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第68話「剣聖」

「——すげぇなおい」

「——姉妹なのかね?」

「——しかも妹の方? めちゃくちゃ食ってるぞ」

「——なんにせよ可愛いなぁ」

「——ロリロリロリロリロリ」

「——僕はキツそうだけど銀髪の人の方が……」



◆◇◆



「俺は男なんだけど……」

「……ボクもロリじゃない」

「いやアンタはロリだろ」


 いま俺たちは帝都のとある飯屋にいる。

 俺たち(、、、)と表現したのは自分以外の人物がいるからで……


「セン、お前どんだけ食うんだ……」

「……食べ盛り、クレスも沢山お食べ」

「お食べって、ここ俺の奢りなんだけどなぁ」


 数十分前、俺はアイスを幼女の頭に落下するという事件を起こした。

 しかも相手はあの『剣聖』である。

 真剣を抜かれた時は流石にヤバいと思ったけど——


「まさか『飯の支払いをしろ』なんて言われるとは思わなかった」

「……お腹空いてた」

「まぁ悪いのは俺だし、好きなだけ食べてくれ」

「……わーい。……くれすだいすきー」

「好きアピールするなら、もう少しちゃんとやって」


 剣聖の名は『セン』

 白髪はくはつで低身長という中々目立つ容姿。

 ただそれは俺の銀髪も同様。

 

(他の客は俺たちのこと姉妹だと勘違いしてるくらいだし)


 確かに髪とか瞳は同系色だよ。

 だが俺のことはしっかり男だと見抜いて欲しかった。

 

「よくもまぁそんな小さい身体に、こんだけの飯が入るよなぁ。どれだけ胃袋がデカいのやら」

「……レディに失礼なこと言わない」


 アウラさん並みに食べてるぞ。

 

「ただそれで俺と同い年って言うね」

「……何が言いたい?」

「剣聖って言うぐらいだ、もっとムキムキなイメージがあった」

「……偏見やめ」


 センはおそらく身長150もない。

 ちなみに詳しい数値は聞いたけど教えてもらえなかった。


「……クレスは良い人」

「飯を奢ったから?」

「……それもあるけど。……とても話しやすい」

「あ、そう」

「……ボクの周りはウルサイのばかりなんだ」

「大変だなぁ」

「……うん」


 確かに、剣聖(セン)は個人的にとても喋りやすい。

 なんかこうテキトーというか……淡白な返しがいい。

 出会ってすぐに名前で呼び合うぐらいだ。

 異性でここまで噛み合う人物はたまにしかいない。


(コミュニケ―ションのしやすさ、同い年じゃトップクラスかも)

 

 それは実力の方でもだけど——


「聖剣は普段からその黒いケースで運んでるのか?」


 垣間見た時、聖剣の仕舞い方は少々特殊だった。

 刃、鞘、黒ケースという順。

 ケースに入れてるのは襲撃された時とか、手間だと思うんだけど……


「……これは外出用、鞘の外装が派手すぎるから」

「へえ」

「……見てみる?」

「あ、ここでは取り出すな。目立つんだろ?」

「……確かに。……本末転倒だった」


 相対してみると知能はそう悪いわけではなさそう。

 ただ全身から『かったるい』オーラが出てる。

 口調からもそれは察し。


「それで、その指にしてるのが……」

「……七天武具(セブン・マテリアル)の1つだよ」

「2つ所持は凄いなぁ」

「……聖剣か指輪、どっちかあげようか?」

「え!? ホントに!?」

「……ふふ、冗談」

「デスヨネー」


 分かってました。分かってましたよ。

 ちょっと幼女のお遊びに付き合っただけです。


「……ごちそうさまでした」

「はいはい。よく食べました」

 

 どうやら満足したらしい。

 支払いを済ませて店を出る。

 やれやれ、結構な出費になった……

 行く当てもなくただ道を()く。


「……それで夕食はどうする?」

「もう!? まだ昼過ぎだぞ?」

「……すぐお腹がすく」

「というか夜はちょっと——」

「……王国の学生に、アイス落とされたって報告し——」

「オッケー! 夕飯も付き合おう!」 


 バッチリなサムズアップを決める。

 まさかハーレンスの王族相手にならともかく、彼女を神聖視する教国連中にでもチクられたら……

 

「というかソレ軽い脅迫だぞ」

「……うん」

「うんって。俺はまだいいけど、あんまりそう言うのがクセになると友達できないぞ?」


 俺は友達が欲しいとも作りたいとも思ってない。

 ただ周りが寄ってくるだけ。

 だが彼女の居場所は教国だけしかないだろうし。

 

「気を付けることをお勧めする。ただでさえ剣聖って身分が——」

「……友達いない」

「え?」

「……約15年、未だ友達を作れた試しなし」

「そ、そうか」


 相変わらずの無表情。

 口元も眉も、ピクリとも動かない。


(じゃあもしかして、このお祭り期間でもずっと独りでいるのか——?)


 辺りは長い祭りに向け、準備をしている人の姿がたくさんある。

 忙しいそうだが、その人たちはみんな笑顔。

 それだけ楽しみなのだろう。


「…………正直、この選抜戦にも参加はしたくなかった」

「理由は?」

「……メンドイ」

「ならなんで……いや愚問か、上の連中に行けって言われたんだろ?」

「……その通り」


 そもそも来たくなかったと。

 俺は最近だけど、この任務に一層前向きになり始めてる。

 勉強や魔法以外にも、発見が増えて来たのだ。


(なんか似たような境遇だな……)


 性格や思考にも共鳴するものがあるし。

 自分で言うのも何だが、似た者同士?


「まあ良いさ。今日はとことん付き合うよ」

「……ありがと」


 すまない我が友人たち。

 突発的、今日はちょっと外せない用事が出来た。

 会った時にちゃんと謝ろう。


「女の人と外出、これはまたスミスにグチグチ言われ——」

「……ふふ」

「お、笑った」

「…………笑ってない」

「いや今しっかり——」

「……クレスの目が悪い。……気のせい」


 絶対に認めない方針。

 小さくだけど、確実に笑ったぞ……

 これでも監視役を数ヵ月、観察眼は成長してる。


(ずっと無表情なせいで、表情が変化すると余計目立つ)


 感情に乏しい奴かと思ってが、意外とそうでもない。

 俺よか、どっちかって言うと(ローラン)さんみたいなタイプ。


「それで、これからどうする?」

「……屋台に行く」

「また飯!?」

「……飯ではない。……甘いヤツだし間食」


 本人曰く、特に食べたいものは事前にピックアップしているらしい。

 しかも店の場所もしっかり把握している。

 というわけで彼女が先導、それに付いて行くが————



◆◇◆



「販売してない、ですか?」

「おう。材料になる果実が全然入って来ねぇんだ」

「材料が入ってこない……」

「なんでも魔獣? が急に増えたらしい。採取しようも森に近づけないんだと。相手も結構強くて、冒険者たちも手を焼いてる」

「なるほどなるほど」

「ギルドもクエストとして出してくれてはいるが、すぐ解決はしないと思うなぁ」


 センと共に来たが、お目当ての物はなし。

 ただ売り切れではなく、そもそも置いてない。

 

「……店主」

「どうしたお嬢ちゃん」

「……その森と魔獣について、詳しいことは分かる?」

「えー森は帝国から馬車で2、3日で着く所にある。ただ魔獣についてはあんまり知らん。ギルドに行けば少しは分かるかもしれないが」

「……ん、その果実を獲って来れば作れるんだね?」

「おうよ。他の材料は揃ってる。というか俺も祭りの前に入手しないと割とヤバくて——」


 今は準備期間。

 商売をする者としては、本番に参加できないのはツライだろう。


「……なら、ボクたちが獲ってくる」

「え! ホントか!?」

「……任せて」

「おいおい待てセン!」


 突然自分たちが一件を解決すると言う。

 

「……なにクレス?」

「なにってお前、勝手に仕事受けようとしてるからだよ」

「……ボクは剣聖、これは善意からの人助けで——」


 グウゥゥ。

 剣聖様のお腹から腹の鳴る音が。


善意から(、、、、)の?」


 空腹からのの間違いだろ!

 ジロリとした目を向けるが——

 

「……だ、だが困っている人は放っておけない」

「でもだな……」

「ボクたちは国の代表として来ている。つまりはその国の人柄を体現しなくてはいけない。困っている人物を目の前にして『はい。そうですか。頑張ってください』だけで終わっては恥さらしも良いところで——」


 ここに来て初めて饒舌に喋る。

 今までのイメージが払拭されるほどのマシンガントーク。

 ただ目が完全に「食べ物のため」と語っている……

 どんだけ食べたいんだよ……


「はぁ、分かった。気持ちは伝わったよ」

「……なら」

「だけど片道に2、3日は使う。6日後にはパーティーが始まるぞ? そっちもサボったら色々言われるんじゃ?」

「……間に合う。……うん、間に合えば問題ない」

「自信はあるのね……」


 確かに俺と彼女が手を組めば、大抵の魔族は圧倒できる。

 今日を除いて猶予は5日と数時間。

 

「……明日の朝に出発すれば、ギリまにあう」

「そうだけど」

「……お願い、クレス」


 ——それなら自分1人で行けば。

 そんなセリフは吐けなかった。

 数か月前の俺なら言えていたのだろうか?

 

 こっちは監視もある。

 ……いやでも勇者は既に軟禁状態。

 侵入してまで監視するのはリスクが高すぎる。

 ようは時間に余裕があるかと考えれば……時間はある。


「……それに、今日はとことん付き合うって言ってくれた」

「ぐぬっ」

「……でもそれ抜きに……1人は寂しいから……」


 俺の袖をキュッと掴む。

 ただ力は弱く、ほどくのは簡単だ。


「お兄さん。彼女さんがここまで言ってるんだ。付き合ってやんな」


 一人称は俺だったし、会話も聞いてる。

 店主さんがお兄さんと分かっているのはそのせい。


「剣聖様も女の子だし。店やってる俺からもお願いするぜ」


 男なら放っておくな

 そして商売人としても、自分たちのためにお願いできないか、と。


「その代わり来た時はサービスすっから! なあ剣聖様!?」

「……サービス!」

「おうよ! 大大大サービスする!」

「……クレス!」

「はぁ、オッケー。やる。やるよ」

「「おー!」」


 店主さんとセンが一緒になって拍手を送る。

 

「……今日は準備」

「相手の情報を知るのと、ギルドにクエスト受理のお願い、後は——」

「……周りへの言い訳」

「だな。まる5日空けるんじゃ何かしら弁明しておかないと」


 ただ『剣聖と2人でクエスト行ってきまーす』は色々めんどそう。

 もう少し良い言い訳を考えないと……


「……それとパーティーの準備も」

「ん?」

「……コッチに帰ってきてすぐ行けるように。……クレスの部屋に私の服も置いてく」

「なるほど、名案だ」


 帰ってきてからのモタツカナイように。

 

「……なら早速」

「ああ。まずはギルドに——」

「……違う。次の店」

「は!?」

「……5日も空ける。……今の内にできるだけ」

「おいおい……」


 どんだけ破天荒なんだよ。

 だがいいよ。

 付き合うと言った手前、もうツッコミはしない。


「……じゃあ店主、また今度」

「おう! 待ってるぜ!」


 別れを告げると、センは俺の袖を掴みグイグイ引っ張っていく。

 それはさっきと違い力強い、むしろ強すぎるぐらいで……


「そ、そんなに引っ張るな!」

「……時間がない」

「空腹で仕方ないの間違いだろ!」

「……てへ」

「今更可愛い子ぶっても遅い」


 なんて奇縁だろうか。

 だが剣聖は剣聖で興味もあった。

 監視相手も一時変更。

 

 俺はセンと2人で、当分を過ごすこととなった———— 

 



遅れてすいませんでした。

明日も更新するつもりですが、間に合わなかったら日曜日になるかもです。

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