
「へっへっへ」
受付嬢から注意が飛ぶが男はてんで気にせず。
退くことも無く、そのまま迫ってくる。
これは面倒な——
「……四次元域、発動」
「あ?」
しかし男は何故か迫る途中でひっくり返る。
すさまじい勢いで180度回転したのだ。
「え! あ、っちょ!」
本来足があった所に頭が、頭があるはずの所は脚部に入れ替わる。
その一連はまるで大道芸のような。
そしてそのまま落下して——
「いってぇええええええええええええええ」
ゴツンと鈍い音。
堅い床に頭を打ち付ける。
男が間抜けなドジを踏んだと思い、酒場は一層盛り上がる。
だが——
「……行こう」
「あ、ああ」
センに促されてこの場を後にする。
そしてギルドを出た後に尋ねた。
「セン、さっきのはもしかして七天武具の……」
「……そ、面倒だったから」
「まさか酔っ払い相手に使うとは……」
空間を支配するという指輪。
その力の断片をこんな所で見れるとは思わなかったよ。
(結構やっかいそうな能力かもな。接近戦に特化した奴なんかは特に——)
この付き合う期間で情報を集めよう、そして聞き出しもする。
悪いが俺は善心に満ちた人間じゃ無い。
相応の対価は頂いていく。
「…………らしかった?」
「え」
「ボクは教徒、らしかった?」
静かに口を問いを声にする。
「……さっき、ボクは教徒っぽくないって言われたから」
「あ、あー」
「……一応じゃ無いよ。……クレスを、助けたもん」
「最初の話か」
「……うん。人を助けるのも教徒の務め」
口調は変わらないが、これまでの軽い調子ではない。
なぜそこまで気にするのかはアレだけど、真剣に尋ねられている。
「ああ。助かったよ」
「……っ」
「ありがと、セン」
「……そ、そう、感謝するなら良し」
感謝するついて、何となくで頭を撫でておく。
その綺麗な白髪に触れる。
身長的にも丁度撫でやすいポジションなんだよなぁ。
「あれ、もしかして照れる?」
「……照れてない」
「でも顔がちょっと赤いような……」
「て、照れてない!」
俺を無視してスタスタと早足で進んでいく。
(自分から褒めてくれって言ったようなもんだろうに)
素直だか素直じゃないんだか。
「おーい! 置いてくなよセン!」
「……早く来る」
ホント、彼女の小さな背中を見て思い出すよ。
死んだ妹のことを————
遅れてスイマセン。
土曜日はちゃんと日中に間に合わせます。





