第59話「発表」
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静寂を破る甲高い連続音。
それはすぐ傍から俺に朝を告げる。
「……ン」
目覚ましが歌う、その前に。
鳴った瞬間には手が伸び、アラームを消す。
意識はもう冴えわたっている。
もうというかは昨日からずっと。
「全然寝れなかったな……」
瞼を閉じても眠気は一切来なかった。
緊張してではない。
あの予選以来からずっと抱く謎の感情のせい。
『そんなに悩むなら、その感情を凍らせれば?』
「監視で得たモノを考え無しに消すのは得策じゃない」
『ふーん』
「もう少し吟味してから決める」
『クレスが残すっていうなら口出ししないわ』
エルも早朝から平常運転。
俺も身体確認、健在だ。
部屋についても扉や窓に仕掛けた罠に異常なし。
起きていたから今更、侵入者の痕跡もないな。
——いつもの朝だ。
「といっても今日は……」
選抜戦、5人の代表を決める上位大会の開催日。
予選ブロックを勝ち抜いた16人と今日相対する。
「まあ当たって2人だけどな」
トーナメントは公平を期すため当日発表。
組み合わせにもよるだろうが、俺は勝っても2回戦まで。
それ以上に行くつもりはない。
途中で不調を訴えて棄権するつもりだ。
『パパっと勝った方が絶対楽なのに……』
「ああ。今回は苦労するだろうな。なにせ騎士団長や観衆の視線に晒される」
いかに立ち回るか。
俺の実力を少なからず認知している関係者が観客にいる。
魔法をそれなりに使いつつ、自然に場を収めなくてはいけない。
「大変な1日になりそうだ————」
「お、今回はクレスが最後だな」
「待たせた」
自宅より出発。
俺は学園でスミスたちと合流した。
しかしまだまだ時間は早い。
選手だから早めに集合しただけで、母校に生徒の姿はボチボチいるだけ。
「とりあえず凄い装飾だな」
「そりゃ王都の一大イベントだから」
「生徒会主導で色々やったらしいぞ」
「つまり愛が皆を動かした、そういうことだね」
「「「ウ、ウン……」」」
会場となるだけあって、門やら校舎に豪奢な装飾が施される。
流石に金持ってるなあ……
あとスミスも朝っぱらから絶好調。
だいぶ良いパンチをくれる。
その口調とか台詞、いい加減どうにかならんかね。
「朝刊でトーナメントは告知されるらしいけど……」
「見てきてねーぜ」
「せっかくなら掲示板で見たいしな」
「つまり愛」
「「「それは違うような……」」」
学園に人は少ないと言ったが、皆無ではない。
運営と思われる生徒がちらほらと動いている。
たぶん掲示板にトーナメント表が張り出されているはず。
俺たちはとりあえずソコを目指して歩く。
「確か午前が開会式とかで、昼過ぎから試合だったよな?」
「ああ。16人だけだからあんま急ぐ必要ないんだろ」
それでも早く来た理由は、簡単に言えばソワソワしてたから。
俺はそうでもないが、3人はメラメラ燃えている。
家でじっとはしていられないとか。
早く集合して、皆でウォーミングアップをしようという話になっていた。
「おっと、見えてだな」
「下向いて行こう。近づいて一斉に見るみたいな?」
「いいとも」
「いよいよか……」
大通りを歩いて掲示板の方へ。
頼むから1回戦の相手が勇者は止めてくれ。
棄権するにしても、流石に1回ぐらいは勝っておかないと示しがつかないんでな。
「よし。心の準備はいいかい?」
「まだ見てないからな……」
「愛! 愛! 愛!」
「さて誰が相手かな」
掲示板の手前、全員が俯きながらの横並び。
見上げたその先に組み合わせがある。
隣人たちから緊張の空気を感じる。
(皆ドキドキしてるな……)
ちょっと笑ってしまう。
別に侮蔑の意はない。
ただ相当真剣に考えているんだなと。
さんざん鍛錬の成果、本気で戦いと言ってたからな。
まるでプレゼントを開ける寸前の子供のように見えてしまった。
「クレス! 号令を!」
「え、俺?」
「早くしてくれクレス」
「愛が止まらない……」
「わ、分かった」
ここまではウィリアムが先導していたが最後は俺に委ねるらしい。
なんだかなあ……
ただ俺が言わないと始まらない。
「じゃあせーので行くぞ」
「「「ああ」」」
「良し。なら、せー……」
の!
音頭と共に全員がガバっと頭を上げる。
目の前には大きく掲示された1枚の紙があった。
そこには————
「1回戦の相手は……先輩か……」
俺は1回戦の最終試合らしい。8試合目だ。
まず結論から言うと俺の相手は勇者ではない。
そして隣にいる3人でもない。
どうやら王立所属ではない、一般校の生徒らしい。
いやはや、これなら1回戦は無事に勝てそう。
(だけど……)
チラリと視線を動かす。
俺の名前のすぐ隣には『ユウト・ケンザキ』の文字がある。
つまり2回戦の相手、場合によってはケンザキになるということ。
「いや——」
おそらくケンザキは勝つだろう。
そんな気がするのだ。
だとしたら俺は2回戦で敗退か。
5位決定戦まで進み棄権しようかと悩んでいたが、これでハッキリと道が決まる。
まさか勇者に勝利するわけにもいかない。
当然負ける。
これが正しい選択だ。
「皆意外とバラバラだなぁ」
「当たるとしてもべスト4ぐらいか」
「というかクレスの2回戦、ケンザキ君なんだね」
「……そうなるとはまだ決まってない」
「あはは。勝負に絶対はないか」
「……ああ」
否定しつつも、今回に限り絶対はある。
なにせ当の本人、俺が負ける気なのだから。
それなりに魔法を見せた上で上手いこと敗退するつもり、ただそれでもケンザキに敗北か……
(少し、嫌だ)
周りからの評価を考慮するに、正直2回戦ぐらいは進み……
いや違うな。
それ以前にケンザキに負けたくないんだ。
それでも任務。
仕方ないこと。
——俺は変化を、望まない。
「そう言う事なら、僕の2回戦も勇者であるワドウさんになりそうだ」
「スミスは1回戦の第1試合かぁ……」
「初っ端……」
「問題ないさ。僕はいつだって最高のパフォーマンスを発揮できる」
選手の名前が横に並ぶ中、先頭にスミスの名がある。
そんな愛の戦士、一発目の相手は——
「キルレット・オイゲン……」
「去年の予選優勝者だね」
「おいおい! 優勝候補の1人じゃんか!」
「落ち着きたまえコウキよ。まったく問題ない」
「「「おー……」」」
スミスの初戦の相手は去年の予選覇者。
ここ王立魔法学園の3年生だった。
しかし本人の表情は余裕綽々といった様子。
まったく動じていない。
「僕の愛の籠った魔法を使うには申し分なさそうだ」
「愛の籠った……」
「ふっふっふ。なにせ『男』が相手だからね」
「男が相手だと何か有利なのか?」
「気分の問題さ。ウホッ」
うほ……?
幻聴か?
ともかくスミスの顔はこれでもかとキリッとしている。
心配するだけ杞憂だな。
これはワドウさんとの戦いも期待がもてる。
「組み合わせ的には、スガヌマとウィリアムは良い場所にいったな」
「うん。クレスや勇者さんたちとは準決まで当たらないね」
「極論言っちまえば5位以内に入りゃいいし」
「だが————」
「「もちろん目指すは優勝!」」
だそうだ。
といってもスガヌマとウィリアムはほぼ本選行き確定。
スミスは2回戦のワドウさんに勝てるかが肝だ。
ただ俺も人のことばかり言っていられない。
こっちもこっちで色々考えないとな。
「ずっと居てもなんだし、とりあえず移動しようぜ」
「だね。荷物も置きたいし」
「ウホッ」
「あの、スミス……」
「なにか?」
「い、いや、なんでもないよ。聞き間違えだったみたいだ」
どうやら幻聴が聞こえたのは俺だけでないらしい。
会話をしながらも足は進める。
体感的に、気付いたら試合になってそう。
どうも時間の流れが速く感じる。
「2回戦、か————」





