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第59話「発表」

※大幅加筆で書籍化! 

 スニーカー文庫から2018年4月1日に発売!

 静寂を破る甲高い連続音。

 それはすぐ傍から俺に朝を告げる。


「……ン」

 

 目覚ましが歌う、その前に。

 鳴った瞬間には手が伸び、アラームを消す。

 意識はもう冴えわたっている。

 もうというかは昨日からずっと。


「全然寝れなかったな……」


 瞼を閉じても眠気は一切来なかった。

 緊張してではない。

 あの予選以来からずっと抱く謎の感情のせい。


『そんなに悩むなら、その感情を凍らせれば?』

「監視で得たモノを考え無しに消すのは得策じゃない」

『ふーん』

「もう少し吟味してから決める」

『クレスが残すっていうなら口出ししないわ』


 エルも早朝から平常運転。

 俺も身体確認、健在だ。

 部屋についても扉や窓に仕掛けた罠に異常なし。

 起きていたから今更、侵入者の痕跡もないな。

 ——いつもの朝だ。


「といっても今日は……」


 選抜戦、5人の代表を決める上位大会の開催日。

 予選ブロックを勝ち抜いた16人と今日相対する。


「まあ当たって2人だけどな」


 トーナメントは公平を期すため当日発表。

 組み合わせにもよるだろうが、俺は勝っても2回戦まで。

 それ以上に行くつもりはない。

 途中で不調を訴えて棄権するつもりだ。


『パパっと勝った方が絶対楽なのに……』

「ああ。今回は苦労するだろうな。なにせ騎士団長や観衆の視線に晒される」


 いかに立ち回るか。

 俺の実力を少なからず認知している関係者が観客にいる。

 魔法をそれなりに使いつつ、自然に場を収めなくてはいけない。

 

「大変な1日になりそうだ————」











「お、今回はクレスが最後だな」

「待たせた」


 自宅より出発。

 俺は学園でスミスたちと合流した。

 しかしまだまだ時間は早い。

 選手だから早めに集合しただけで、母校に生徒の姿はボチボチいるだけ。


「とりあえず凄い装飾だな」

「そりゃ王都の一大イベントだから」

「生徒会主導で色々やったらしいぞ」

「つまり愛が皆を動かした、そういうことだね」

「「「ウ、ウン……」」」


 会場となるだけあって、門やら校舎に豪奢な装飾が施される。

 流石に金持ってるなあ……

 あとスミスも朝っぱらから絶好調。

 だいぶ良いパンチをくれる。

 その口調とか台詞、いい加減どうにかならんかね。


「朝刊でトーナメントは告知されるらしいけど……」

「見てきてねーぜ」

「せっかくなら掲示板で見たいしな」

「つまり愛」

「「「それは違うような……」」」


 学園に人は少ないと言ったが、皆無ではない。

 運営と思われる生徒がちらほらと動いている。

 たぶん掲示板にトーナメント表が張り出されているはず。

 俺たちはとりあえずソコを目指して歩く。


「確か午前が開会式とかで、昼過ぎから試合だったよな?」

「ああ。16人だけだからあんま急ぐ必要ないんだろ」


 それでも早く来た理由は、簡単に言えばソワソワしてたから。

 俺はそうでもないが、3人はメラメラ燃えている。

 家でじっとはしていられないとか。

 早く集合して、皆でウォーミングアップをしようという話になっていた。


「おっと、見えてだな」

「下向いて行こう。近づいて一斉に見るみたいな?」

「いいとも」

「いよいよか……」


 大通りを歩いて掲示板の方へ。

 頼むから1回戦の相手が勇者は止めてくれ。

 棄権するにしても、流石に1回ぐらいは勝っておかないと示しがつかないんでな。

 

「よし。心の準備はいいかい?」

「まだ見てないからな……」

「愛! 愛! 愛!」

「さて誰が相手かな」


 掲示板の手前、全員が俯きながらの横並び。

 見上げたその先に組み合わせがある。

 隣人たちから緊張の空気を感じる。


(皆ドキドキしてるな……)


 ちょっと笑ってしまう。

 別に侮蔑の意はない。

 ただ相当真剣に考えているんだなと。

 さんざん鍛錬の成果、本気で戦いと言ってたからな。

 まるでプレゼントを開ける寸前の子供のように見えてしまった。


「クレス! 号令を!」

「え、俺?」

「早くしてくれクレス」

「愛が止まらない……」

「わ、分かった」


 ここまではウィリアムが先導していたが最後は俺に委ねるらしい。

 なんだかなあ……

 ただ俺が言わないと始まらない。


「じゃあせーので行くぞ」

「「「ああ」」」

「良し。なら、せー……」


 の!

 音頭と共に全員がガバっと頭を上げる。

 目の前には大きく掲示された1枚の紙があった。

 そこには————


「1回戦の相手は……先輩か……」


 俺は1回戦の最終試合らしい。8試合目だ。

 まず結論から言うと俺の相手は勇者ではない。

 そして隣にいる3人でもない。

 どうやら王立所属ではない、一般校の生徒らしい。

 いやはや、これなら1回戦は無事に勝てそう。


(だけど……)


 チラリと視線を動かす。

 俺の名前のすぐ隣には『ユウト・ケンザキ』の文字がある。

 つまり2回戦の相手、場合によってはケンザキになるということ。

 

「いや——」


 おそらくケンザキは勝つだろう。

 そんな気がするのだ。

 だとしたら俺は2回戦で敗退か。

 5位決定戦まで進み棄権しようかと悩んでいたが、これでハッキリと道が決まる。

 まさか勇者に勝利するわけにもいかない。

 当然負ける。

 これが正しい選択だ。


「皆意外とバラバラだなぁ」

「当たるとしてもべスト4ぐらいか」

「というかクレスの2回戦、ケンザキ君なんだね」

「……そうなるとはまだ決まってない」

「あはは。勝負に絶対はないか」

「……ああ」


 否定しつつも、今回に限り絶対はある。

 なにせ当の本人、俺が負ける気なのだから。

 それなりに魔法を見せた上で上手いこと敗退するつもり、ただそれでもケンザキに敗北か……


(少し、嫌だ)


 周りからの評価を考慮するに、正直2回戦ぐらいは進み……

 いや違うな。

 それ以前にケンザキに負けたくないんだ。

 それでも任務。

 仕方ないこと。

 

 ——俺は変化を、望まない。


「そう言う事なら、僕の2回戦も勇者であるワドウさんになりそうだ」

「スミスは1回戦の第1試合かぁ……」

「初っ端……」

「問題ないさ。僕はいつだって最高のパフォーマンスを発揮できる」


 選手の名前が横に並ぶ中、先頭にスミスの名がある。

 そんな愛の戦士、一発目の相手は——


「キルレット・オイゲン……」

「去年の予選優勝者だね」

「おいおい! 優勝候補の1人じゃんか!」

「落ち着きたまえコウキよ。まったく問題ない(・・・・・・・・)

「「「おー……」」」


 スミスの初戦の相手は去年の予選覇者。

 ここ王立魔法学園の3年生だった。

 しかし本人の表情は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった様子。

 まったく動じていない。


「僕の愛の籠った魔法を使うには申し分なさそうだ」

「愛の籠った……」

「ふっふっふ。なにせ『男』が相手だからね」

「男が相手だと何か有利なのか?」

「気分の問題さ。ウホッ」


 うほ……?

 幻聴か?

 ともかくスミスの顔はこれでもかとキリッとしている。

 心配するだけ杞憂だな。

 これはワドウさんとの戦いも期待がもてる。


「組み合わせ的には、スガヌマとウィリアムは良い場所にいったな」

「うん。クレスや勇者さんたちとは準決まで当たらないね」

「極論言っちまえば5位以内に入りゃいいし」

「だが————」

「「もちろん目指すは優勝!」」


 だそうだ。

 といってもスガヌマとウィリアムはほぼ本選行き確定。

 スミスは2回戦のワドウさんに勝てるかが肝だ。

 ただ俺も人のことばかり言っていられない。

 こっちもこっちで色々考えないとな。


「ずっと居てもなんだし、とりあえず移動しようぜ」

「だね。荷物も置きたいし」

「ウホッ」

「あの、スミス……」

「なにか?」

「い、いや、なんでもないよ。聞き間違えだったみたいだ」


 どうやら幻聴が聞こえたのは俺だけでないらしい。

 会話をしながらも足は進める。

 体感的に、気付いたら試合になってそう。

 どうも時間の流れが速く感じる。

 





「2回戦、か————」

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