第41話「潜入」
王城は平民区から見て貴族区の少し奥の方にある。
その周りには高位の貴族たちの屋敷が乱立。
道の舗装や外灯にもだいぶ金を掛けているのだろう、外観は美しい。
「————大体は予想通りだな」
吹き抜ける夜風、だけど温めた身体が冷めることはない。
俺はいま王城のすぐ近くにある貴族の屋敷、その屋根の上で突入の機会をうかがっていた。
……でも流石にガードが固い。
また外灯を多く設置して意図的に闇を潰している。
「コソコソ行くよりは速さで勝負ってとこか」
王城の設計図は入手済み、既に頭の中に叩き込んでいる。
まずは城内にどうやって侵入するかを考える。
正門からは厳しい、幾つかある裏口を攻めるのがいいだろう。
裏の方は騎士の配置数が少なく、代わりに魔道具を用いた罠が張り巡らされている。
人を相手にするんだったら機械の方が楽だ。
並みの魔道具なら速さと技術でぶっちぎれる。
「そろそろ……」
あまり時間が遅くなっては勇者たちの活動が終わってしまう。
深夜では間に合わない。時間的には今が攻め時だ。
装備を再確認、銀髪もしっかり隠せている。
幾つか持って来た魔道具も正常に作動するようだ。
後は目の前にそびえ建つ場所に赴くだけ。
「行こうか————」
王城は鉄格子で囲まれた広い敷地に建っている。
そこで問題は城に入るまでをどうやり過ごすか。
騎士たちの配置を見て、行けそうなところで行く。
「ただ感知式の魔道具があるって話だからな」
敷地内、騎士たちの巡回ルート以外には地雷のように魔道具が設置されているとか。
つまりソレを踏んだ瞬間にサイレンが鳴る。
爆発はしないだろうが、ある意味では地雷原を進むに近しい。
「ふぅ……」
10タールは高さがある鉄格子、俺の前に立ちはだかる。
これより先に行けば後戻りはできない。
1つ深呼吸、緊張感も追い風に変える。
周囲に人はいない。
気配を探っても騎士の配置は緩い方だと分かる。
「————強化」
四肢に無属性魔法を付与。
その性能を向上、阻む鉄格子も一跳で軽く飛び越える。
ただ身体使いは誰よりしなやかに、音を一切立てない。
静かな一連動作、自分の存在を大気に同化させるよう。
「氷魔法」
着地の寸前、自分の足が着くであろう場所に違和感を感じる。
ここだけではない。幾つも幾つもだ。
まあ魔道具の罠だろうな。
体重で反応するやつか、それとも温度か、このままいけば見事罠に嵌まることになる。
でも俺はアウラさんみたいにバカじゃない。
頭は何時だって回っている。
対策は考案済み。氷魔法を着地点に薄く展開する————
「凍れ」
魔道具は機械だ。
凍らせてしまえばその機能は働かない。
ただのガラクタだ。
地中に埋められているであろう物は一瞬で対処する。
そんなに強くは固めない絶妙な具合、1時間もすれば自然に溶けるだろう。
「————緩すぎるなあ」
さして身を隠せる物があるわけでもない。
留まることなく瞬間で移動を開始、迅速にこの場を離れていく。
近くに3人ほど気配を感じるが、向こうは俺に気付かないよう。
全然達してないな。余裕だ。
手加減なしで無音の疾走、姿勢を低くして走りながら足元のトラップだけ凍らせていく。
地表面に変化はない。地中にだけ働きかける。
今もそうだが、俺が過ぎ去った後も騎士たちは異変に気付けないだろう。
「……あそこだな」
目星をつけていた入口の1つを発見。
鍵穴に対し氷魔法を使用。
即興で鍵を作成、このやり方でどれだけ不法侵入してきたか。
経験が生み出す早技。中を警戒しつつ侵入を開始する。
鉄格子を越えてから入城まで10秒ほど掛かった。
少し遅いか?
騎士たちの警備も自分にとってはザルだと思ったが、俺自身も弛んできているのかもしれない。
「まあ目指すは屋内の訓練場だ」
まずはケンザキの必殺技とやらを拝みに行く。
禁書庫や王城の調査は後でも出来るのだ。
まずは時間的制約がある勇者たちの方に着手していくつもり。
「やっぱ潜入系は1人の方が捗るな……」
これにアウラさんが付いてくるだけで難易度がかなり上がる。
というかもはや任務の主旨が変わる。
なにせ壁があるなら殴って進めという人。
回避とか工夫をしようって思わないんだ。
タッグを組んどいてなんだが、俺とは性格も考えた方も全然違う。
よくここまで上手く行ってたと思うよ。
「————ん」
人が近づいて来るのを感覚が察知する。
移動を開始。仮面を被ってはいるが視界は良好だ。
目的地を目指して最適な動きだけで迫っていく。
「騎士団も気の毒だな」
魔族に襲われて警備を強化したのに、もう侵入を許してしまう。
市民に知られたら今度こそ信頼されなくなる。
まあ俺は騎士たちを大したことないと言ったが、それは単純に相手が悪かったから。
彼らの名誉のためにも言っておく。
大抵の奴だったらすぐに捕まるぞ。
今回奇襲を仕掛けるのは、あくまでこの世界で9番目ぐらいに強い人間。
潜ってきた修羅場の数が違う。この実力の差を見せつける。
「まあホントに見せたら任務失敗になっちゃうんだけど……」
見栄を張る必要はない。
謙虚かつ完璧に任務をやるだけだ。





