第53話「調整」
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段々と気温が高まっていく気候。
明るい時間が長くなる。
ようやく夏が見え始めたという感覚。
あと1、2ヵ月すれば夏本番になるだろう。
「よーし、テストを後ろから回収しろー」
選抜戦で盛り上がる学園、ただ学び舎だということも忘れてはいけない。
今日この時、俺たちはペーパーテストを受けていた。
ただ教師たちも目前に控えた予選を考慮してだろう、だいぶ内容は優しい。
この分だと学期末のレベルが上がりそうだ。
「……全員分あるな。ならこれで試験は終わりだ」
デニーロ先生が漏れがないことチェック。
不備もなくこれで今日は終わりだ。
最近は学校も早めに終わる。
なにせ1週間後には予選が始まるのだから。
各自練習を……いや、最終調整に入る時期だろう。
「終わったぜええええええええええええ!」
「スミスうるさい」
隣に座るもんだから声量がダイレクトに伝わる。
そんな興奮しないでくれ。
まあ今やっていた魔法学が今回で一番難しかったからな、解放されて嬉しい気持ちは分かる。
ただ魔法学のテストと言えばだ、俺が入学試験で解いたやつはどこにいった?
周りは採点されて返ってきたそうじゃないか。
今度デニーロ先生に聞いてみるかな……
「後は年末まで行事尽くし、楽しみばっかりだぜ」
「行事ねぇ……」
もうすぐ訪れる夏には選抜戦の予選と本選。
軽い休暇を挟んだ後、秋には学園祭が待っている。
冬は長期の休暇が与えられるそうだ。
帰省する人も多いらしいが、俺は監視の任務がある。
イレギュラーが発生しない限り、この国から出ることはないだろう。
(帰省っていうか、向こうから来そうなもんだけど————)
いま俺に最も近づいて来ているのはアウラさん。
ただ目撃情報やボスの話を聞いてそれなりの時間が経った。
それなのに邂逅することは一度だって無い。
太陽殺しが居たという噂を聞くことすらない。
もともと極度の方向オンチかつアホってこともあるが、遭遇しないはしないで不安である。
この大陸にはきっといる。果たしてどんな所にいるのやら————
「クレス! 早く訓練場行こうぜ!」
「そう急かすな。支度する」
試合前だけあってテンションが高い。
この大陸で育った学生にとってはビックイベントだからな。
Sクラスだけあって参加者も多い。
周りもせわしなく動いており、なんだか大変そうだ。
見ればスミスだけでなく、ウィリアムとスガヌマも俺を待っている状態。
分かったから。すぐ行くよ。
「選抜戦、か————」
場所を移っていつもの練習場、最後の調整に入る。
3人とも魔力の扱いはそこそこ出来るようになった。
第5階梯の魔法までなら無詠唱で使えるまでに。
一番成長が顕著だったのはスガヌマだ。
適性は雷属性。
自主練中はその属性を重点的に育てた。
最初は魔法しか面倒を見ないと言ったが、体術も俺がそこそこ指導したつもり。
まあ元々近接戦に才能があったな。
運動神経もさることながら、動体視力や反射もかなり早い。
選抜戦は魔法だけでなく体術も使用可能。
本人には明言していないが、正直スガヌマは本選に行けるだろう。
だから異能も限界まで隠すように言ってある。
続いてはウィリアム。
スタイルはかなりオーソドックス、王道とでも言うべきか。
魔法を混ぜつつ堅実に剣を振るう。
派手な技は無いが、その分隙もない。
中級の魔法騎士ぐらいならもう倒せるレベルじゃないだろうか。
ともかく同世代でトップレベルの実力は持つ。
本選へ行くことも十分可能だ。
それでだ。
最後はスミス。
コイツが一番教えるに苦労する。
なにせ使う魔法のほとんどが『特殊』なのだ。
俺の予想もつかない非常識な魔法を使用する。
ただ弱くはない。むしろ相手によってはスガヌマ以上に活躍できるだろう。
ある意味で魔法の境地に手を掛けている。
スミスの出立ちは数字に通ずると思う。
実技練習で披露すれば笑われる時もあった。
だがしかし、俺が教えたことでソレは更なる進化を遂げる。
本気は出すなと言ってあるが、もし見ることになれば観客はどんな反応をするかな。
まあまずは男子校で勝ってきて欲しいところだ。
俺はどうなんだって?
3人ばかりに焦点があって影が薄くなってる?
そりゃ目立つわけにはいかないからな。
これでも優秀の範疇を出ないようかなり努力しているんだ。
まあ予選で知り合いと当たることはない。
上位予選には行く予定だ。
後は不調を訴えて棄権、これが俺の描くシナリオ。
面白くないと感じるかもしれない。
だが何度も唱えた、俺は任務第一主義だってな。
あと勇者たちとコミュニケーションをとって判明したこともある。
まずはマイさん、彼女は選抜戦に出場しないらしい。
どうやら本格的に支援タイプを目指しているらしく、自衛の術も得ているようだが今回は見送るらしい。
出場するとしたら来年以降だそうだ。
後はワドウさんとケンザキ。
彼女らも被ることなくバラバラにブロック分けされた。
たぶん国の配慮があるんだろう。
目立たないブロック予選で戦わせるカードじゃないわな。
やはり俺の理想としては、スミスたち3人には本選に行って欲しい。
戦姫たちにどれほど通じるか見てみたい。
あと俺が勇者と当たればシナリオ上わざと負けるしかない。
つまりケンザキと当たった時点で俺の敗北は決定する。
なんだか癪だ。
いっそスミスたちに勝ってもらたいところ。
さあ選抜戦が始まるぞ————





