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第42話「潜入2」

「おいおい、マジかよ……」


 侵入から間もなくしてケンザキが自主練に使っているという場所に到着。

 だがここで残念なことが判明する。

 なんと今日に限ってケンザキは鍛錬をしていなかったのだ。

 スガヌマの話だとほぼ毎日ここでやってるって話だったのに。


「つまり休みってことだよな……?」


 この後は勇者たち個々を見に行く。

 おそらくケンザキは自室で勉強でもしてるんじゃないか?

 もしくは他の場所で練習?

 ともかく一発目、期待していたものは見れなかった。

 残念だが次の行動に切り替えるべきだろう。


「まずは他の鍛錬場を当たってみるか」


 この場から静かに離れる。

 にしてもこれだけ広い場所を勇者1人ずつに貸しているとは、最近の王国は本当に金持ちだ。

 まあ一方的に呼んだ勇者、贔屓(ひいき)するのは当然か。

 なにせ人間でマトモに魔王に戦えるのは災厄の数字(ナンバーズ)ぐらい。

 それでも俺たちが動くことはない。

 俺は基本的にボスに従っているが、それ以外は自分のしたいことしかしないのだ。

 ボスの仕事を選ぶ基準もよく分からないし。


「近頃の王国は獣人たちとも協定を結ぼうとしてるらしいけど————」


 隣にはモノール大陸がある。

 そこには身体能力がかなり高い獣人たちが住んでいる。

 他にもエルフとか精霊とか。

 仕入れた情報だと、王国や帝国は魔王打倒のために獣人たちと手を組もうとしている。

 つまりは共同戦線を張りたいというわけ。

 肉弾戦で彼らほど戦力になる種族はいまい。


「でも獣人も獣人でプライドが高いからなあ。王様たちも大変だ」


 人間は強い種ではない。

 見下されても仕方ないだろう。

 いま俺はただ気配を消して移動しているだけ。

 しかし獣人によっては音や熱の変化に敏感な者もいる。

 もしこの場にいたのなら、俺という人間がいると一発で見破るかもしれない。


「と、ここか————」


 目的地の1つを見つけ静かに中を覗く。

 そこには鍛錬に励むスガヌマの姿があった。

 ……言ったことをちゃんとこなしてるな。

 真剣に取り組んでいる。眼も本気だ。

 

「————正直ここまでの男だとは思ってなかった」

 

 初見はただガサツな人間だなと。

 しかし接してみるとかなり真面目だ。

 見栄を張らない。言われたことをキチンとこなす。

 あの歳で異能を持っていたら(いき)がってしまいそう。実際ケンザキにはそういう節が見られる。

 だがスガヌマは基礎の大切さを分かっているのだ。

 そういう姿勢だけあって勇者4人の中では一番成長が早いと思う。


「次の放課後、もう少し先のことをやってもいいかもな————」


 当たり前のこととなりつつある放課後練習。

 スミスたちと一緒に指導をしているが、まあ皆凄い。

 遠くない内に並みの騎士を倒せるレベルに達するだろう。

 自分に制約はあるが教えることは出来る。

 本気には本気で応えるべきだ。


「あとは女性陣か……」


 まあスガヌマは大体予想通り。

 気になるのはマイさんとワドウさんの2人だ。

 彼女たちは鍛錬場に姿は無かった。

 おそらく自室にいると思う————

 

「あんまり行きたくないけど……」


 特にワドウさんのところ。

 あの人の闇を考えると、正直私生活は見たくない。

 近くにいるだけで何故か悪寒がするんだよな。

 だがやるしかない。

 例の如く彼女たちの部屋が何処にあるかは把握済み。

 迷うことなく一直線、騎士の気配を感じれば上手いこと避けて道を行く。


「ここの角を右に曲がって、その次は左に————」


 広すぎる王城を攻略する。

 そうして勇者たち、ひいてはマイさんの部屋の扉が見えるところまで来た。

 その隣の部屋がワドウさんのはず。

 ただ今までと少し違うことがある。

 察知した。これより先には幾つも魔道具の罠が仕掛けられているのだ。

 でも問題ない。なにせ部屋に特攻しようってわけじゃないからだ。

 今回はこの扉だけ見える距離で十分だ。


「ここではストレガさんの造ったあの魔道具を————」


 取り出すのは少しゴツイ眼鏡だ。

 この魔道具の名は『トビラヌケール』

 しょうもないネーミング、性能は読んだそのまま。

 『扉』を透明に出来る。つまりは外から内部を覗き見ることが可能なのだ。


「どういう理論でそんなことが出来るのかは謎だけど」


 ストレガさん曰く、この眼鏡は美少女の裸を見るために開発したらしい。

 バレなければ犯罪じゃないそう。

 今回はあの人の主旨とは違うが、これで部屋の内部を見ることは出来る。

 俺は透視魔法を使えるが、あれは魔力で構成された物にしか適応されない。

 普通の物質には効果を発揮しないのだ。


「眼鏡をかけて、ボタンを押すと」


 眼鏡のフレームには3つボタンが付いている。

 まずは1つ押す。

 すると視界が変化、阻む扉を透明にしてくれる。

 身を隠しながら観察にあたる。


「マイさんは、ストレッチ中?」 


 扉が大きいだけあって、見える範囲も広くなる。

 勉強でもしてるかと思ったが、床の上で身体を伸ばしたり曲げたりしてる。

 健康的だな。良いと思います。

 それ以上コメントのしようがない。それならばと今度は部屋自体を注視する。

 金が掛かっていそうな造り。よく整理整頓されている。

 しかし気になった物が1つ。

 奥の方、壁に掛かったとある服(・・・・)である。


「あれは異世界の服か……?」


 薄手のシャツと、羽織り物。それとやけに短いスカート。

 羽織る物の胸にはエンブレム的なのが刺繍されている。

 この世界では見たことのないデザインだ。材質も良く分からない。

 もしかしたら召喚時に着用していた衣服だろうか?

 だが特殊な加工がされた装備の可能性もある。

 とりあえずレポートには書いておこう。


「そういえば……」


 この覗き見眼鏡をストレガさんに渡された時に興味深いことを言われた。

 『これで見た相手が美少女ならば2つ目のボタンを押せ』と。

 やけに自信満々の表情だったからよく覚えている。

 どんな機能なのかは教えてくれなかった。お楽しみだそう。

 そしてマイさんは美少女で間違いない。

 爆発したりはしないはず。

 ストレガさんの言伝に従い、2つ目のボタンを押してみると————


「な————! ってやばい声が……」


 衝撃。つい声を出してしまう。

 俺は2つ目のボタンを押した。

 すると視界が変化。

 扉だけが透明になっていたはずが、なんとマイさんの服も透明(・・・・)になってしまったのだ。

 露わになるその身体、下着は何故か残っているが(ほとん)ど全裸みたいなもん。

 

「い、意外と胸デカいな……」


 すいません。普通にそう思いました。

 ストレッチ相まってブルンブルン揺れている。

 そして更にまずいことが。

 なんと座ったまま開脚、上体を前に倒すストレッチを始めたのだ。

 角度は丁度俺の方、胸はまだいい。

 ヤバいのは下半身、足を広く開いたせいで下が————


「ストレガさん……あえて下着は残したな……」


 以前全裸よりも下着姿の方がエロくないかと熱弁された。

 どういう原理で透明化させてるか知らないが、あの人マジで最低だわ。

 使わなくても3つ目のボタンを押せばどうなるか察しがつく。

 今度は下着も透明化させ、美少女の全裸を拝めるってかんじだろう。

 才能の無駄遣いすぎる。


「だがこれも情報だ……」


 しっかり目に焼き付ける。マイさんの下着姿を見ながらソレについてのレポートを書いていく。

 胸は結構大きいです。

 左胸にはホクロもあります。

 ま、まあ、もしもマイさんの偽物が出現したとする。

 その時に本物かどうか判別できる材料になるとか、いや無理やりすぎる理由付けか……

 ああ……また際どい体勢を……


「さ、流石に限界だ」


 俺とて普段軽視するだけで性欲は確かに存在する。これ以上の観察は下半身的に厳しい。

 それとなんだか自分が情けなくもなってきた。

 もう2つ目の機能は解除する。もう押さないぞ。

 3つ目のボタンについても同様。本当に本当だ。

 十分に見せてもらいました。

 スミスがこのことを知ったのなら、俺を殺してでもこの眼鏡を奪いに来そうだな。

 これからは扉の透過だけ、ワドウさんの時もそうする。

 

「なんかスイマセン……」


 気付いていないだろうが謝罪を口にする。

 構図だけみれば女勇者の裸を見るためだけに不法侵入みたいじゃん。

 いやいや、ちゃんと目的があってきたんだけどさ。

 学園で会った時が気まずいな……

 ただそんなことを今心配しても仕方ない。

 意識を切り替え、切り替えていくんだが————


「も、もう少しだけ2番目のボタンで……」


 自分の中で変なスイッチが入る。

 どうやらストレガさんを一方的にバカにすることは出来なそうだ。

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