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第52話「組合」

 ハーレンス王国、選抜戦の予選表が遂に発表される。

 今年の参加者は700半ば、例年に比べて100人ほど多いそうだ。


「あぁ……」

「そんなに落ち込むなよスミス」

「うぅぅぅぅ……」

「ダメだなこりゃ」


 俺たちもついさっき学園の広場に掲載されたトーナメント表を見てきた。

 今回は全部で16ブロックに分けられる。

 1ブロックあたり50人いないぐらいだろうか。

 その約50人の中で頂点を獲った者だけが、上位予選に行くことが出来る。

 最終的には16人で出場5枠を懸けて勝負をするというわけだ。


「まだスミスは落ち込んでるのかい?」

「なんか大変そうですね」

「よっぽどショックだったんだろうな」


 ウィリアム、ケイネル、スガヌマが慰めの言葉を掛ける。

 ケイネルは参加しないものの、このグループでは俺を含め4人がエントリーした。

 そしてツイていることに4人とも被ることなく、別々のブロックに決まった。

 確率は低いが、全員が上位予選で当たる可能性もあるということ。

 そうなるかもと考えたら少しワクワクもする。

 まあ現時点で泣きをみている奴もいるが————


「なんでだ、なんで俺だけ男子校なんだああああああああああああああああああ」


 教室内にスミスの叫びがこだまする。

 ただ皆も慣れたので変な目を向けることなく全無視。

 いつも通りだなといった空気が流れるだけだ。

 俺たちも特にツッコミを入れることもない。


「別にそこまで気にすることではないだろ」

「いいやあるね。あそこはアッチ系で有名なんだ」

「「「「アッチ系……」」」」


 俺は他校についてほとんど知らない。

 ただスミスの行く予選の会場、そこはどうやらボーンさんの親戚が多いらしい。

 

「しかもだ! そこのブロックだけは何故か男子だけ(・・・・)しか選ばれてないんだぜ!?」

「へ、へー」

「普通だったら女の学生もいるだろ! なんで予選に男しかいないんだよ!」

「たまたまだよ。うん……」

「絶対掘られる! お前らもそう思うだろ!?」

「「「「どうかな……」」」」


 確かにおかしな話だ。

 予選にエントリーしてる人数は700人超。

 女子も半分とは言わずとも数百人はいるだろう。

 ランダムで決まるはずのブロック分け。

 本来であればどこのブロックも男女混合になるはずなのだ。

 だがしかし、何故かスミスのいる所だけは男子オンリー。

 しかも舞台はアッチ系で有名な学校らしいし……


「あわよくば試合中に相手のオッパイを触ろうと思ってたのに……!」

「そっちが目的かよ」

「だが男しかいなんじゃそんなことも出来ねえ!」

「なら上位予選まで上がればいいだろ」

「簡単に言うなや! どんな変態がいるか分かったもんじゃねえぞ!」


 大丈夫。お前以上の変態はそういないだろうさ。

 少し前までは消沈していたが、余りに悔しさ今度は興奮している。

 

「スミス君は女子にモテないし、これが良い機会かもよ?」

「いや良い機会どころか最悪の予選になるぞ」

「新たな扉が開く可能性も……」

「万が一にも無い」


 スミスは女の子が大好きだもんな。

 それでも予選で変な影響を受けてこないか心配だ。

 最近は飢えすぎてか、俺に対する視線もいやらしいような気がするし……

 まあコイツに限った話じゃないが、やけに女装を勧めらることが多くなった。

 個人的にやるつもりは一切無いけど。

 

「————話は聞かせてもらったわ」


 昼休みに形成される5人の輪、そこに割り込む者が現れる。

 自信満々に来たその者の名はリンカ・ワドウ。

 自称『()の伝道師』だ。

 俺は未だにその腐という概念が理解できていないんだけど。


「どうやら面白い所に行くみたいね」

「面白くねーよ!」

「あ、面白いというかは最高の場所(・・・・・)の方が表現的には正し————」

「最低の場所だわ!」

「……なかなか鋭いツッコミするわね。やっぱりケルビン君は『タチ』タイプかしら」


 出ましたワドウさんの謎単語、及び謎ワールド。

 魔力ではない謎の黒いオーラが溢れ出す。

 更に眼鏡の奥がギラリと輝く。

 まるで魔王を相対しているみたいな緊迫感がある。

 なんだか身の危険を感じるのだ。


「舞もそう思わない?」

「わ、私?」

「ケルビン君がタチ説」

「ちょ、ちょっと良く分からないかなぁ……」


 静かにテンションを上げるワドウさん。

 それに対しマイさんは苦笑いを浮かべるのみ。

 同じ異世界人でもなかなか踏込にくい領域なのだろうか。


「クレスよ。俺と予選会場交換してくれ……」

「それ不正行為だぞ」

「くぅぅ……」


 泣くなって。

 ちなみに俺はセンテール学園という会場で予選をする。

 平民だけが通う学校で、所在地も平民区だ。

 皆に聞いたところごく普通の学校らしい。

 特出した点のない、いわば平凡な所というわけだ。

 まあスミスの舞台よりマシなのは確かだろう。


「あとは————」


 視線を動かし見つめるのは1つの空席。

 そこには普段ユウト・ケンザキという男が座っている。

 この場に勇者が3人いるために、彼の監視はできていない。

 広場で組み合わせを確認しているのか、はたまたどこかでフラついているのか。

 何にせよ俺はケンザキのことが気になっている。

 少しだけ聞いてみるか————


「そうだスガヌマ」

「ん?」

「ふと思い出したんだが、結局ケンザキの必殺技とやらはどうなったんだ?」

「あーそれが未だに教えてくれねえんだよ」


 自然な流れで軽く尋ねてみる。

 やはりスガヌマも把握できていないらしい。

 気になる……

 なにせ俺は今まで奴の無様な姿しか見てない。

 そんなケンザキがどれだけ進化したのか楽しみなのだ。

 あの拍子抜けな異能の真の力、いやはやどうなったのか————


「俺、優斗と当たったら勝てるかなあ……」


 俺は楽しみにしているが、同じ勇者という立場のスガヌマは不安だろう。

 お気楽な俺たちと違い、彼らは王国の期待を一身に背負っている。

 珍しく弱気になっているようだ。


「大丈夫だ。スガヌマなら良い結果が出る」

「でも優斗みたいに必殺技なんてねえし……」

「そんなもの後でいいんだよ。大事なのは基礎だって何度も言ったろ」


 魔力の練り方から初歩の魔法を重点的に鍛えた。

 中級までなら無詠唱で行ける。

 これで大抵の学生は倒せるはずだ。

 後は異能もあるしな。問題はない。

 

「基礎……うん、そうだったな」

「厳しく鍛錬したからな、努力は裏切らないよ」

「クレスの放課後練はマジで鬼畜だったからな。あれで結果が出ない方がおかしい」

「その通り。生きていながら死を体感したぐらいだもん」

「アレやれば嫌でも強くなるわ」

「いや、そんなに酷いことはして————」

「「「いるよ!」」」


 そ、そうか……

 ただ予選までもう少し猶予がある。

 最後まで油断することなく、しっかり調整していこう。

 俺は行かないが、スガヌマたちが本選に行けるように願っておこうか。

 夏はもうすぐだ。

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