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第51話「発案」

「選抜戦! クレス、お前を討つ————!」


 スミスは高らかにそう宣言する。

 その動機は、俺が女子と仲良くなっていることを妬んだから。

 また自分はこの学園の非モテ男子たちの代表でもあるとか。

 友人とはいえ、俺のことは許せないようだ。

 モテるって言うならケンザキの方にまず行けばいいだろうに……

 まあアイツは最近1人でいることが多いけど。


「そっかー頑張れよスミス」

「応援してます」

「死んだら立派な墓を建ててあげよう」

「待て待て! みんな反応薄すぎだろ!」

「「「それはまあ————」」」


 どうせクレスが勝つ、そう言いたそう。

 俺としてもスミスに負けることは恐らくないと思っている。

 でも良かったな。

 建前でもクラリスさんが『応援してます』って言ってくれたぞ。

 

「だけど、戦ってみないと結果は分からないしな」

「その通りだぜクレス!」

「さっきまで絶対に当たりたくないって言ってたのに……」

「コロコロ変わるなあ」

「そこ! 綺麗に終わったんだから余計なこと言わない!」


 ともかくスミスに一層意欲が湧いたなら良かった。

 意識が高ければそれだけ練習の密度も上がる。

 自主練できる時間もうそうあるわけではないのだ。

 スミスの一連の行動は一見バカみたいだが、まあ実際バカなんだけど。

 そうやって()ぐにバイアスを掛けられるのもまた才能。

 将来は良い魔法使いになれる、と思う……

 性犯罪を起こしてお縄につく事だけはやめてくれよ。


「じゃあクレスが俺たち3人の誰かに負けたら、女装して学園祭のミスコンにエントリーな」

「……は?」

「今年のミスコンに強敵は多いが、決して1位が狙えないわけじゃないし————」

「ストップ。なんで俺にペナルティがあるんだよ」

「お前どうせ余裕すぎて選抜戦つまんないだろ? 刺激だよ刺激。罰があった方が引き締まると思ってな」

「そりゃ余計なお世話————」

「面白そうじゃんか」

「いいね。前々からクレスの女装には興味があったんだよ」

「お前ら……」


 変態か?

 女装女装女装って、どんだけ見たいんだよ。

 俺は男だって何度も言ってるのに。

 ただスミスたちは妙にやる気を出してる。

 しかし俺がそこまでする義理もない。

 それに途中で棄権することが決まっている。

 そもそもミスコンとやらに男の俺が————


「それ! 良いアイデアですね!」

「クラリスさん……?」

「べ、べべ、別にクレス君の女装姿が見たいってことじゃないですよ!」

「いやでも……」

「催しとしてアリかなと。私情はまーったく関係ないです。全然無心です」

「……」


 そんなオモチャを手に入れたばかりの子供みたいな表情で言われても……

 いやはやクラリスさんも乗り気になってきている。

 そもそもあのスーツを選びに服屋に行った際もずっとお人形扱いされた。

 俺を着せ替え人形とでも錯覚しているのか?


「決まりだな」

「いやでも、俺に対する褒美はあるのか?」


 勢いづくものに逆らっても仕方ない。

 ここは正攻法で論破を試みる。

 こっちは女装でコンテストに出なきゃいけないかもしれないんだ。

 俺が勝った時、相応の報酬がないと納得はできないぞ。


「逆にクレスが俺たちに勝った場合か……」

「お金とかどうだ?」

「流石に金銭はマズいような……どうするか……」


 ふっふっふっふ。

 悩んでいるようだな。

 そもそも俺以外の3人がブロック予選を勝ち上がるかも分からない。

 なにせ上がれるのは600人、700人中から十数人なんだ。

 相対するにしても相当低い確率。

 それと相応の物を用意できないなら残念。

 話はこれで終わ————


「な、なら私と1日デートできるとか、どうでしょう……?」

「「「「1日デート!?」」」」


 スミスたちが唸り声をあげる中、クラリスさんが思い切って言葉を発す。

 その内容は俺たちがまったく思いつかないものだった。

 

「なるほど。それは学園の男子、いや王国の男なら誰もが憧れるモノだね」

「しかも金じゃなくて1日付き合うだけだもんな。健全だ」

「デート……」

「スミス?」

「こりゃ本当にクレスには負けられないぜ……」


 え、みんな普通に了承する感じですか?

 公爵令嬢だから無理でしょ。そんなことは誰も言わない。

 俺の感性がズレている……?

 なんか話がどんどん進んでいくぞ。


「最後の確認。俺たちの誰かがクレスに勝ったら学園祭で女装、退(しりぞ)けたのなら会長とデートだ」

「え、あの……」

「よっしゃ何か気合入って来たぜ!」

「僕もだよ。やっぱり懸けてるモノがあると違うね」

「私も男の人がミスコンに出れるよう、一応動いておきます」

「いやだから……」

「選抜戦! 楽しみだぜ!」


 あーもう完全空気だ。

 最後もスミスが締めちゃうし。

 この現状、どうやら勝負を受けるしか道はないようだ————

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