第63話「上位3」
「——光神の加護!」
ケンザキを中心、ステージが光に支配される。
照射される輝き、見る者の瞳孔を開かせる。
「ほう……」
輝きは瞬間、次第に収まる。
メタモルフォーゼ。
変わったケンザキの姿を見て、俺は素直に感嘆した。
「——普通に強そうじゃんか」
輝く疑似鎧と剣を装備。
光の勇者と表現するに相応しい人物が目の前にいる。
「驚いたかアリシア!?」
「ああ」
「そうだろうそうだろう! 俺は確実に強くなった!」
「……みたいだな」
「正直降参を勧めたいぐらいだよ!」
いやいや、お前にそんな事言われる筋合いはない。
コッチだって相応の覚悟を持って来てる。
ちゃんと俺を見てくれる人がバックに控えてる。
「造形、氷剣」
派手な奴に対して俺は冷たい劔が一振り。
「とりあえずバチバチに行こうか——」
らしくない発言とスタイル。
臨むのは剣戟のスタイルウォーズ。
既に鳴ったゴング、アウラさん張りに今日は熱いもの拵えてんだ。
「勝負!」
「へえ! アリシアの方から来るんだ!」
実況も歓声も耳に入らず。
手始めにぶっ飛んだ身体、速射砲から出たみたいに速度を上げる。
重ねた強化魔法、到達するトップスピード。
「俺はもう召喚されたばかりの頃とは違うっ!」
勇者と相対、振りかぶった氷の一斬りは見事に受け止められる。
身体と身体がぶつかる至近距離。
ならばと半身を喰い込ませんが勢いで攻め込んでいく。
「良くなったけどまだまだ!」
弾けた光粒子が宙を舞う。
ひとまずの近接、技術重視の力比べ。
(ま、俺からしてみれば測定ってとこだけど——)
剣を打ち合って分かる。
ケンザキの刃には努力の影が確かに見える。
異能による強化幅も上々、出会った当初とは別人のようだ。
「隆起しろ。氷波」
ならば今度は離れた距離から仕掛ける。
フィールドを侵す、現れるのは氷群だ。
「し、下から!?」
「どんどん行くぞ」
槍状に氷を生成、大会規定を超えない威力と量で狙い打つ。
限度とされる第5階梯ってのはソコソコ強い魔法を意味。
(相手がよっぽど弱いか急所を狙われない限り、死ぬことはまず無いだろう)
ただ同じ5階梯でも、魔力の質や構築具合で色々変わる。
「あ、危な!」
「……動きは結構甘いな……」
地表に氷が突き上げる。
足場を崩し軽い空中戦へ移行させる。
「ッ! 喰らえ!」
距離を取った所にケンザキが光を波線状に飛ばしてきた。
「異能は飛び道具としても使えるようになったと……」
しかし速度も威力もソレナリ。
避けるか弾くかして事終わる。
逸れた残光は衝撃だけを残す。
「氷槍」
此方からも反撃。
空中に展開、何発か氷製の鋭い先端を飛ばす。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ソレは雄叫びを上げた奴に撃ち落とされる。
ケンザキも随分気合が入ってるようだ。
なにせ俺を倒さなくては本選へはまず行けない。
(俺だって倒すつもりではいる。ただ仕事だってキチンとこなす)
自分から戦法や距離感をちょくちょく変える。
それは何も勝つためだけでなく、ケンザキの成長を測るためでも。
実戦でしか得られないデータもある。
「光の神よ!」
「ん?」
「まずはこの場を——!」
光を一層強く放つ。
するとだ。
なんと俺がフィールドに生成した氷が解けて行く。
「これは……」
「俺の加護は無敵だ!」
光の放射、そこには熱の効果があるのか?
「いいや——」
氷は解けたというよりも消えた。
奴の光は熱を帯びているわけではない。
今までに観測したことのない事象が目の前で起きた。
「アリシアは小細工ばかりだからな。もうあの技で決めてやる」
「……噂の必殺技か?」
「そうだ! 今日でお前がチヤホヤされる日も終わりだ!」
鍔競り合いは一時終了。
開始と同じくらいの距離位置に戻る。
「なるほどようやく——」
勇者ケンザキのとっておきが見れる。
さんざん引きずってきたネタ。
もし今までが物語なら、読者はもう忘れかけ。
同じく一読者な俺も若干興味を失いかけていた。
「行くぞ! アリシア!」
気でも溜めているのか剣を構えたまま動かない。
本来ならこの隙にでも仕掛けるべき。
普通に倒せる。
(ただ必殺技とやらの正体は知りたいし、たぶん何とかなるだろう)
しかし今更だが異能に対し、大会は何も制限を設けていない。
正確には設けるのを忘れたのか?
後々問題になりそうな——
「スガヌマやワドウは、自分でその辺を配慮してたっぽいが……」
現在相対している奴はどうだろうか。
加減しようなんて微塵も思っていなそうな……
「光の加護よ! 魔を討つ滅ぼす力をここに!」
試合自体は始まってそう時間は経っていない。
それでも収穫は多かった。
(ケンザキがここ一番のピカピカ具合。これから来るのを防いだら……)
「勝ちを頂こう——」
俺も同じくして魔力を高める。
奴の光は魔力と別物のようだが、果たして上限はどこまで行くか。
(類似した光魔法で言えば6階梯ぐらいはギリ行ってそうな気もする。いやもっと上がるか?)
運営に苦言を呈すのは今じゃない。
正面から受けきってみせる。
「俺の異能はどんな魔法だって消す!」
勇者は光を帯びただけでなく、纏ったソレを周囲にまき散らす。
すると所々で凍っていた場所が融解。
氷は溶けるよう、本来の無機質なステージへと戻っていく。
「俺の異能は魔法を消せる」
「……わざわざ明かすのか?」
「っは! 手向けだよ!」
相変わらずのセルフ種明かし。
当初微々たる強化だけだと思っていた加護には、魔力を分解する効果があるらしい。
「覚悟!」
ケンザキが走り出す。
輝きに満ちた刃が迫ってくる。
「氷剣で——」
「分解!」
剣戟をしよう、そう思って抜いた氷刃が一瞬で塵となった。
「っ!」
折れた武器、すかさず斬り込んでくる。
どうやら元が魔力ならソレは分解の対象になるそう。
なるほどそれが必殺へと繋がる、そう言いたいわけね。
「だが!」
「ッ……ァ……!」
俺の武器が通じないと踏んで隙を見せたのがダメ。
もはや剣も槍も不要。
強化魔法だけの徒手組手へ。
放った拳がケンザキの懐へ突き刺さる、が——
「身体に触れた途端強化魔法が消された……」
「っ死ね!」
「おっと」
奴の身体にも光は宿る。
強化は半解除、ほぼ素の腕力でのみの攻撃となった。
「でもそう言うの見慣れてる——!」
異能ってのは強力無比。
俺だって相手の魔法を凍らせて無力化できたりする。
しかしソレは異能でブーストしてるだけ。
根本を言ってしまえば『魔法』であり、今使えば反則だ。
(その点ケンザキは異能オンリー、魔法じゃないから制限もないと……)
面倒極まりない。
異能の基準設定について、運営は後で怒られ——
「光全開!」
「おいおい!」
躊躇いなしのフルスロットルパワー。
フィールドに残っていた僅かな氷も塵となる。
また輝きに当てられたせい、俺が身体に掛けていた強化魔法も強制的に解除させられた。
しかし一番の問題は——
「観客席の魔法壁が……!」
安全を考え、フィールドと観客席は透明な魔法壁が隔てている。
それが光の異能のせいで打ち消される。
その壁は魔法には強くとも、異能には弱いってか。
「ケンザキ!」
「一気に決める! これで——!」
「全然聞いてないしっ……!」
視界の隅には騎士たちが慌てて動く姿が、しかしそれじゃあ間に合わない。
見ている全ての人が混乱に陥る。
『ケンザキ選手はいよいよ決めの態勢! これは危険だ!』
『実況してる場合か! 避難は——!』
此処になって俺もより冷静に。
ケンザキからオーラが一層強く感じられる。
マジで打つ気だ。
『アイザック先生!』
『ッチ! 騎士が展開する防御陣まで打ち消しやがる!』
盛り上がっていた人もまた異変を感じ始める。
俺の視線は自然とあの場所へ。
VIP席、クラリスさんたちのいる所だ。
丁度俺の真後ろに控えている。
「喰らえアリシア! 必殺の一刀、皇極!」
ここぞとばかり、ケンザキの大技が炸裂。
大地を抉る、極大の光がレーザー状に放たれる。
「ッ!」
グングン伸び迫る極光。
大気を焦がす。
「避けることはできるが……!」
ここで躱せば後ろの観客に直撃する。
もっと言えばクラリスさんにも。
騎士団長が全員を完璧に守れるかなんて分からない。
「どうする——」
刹那の思考、コンマ何秒かの停滞時間。
ここで回避して死者が出ても、それは俺のせいじゃない。
熱くなり過ぎたアイツが悪い。
でも万が一、クラリスさんやスミスたちが死んでも仕方ないと言えるだろうか?
「……義理を忘れるなかれ」
極光が俺に接触するまであと1、2秒。
もう迷っている暇はない。
「——解放!」
魔力庫から解き放つ。
白銀の粒子をこの手に。
彼女を顕現させはしない、片鱗は見せない。
だがあの魔法分解を上回るだけの力を寄こせ。
規則だと5階梯を超える?
(助けてやるんだ! もう知らん!)
ラッキーだったな観客。
俺が普通の生徒じゃなくてさ。
「起こせ! 万象を凍らす女王の息吹!」
奴の異能による魔力分解も、それが適応しきれないくらいの魔力量でゴリ押し。
分解が間に合わないほどパワー。
真っ向勝負、力でねじ伏せる。
「——万象凍結!」
白銀の魔力が会場を覆う。
光に対峙、その勢い全て凍付かせる。
「バカなっ!」
「バカはお前だよケンザキ!」
放ったのは8階梯9階梯の代物。
上限をブッ飛ばすハイスケールの技だ。
それは俺の足元から一帯を氷で染め上げる。
超高速の侵略、全部を全部冷たいオブジェへ変えるのだ。
ステージ上を全て。
1回戦の時とはちと違う。
物質だけでなく、異能や魔法さえもその手中に収めるのだ。
「——そして観客の度肝もってか」
相対するケンザキを飲み込む。
ここに誕生する2、30タール級の氷山。
2回戦最終試合、それは終結ならぬ氷結で幕を降ろした。
更新遅れてすいません。
今回のは水曜日分で、木曜日分は金曜日にズレ込みます。
感想欄については、悩んだ末当分解放しないことにしました。
解放の目途は立っていません。
よろしくお願いします。





