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第53話「計謀2」

「本当に余計なことをしてくれたな————」

「も、申し訳ありません————」


 俺の名は佐藤。

 魔王に仕える、いわば腹心という立場にいる者だ。

 補佐役とも呼ばれるな。

 今は余計なことをしてくれた魔族を説教中。

 俺や魔王様の知らないところで勝手に動いたらしい。

 しかも失敗するって、せめて成果は出せよ。


「今度やったらクビだから」

「は、はい……」


 かつて俺は日本という国いた。

 ブラック企業に勤め過酷だった毎日。

 常に寝不足と疲労でフラフラ、たぶん過労死したんだろな。

 気付けばこの世界にいたよ。

 そしていつの間にか此処の魔王の補佐を務めるまでになっていた。


「ほ、本当に申し訳ありませんでした」


 魔族ってのは力があるが、いかんせん自信過剰だ。

 今回だってハーレンス王国に独自の判断で魔族を送ってしまう。

 これで向こうのガードが固くなるだろうが。

 グランツ兄弟が失敗したこともあり、もっと慎重に動くつもりだったのに……

 魔界といえど縦社会。

 謝っているから今回はペナルティーで済ますが、次は物理的に首が飛ぶぞ。


「もういい。行け」

「は、はい……!」

 

 こっちだって三十路で体力ないんだわ。

 疲れることしてくれるな。

 まあ見た目が人間なだけで、身体は魔族仕様なんだけど。

 でも元の世界でサラリーマンやってた方が辛かった。

 脱ブラック企業、俺はできるだけホワイトな魔王統治国家を目指す。

 ただルール違反する奴は今回みたいに厳しく取り締まるつもりだ。

 

「サトー! 我が帰ったぞ!」


 俺が説教していたのは玉座のある部屋。

 突如として男の野太い声が響き渡る。

 振り返る。空席だったそこには何時のまにか魔王様が座していた。

 堕天の魔王グラシャラス。

 俺のこの世界での上司だ。

 瞬間移動の魔法、気付かなかった。

 流石の魔法練度である。


「お疲れ様です。魔王様」

「うむ」


 とりあえず挨拶、これは社会の常識。

 指導の甲斐あって最近では魔族たちもやってくれるようになってきた。

 魔族は個々の力は強くても、結構自分勝手な奴が多い。

 こういうところから組織としての意識を持たせていく。

 魔界は実力主義とは言いつつも、やはり統率が難しい。

 まあ魔王様が王の中でも緩いことが結構起因するんだろうが————


(この人の管理は雑すぎる。俺がいなかったら今頃どうなってたか……)


 堕天の魔王なんて呼ばれるが、正確には堕落の魔王だ。

 面倒くさがって戦いのことばかり。

 俺の素性もどうでもいい感じだし。


「勝手に動く者がいました。魔王様からも言ってください」

「既にサトーが(さと)したのだろう? 我が出るまでもない」

「またそんなことを……」

「今回の件、圧を細かく掛けるというのはそう悪くない策と思うのだが?」

「……悪くはないです。しかし良いとも言えません」

 

 部下の管理について協力を申し出るが話をズラされる。

 話題は部下が勝手に魔族を仕向けたことについて。

 確かに愚策ではない。プレッシャーをかけて向こうを少しずつ消耗させることが出来る。

 それでも少し前に本命のグランツ兄弟もやられてしまったばかり。

 勇者を率いるハーレンス王国もそうだが、帝国や教国にも強者が無駄に多い。

 強固に籠城させるよりは、また暗殺を仕掛けた方がより有効だった気がする。

 人間だった俺だから分かる。アイツらは生きるために何でもする。

 その闇の深さは魔族の比じゃない。


「そういえば、人間たちは近い内に大規模な祭りをするそうだな?」

「選抜戦と言うらしいですね。4国の学生たちが競いあうとか」

「その時には仕掛けるのだろう?」

「むしろその時で仕留めようとしてました。なのに今回のせいで一層警備を堅くさせるっていう……」


 2度目の失敗はしないと色々策を練っていた。

 だが今回の件で全て台無しになる。

 考えれば考えるほどムカついてくるぞ。

 本当だったらあの失態を犯した魔族の首をはねたい。

 だが誰にだって失敗はある。

 感情に任せて処罰を下すことこそ思考の放棄。

 愚の骨頂と言えよう。


「その選抜戦とやら、いっそ我が出向くというのはどうだ?」

「ダメです」

「むー……」


 現地には優れた魔法騎士や冒険者が多くいるだろう。

 魔王様でも簡単に事は運べない。

 それでもし勇者の首を獲れたとしても、他の魔王の動きが怖いんだ。

 隙をついて此方に襲撃してくる可能性も十分ある。

 魔王様は本当の本当に必要な時だけ活躍してもらう。

 

「それに王は普通前線に出ないです。大人しくしていてください」

「だが……」

「ダメなものはダメです。代わりに『彼』を向かわせるつもりです」

「なに? まさか————」

「そのまさかです」


 脳裏には1人の男が思い浮かぶ。

 自分と同じ日本出身の『元人間』だ。

 今は四天王の1人として活躍している。

 そんな彼を選抜戦とやらの本選に仕向ける。

 どうせ勇者は勝ち上がって帝国に行くだろう。 

 そこで首を頂く。


「ふっふっふ。お前が奴を使うとはな」

「今度こそ是が非でも成功させたいですから」


 もう野良の魔族を雇うことはしない。

 自分たちが持ち得る最高戦力を送り出す。

 人間たちもまさか四天王が1人で来るとは思うまい。 

 しかも奴は最近になって表舞台に出てきた。 

 情報統制にも力を入れているので、潜入も余裕だろう。


「あと数ヵ月後……」


 策を練り直す時間はある。

 要となるあの男には既に話を通してある。

 彼を倒せるのは魔王、もしくは災厄の数字(ナンバーズ)ぐらい。

 勇者を襲う、前者が邪魔してくることはまずないだろう。

 災厄の数字(ナンバーズ)についても、まさか勇者の味方をすることはあるまい。

 そもそも同じ人間からも畏怖される存在なのだから。


「さあ勝負の時だ————」


 過酷すぎる社会で培った俺の知恵と戦略がバックアップ。

 これが大本命。

 最弱のモンスターとされるアレに転生してなお、その実力で四天王に上り詰めた男が()くぞ。

 

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