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第44話「前触」

「うーん……」


 昼休み、固いパンを咀嚼(そしゃく)しながら先の出来事について考える。

 俺は隙を見て王城に潜入した。

 そこで俺はもう1人の勇者の存在を知ってしまった。

 あれがフェイクだとは思えない。

 おそらく5人目(・・・)は確かに存在している。


「どうしたよクレス?」

「今日はよく唸ってるよね」

「女の子の日か?」

「……俺は男だ」

「デリカシー無さすぎだよスミス君」

「すまんすまん。悪気はないんだ」

「いやなんで俺が女で話が続いてんの?」


 もう慣れたノリだ。

 だけどスミス、そんなんだから女子に避けられるんだよ。

 なんでも女の先輩たちにまで警戒されているとか。

 どんだけの……いや、今気になるのはやはり5人目のことだけだ。

 目の前にスガヌマはいる、だが尋ねることは叶わない。

 世間には公開していないこと。

 おそらく勇者たちも口止めされているはず。

 そもそもこの王国の何人が知っている情報なのか。

 それすらも検討がつかない。


「まさかクレス……女か……?」

「女?」

「好きな奴が出来たとか……」

「いや別に————」


 ……ってクラスの視線が凄いな。

 女子の反応速度が数字(ナンバーズ)級だぞ。

 ただこれといって手を出してくるわけでもない。

 敵意や殺意とは別物。

 何とも言えない、ワドウさんが持つような独特な気を女子たちは醸し出す。


「でもまあ、クレスは女子とかどうでもよさそうだしな」

「というか同世代にあんまり興味ないんじゃないの?」

「あーそれは分かる」

「確かに。舞踏会でもお姉さま方には特に気に入られてたな」

「お姉さま方!? どういうことだよウィリアム!」

「スミス君声が大きいよ」

「いやいや重要なことだぜ!」


 スミスは謎のやる気を出す。

 ホント元気だよな。

 ある意味そんなことで一喜一憂出来るのが羨ましいよ。

 コッチはやること考えることばかりで忙しい。

 

「それともアレか? 金欠とかか?」

「そういえば一人暮らしだったね」

「王城に空き室あるっぽいし、騎士団長に相談してみ————」

「いやいや、全然普通に暮らせてるから」


 経済的な理由なのかもと察し、色々提案をしてくれる。

 ありがたいが、俺は1人が一番だ。

 王城に住めば監視しやすい?

 アルバートさんがウロウロしてるんだぞ。恐ろしいわ。

 それにメンタルがもたない。

 マトモに誰かと一緒に暮らしたのって、記憶にある内だとアウラさんだけかも。

 ちなみに寝るときのベットが一緒でも大丈夫なレベル。

 ただ抱き着かれて寝るもんだから、個人的には色々とマズイ時も————


「それでも俺はクレスが心配だ」 

「急に真面目になったなスミス……」

「ということで! 週末にクエスト行こうぜ!」

「「「おおー」」」

「いやクエストって、生活費は十分にあるん……」

「じゃあ9時に学校集合な!」

「「「おう」」」

「聞いてないし……」


 だがスガヌマが行くなら俺も行く。

 ちなみにケイネルは不参加だそう。

 賢明な判断だ。俺も正直行きたくない。

 というか最近はスガヌマに付き合ってばかりだ。

 だが薄く広く調べるより、1人に絞った方が有効。

 スガヌマが大体終わった後は、次にとっつき易いマイさんあたりに目標を定めよう。

 マイさんというとあの時の事ばかりが脳裏に————


「っ……!」

「どうした?」

「なんでもない……」


 異能(かのじょ)がお怒りだ。

 最近は大人しかったのに、マイさんの下着姿を見て以来よく浮上する。

 浮気すんなだと。

 いやそもそも付き合ってないよな……?

 ともかくそんなに荒ぶらないで欲しい。


「顔色悪くなってきてるよ?」

「元々こんな色だよ」

「辛くなったら保健室行きなね」

「ああ」


 心配してくれてありがとう。

 ただ彼女と同じ場所に立てるのは俺だけなんだ。

 自分で制御するしかない。

 ただ仲が悪いというわけでも、そろそろ異能を軽く使っておきたいとも思っている。

 単純に鈍る。それに彼女のご機嫌も取れる。

 

「ご機嫌取りとか口にするな? いやでもさ……」

「クレス?」 

「私は大人のレディ? だったらせめて————」

「クレスさーん」

「あ、ごめん独り言だから気にしないで」

「ホントに大丈夫か……?」


 独りじゃない。

 脳内には銀髪の美しい女がいる。

 だがアウラさん級に身勝手な————

 他の女の話をだすな? 

 わ、分かったらそんな怒んないでくれ。

 

「はあ、こりゃ近い内に召喚する(・・・・・・・・)かな————」

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