第27話「試着」
林間合宿も終わって通常授業が再開。
大賢者という存在が居たことは民衆に伝わって言うないものの、俺が1人で戦ったということは学校中に広がった。
貴族の間でもそれなりに話題になっていると騎士団長も教えてくれたし。
若干慌ただしくもあるが平和な日々である。
そして今は————
「「「「おお~!」」」」
目の前にいるのは複数の仕立て屋。若いお姉さんたちだ。
休日利用、舞踏会用の衣装を買いにわざわざ貴族エリアの店にまで足を運んだ。
だというのに、俺はこの人達に客というかは着せ替え人形のような扱いを受けていた。
「やっぱり何着ても似合いますね」
「ええ、ここまでのモデルは初めてよ」
「ただやっぱりさっきの服の方が良くないですか?」
(はあ、俺は人形じゃないってのに……)
「クラリス様はどれが良いと思います?」
「私は初めの方が————」
ただこの人達に強く言うことは叶わない。
いかんせん貴族御用達の服屋、まさか俺1人で訪れる勇気はない。
ただ格式高い舞踏会だ。準主役の相方を務めるのも相まって安い服は着ることが出来ないだろう。
というわけでまさかのクラリスさんと一緒に此処へ来たわけだ。
(向こうからの誘いに俺が乗った形だし、文句は言えないなあ)
しかもクラリスさん本人はさっきからだいぶ楽しんでいる模様。
ここでいい加減してくれなんて絶対言えない。
大人しく彼女たちの着せ替えに付き合うのみだ。
「クレス君はどれか気に入ったのありますか?」
「気に入ったのですか……」
「はい。結局着るのはクレス君ですし」
「そうですね。とりあえず派手じゃないモノのがいいかなと」
「なるほど……」
これまで何着も試しているわけだが、その中には王子と張り合うんじゃないかってレベルのものも。
名称は良く分からないがチェーン的なのが沢山付いてたり、キラキラした宝石が付いてたり。
似合う似合うと煽てるのはいいが、そんなのを着て貴族たちの前に立ちたくはない。
「じゃあやっぱりアレですかね」
「なんだかんだシンプルが一番です」
「それじゃあ改めて、コレを着てもらっていいですかクレス様?」
「はいはい……」
ようやく最終決定に近づいてきた雰囲気。
カーテンを閉めて手渡された一式を着用する。
内容としては黒のコート、濃い青のベストに白ネクタイといったかんじ。
そこまで派手な部位はなく、自分としても特に抵抗はない。
早々に着がえ、急かしてくる彼女らに改めてのお披露目だ。
「「「「おお~!」」」」
「全部同じ反応じゃないですか……」
「いやいや、やっぱりコレです!」
「青ベストが銀髪にマッチして完璧です。いや本当に完璧ですよ」
「クレス様って実は何処かの王子だったりしますか?」
「普通に平民です」
「だとしてもその容姿、女性から見ても反則だと思いますよそれ」
「反則と言われましても……」
髪や瞳の色に合わせるならやはり青や白を基調とした格好となる。
ただ色を反則と責められるがコレは異能故に仕方なし。
それに彼女と共存するという対価だってある。
あの大賢者以降ご機嫌斜めのようだけど。
それが起因してか他属性を使用する際一層邪魔するようになってきた。
文句を言ったら『氷魔法だけ使ってろ』と一喝されたぐらい。
結局氷魔法以外は無属性しか自由に行使出来ない現状だ。
「あ、クレス様……」
「はい?」
「その黒手袋、何でつけてるですか?」
「これは————」
右手の甲に数字の印があるから。
更に言えば軽い魔力抑制機能も付いている。
だから多少気を抜いた程度では身体から魔力が漏れ出すことはない。
隠蔽、抑制、二重の意味で機能を果たしている。
だが他人が見れば怪しむのは勿論。
これまでは持病の関係でと言い訳をしてきたわけだが————
「せめて白手袋に変えましょう」
「ええ。服的にも体面的にも黒は良くありません」
「いやでも……」
「もしかして魔道具の類だったりするんですか? 特殊な加工がされてたりとか?」
「ええーっと……」
ご名答、これはⅢさんが作ってくれた魔道具の一種である。
ただその造りは超一級、頑丈で機能性も高い。
そしてそんな代物と感じさせないくらい普通の装いを生み出すことに成功している。
そりゃ15歳の少年が付けるには可笑しい物、彼女たちが気付かないのも当然と言えば当然。
(魔道具だってカミングアウトするのもな……)
そうなんですねで終わるような代物じゃない。
彼女らに出来る言い訳としては、肌の露出を防ぐためと弁解するぐらいだろう。
何時の間にか白バージョンの手袋も用意される。
全体像を確かめるためこの場で着用せよとのこと。
どうやら嫌だ嫌だで逃れる場面じゃなさそうだ。
「はあ、分かりました————」
頑なに拒むのも不審を募らせるだけ。
俺は『Ⅸ』と刻まれた右手、それを隠す黒布を一気に取っ払う。
御開帳、絶氷の右手だ。





