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第39話「情報」

「し、死ぬ……」

「もうダメだ……」

「ギブ……」


 俺に命乞いをするのは3人の男たち。

 スミス、ウィリアム、スガヌマである。

 開始時とは打って変わって死にかけ状態だ。


「魔力の操作、意外と難しいだろ?」

「難しいなんてレベルじゃねえよ!」

「でも数時間で形は出来てきてるぞ。なかなか速い成長速度だ」

「それはクレス君の教え方がスパルタ過ぎるから……」

「そうか?」

「「「そうだよ!」」」


 3人の魔力はほぼスッカラカンになったが、少し前まではそれなりの魔力を纏えていた。

 確かにハードな、ハード過ぎる教育をしている。

 それでも成長速度が速いという言葉は嘘じゃない。

 難関校のSクラスだから? なんにせよ彼らに魔法使いとしての才能があることが改めて分かった。

 特に秀でていたのはスガヌマ。

 まあ今は意識を失いかけ、疲れ果ててゾンビのようになっているが————


「魔力操作に1ヵ月は掛けようかと思って————」

「「「1ヵ月!?」」」

「と思っていたんだけど、この調子なら2、3週間で済みそうだ」

「「「良かった……」」」


 そんなにこの練習が嫌なのか。

 ひたすら一定の魔力を纏っているだけだろうに。色々邪魔したり負荷を掛けたけどさ。

 ともかく3週間あれば魔力の操作はある程度出来るようになるだろう。

 安堵しているが、魔法の鍛錬の方が辛いと思うぞ。

 まあ今はスミスたちのメンタルを考えて黙っておく。

  

「————なんだか面白そうなことをしていますね」


 3人とも床の上でヘバッた状態。

 体力的にも学園の規則的にもそろそろ終わりの時間だ。 

 ただ今この状況に不釣り合いすぎる、そんな明るい声が響く。

 

「クラリス様じゃああああああああああああああああああああああああ!」

「きゅ、急に元気になったなスミス」

「相変わらずお美しいいいいいいいいいいいいい!」

「あ、ありがとうございます」


 なんか疲れすぎて可笑しなテンションになってる。

 スミス、クラリスさんがひいてるぞ。

 

「どうもです。クラリスさん」

「こんにちは。見回りをしていたら面白そうな会話が聞こえたので」

「面白い会話ですか?」

「会話というか、断末魔の叫び? 地獄の方が楽だとか、クレスは悪魔だとか」

「ああ。スミスたちの小言ですね」

「小言だと!? マジでしんどかったんだよ!」

「でもそのお陰でクラリスさんが来て話せたんだから別にいいだろ」

「ま、まあ、女神であるクラリス様が来てその笑顔と豊満な————」


 割愛。ともかくスミスは一層元気になった。

 身をクネクネさせながら何かをひたすら呟いている。

 ただウィリアムとスガヌマはそんな活力はないらしい。

 うつ伏せとなってピクリとも動かない。

 

「舞踏会の件、ようやく落ち着いてきたみたいです」

「なんか騎士団が調査するって話でしたよね」


 クラリスさんが簡単に現状の話をしてくれる。

 彼女と接点をもって良かった。国の内情をいとも簡単に手に入れられる。

 今回のことをザックリ言えば、あの魔族の雇い主は結局分からなかった。

 そして今後の対策としては勇者の警護を強化する。

 ということらしい。まあ予想通りの内容ではあるな。


「じゃあ死傷者は、魔族がなり代わるために殺した2人だけと」

「そのようです。まだその貴族の遺体は見つかっていないようですが……」

「用意周到そうな魔族でしたから。葬儀のためにも無事発見されるといいんですけどね————」


 まあ無理だろうな。

 潜入をする以上、用済みとなった死体は確実に処理したはず。

 どういう風に処理をされたかは不明だが、見つけたところでもう原型は残っていないと思う。


「すいません。暗い話をしてしまって」

「いえ、僕も気になっていたので。少し知れただけでも良かったです」


 この後自分でもっと調べるつもりだけども。

 まあザックリ把握出来ただけでも収穫か。


「しかしシルク君は気の毒でしたね。せっかく誕生日だったのに」

「今回ばかりは仕方ないないですね。ただ本人もあまり気にしてないようなので」

「なら良かったです」

「でもシルクはクレス君の話を結構出しますね。次は何時遊びに来るかってよく聞かれます」

「……ははは」

「また遊んであげてください」


 シルク君には信じられない程気に入られている感じがする。

 そこまで共通点も無いし、少し愛想よく対応していただけなんだけども。

 そりゃ嫌われるよりも好きになってもらった方がいい。

 別に抵抗感を抱くようなことでもない。

 カルロさんも俺とまた話をしたいとか、近い内にまたお邪魔することになるかもしれない。


「あ、私そろそろ生徒会室行かないといけないので」

「そうですか」

「選抜戦に向けての練習ですよね? 頑張ってください」

「まあスガヌマたちなら結果を————」

「クレス君もです」

「僕、ですか……?」

「ええ。クレス君なら良い結果を出してくれると期待しています」

「ど、どうも……」

「それじゃあ、クレス君たちも暗くなる前に帰ってくださいね」


 クラリスさん、残念ながら俺は途中で負ける。

 そういうシナリオなんだ。

 期待には応えたいが、ここだけは譲れない。


「うぅぅ……」

「お、スガヌマが息を吹き返した」

「死んで、ねぇ……」

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃ、ねぇ……」


 間もなくしてウィリアムもようやく上体を起こす。

 スミスは、うん、未だにクネクネと身をよじっている。

 クラリスさんはもう帰ったぞ。


「さあそろそろ帰るぞ」

「ようやく……」

「疲れた……」

「まだ初日だぞ。あ、それとも諦めるか?」

「「それはない」」

「即答かい……」


 自分的には諦めてくれることは嬉しい。

 今は調査しなければいけないことが多い。

 また貯金に余裕もあるが、貧乏ということを怪しまれないためにクエストも定期的に受けている。

 俺とて暇ではないのだ。


「でも帰った後は騎士の人たちにもしごかれるからなあ」

「スガヌマは勇者だしな。厳しくても仕方ない」

「まあ今回のクレスのシゴキに比べりゃ楽勝だけど」

「そ、そうか……」

「でもユウトの奴も必殺技(・・・)を編み出しているらし————」

「待てスガヌマ、必殺技(・・・)だと?」

「おう。ユウトは最近その話ばっかりなんだよ。俺も負けてられねえ」


 必殺技、なかなか興味深いことを教えてくれる。

 確かにケンザキの異能はイマイチ掴めていなかった。

 スガヌマが言うには、ケンザキは王城内にある訓練場で夜な夜な1人で特訓しているらしい。

 ただ自慢げに話すだけで、実物を見せてもらえたわけではないとか。


「なあクレス、俺も大技が欲し————」

「まずは基礎からだ。焦っても良い結果は出ない」

「だ、だよなあ。俺は地道にやってくか……」

「それがいい。スガヌマはセンスもある」

「マジで!? 直接言われると嬉しいなやっぱ」

「というか3人ともセンスがある。なんだかんだお前らは凄いよ」


 そう3人を誉めつつも、やはりケンザキが気になる。

 同胞であるスガヌマにも見せない代物、吹聴する以上はある程度形は出来ているはず。

 もともと引っかかっていた人物。もの凄く気になるぞ。

 

「なあスガヌマ、ケンザキはその自主練を毎日やっているのか?」

「基本そうだな。というか凛花も春風さんもそんなかんじ。夜は個人で練習するんだ」

「なるほどな……」


 護衛の騎士は付いてくるものの夜は個人の時間になると。

 勉強、魔法、体術、自分に必要なことをそれぞれで行うそうだ。

 少なくともその時間でしかケンザキの必殺技は拝めないというわけ。

 しかもケンザキは最近その必殺技の特訓ばかりだとか、今なら見放題で————

 

「でもなんでそんな事聞くんだ?」

「単純に気になったんだよ」

「ふーん」


 実は来週の何日か、国王の外出に伴うため騎士団長(アルバート)さんも不在になるのだ。

 勇者たちの護衛が強化されたとはいえ、一番厄介な人物が王城からいなくなる。

 いよいよ監視らしい監視に乗り出すべきなのかも。

 つまりは夜に王城へ潜入、勇者たちの様子を確かめるのである。

 ついでに城内にある禁書庫で色々データを抜き取りたい。


「仕掛けるか……」


 禁書庫には何時か行かなくてはいけないと思っていた。

 勇者の私生活も生で見たかったし。

 更にはそこにケンザキの必殺技の話。

 またアルバートさんも短い間だが不在の時がある。

 これを好機と言わずに何と言うか。


「なんで笑ってんだクレス?」

「スガヌマたちを厳しく鍛えるのは楽しいなと」

「こ、怖えぇ……」


 面白いほど自然に情報を提供をしてくれる。

 ただ言葉だけでは信憑性が薄い、自分でも調べて決断する。

 そして確実だと思ったのなら、勇者たちが住まうハーレンス王国のテッペンへ。

 王城での潜入調査を遂に決行する————

昨日の休載について、沢山の感想ありがとうございました。

全て目は通しています。

時間はかかりますがちゃんと全部に返信します。


毎日更新、頑張ります。

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