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第19話「友人」

 ボーンさんと出会い、色々な情報を得た昨日。

 今日からはまた学校が始まる。

 前回監視を中断してしまった分、学園内では一層気張る所存である。

 ちなみに今の時間は学科や実技ではなく、今週の終わりに控えた『林間合宿』についての説明を受けていた。


「この行事の目的はまず自然に慣れること。どんな環境でも魔法を正確に放てるように————」


 舞台となるのはハーレンス王国領の北部。

 本都市である此処からは馬車で半日ほどかかる場所である。

 自然に慣れるというだけあって森が続くが、深くは入らず手前でキャンプを展開するようだ。


「事前に調査はしたが大した魔獣はいない、だが油断はするなよ」


 担任のデニーロ先生曰く数日前に事前調査は行ったそう。

 やはりボーンさんが感じ取った僅かな変化(・・・・・)は認知できなかったようだ。

 森の微かな騒めき、それを見抜くには鋭い直感と経験が必要。

 ただ微かは微か、教師陣が感じ取れたとしても行事を中断させるには至らないだろう。


「まずは4人班を決める。時間をやるから各自で組んでくれ」

 

 林間での訓練では1人ではなく、自分も合わせ4人単位で動く。

 そりゃ俺にとっては大したことなくても、ここに居るのは普通の学生だ。

 いくらレベルの低い魔獣しかいないとはいえ、安全性という面で団体行動は基本。

 ましてや協力や連携を重視する国家、こういう所から教育は始まっているんだろう。


「スミス」

「おう、一緒にやろうぜ」

 

 班を作れと言われたので取り合えず隣人のスミスへと声を掛ける。

 そしてやはりというか、勇者は勇者で班を作った模様。

 ちょうど4人だし、まあそうなる。

 世話役の貴族、マリーさんは別の班に入るようだ。


「面子的にはあと2人必要だけど……」

「どうすっかー」


 こう言っては元も子もないが実力的には俺だけで十分。

 しかしこれは授業の一環だ。

 手袋の下の刻印は当分お休みである。


「————良ければ僕も入れてくれないかい?」


 どうしようかと悩む最中、声を掛けてくる人が。

 それは当たり前だがクラスメイト。

 貴族である金髪の優男、ウィリアムである。 

 これは任務、既に全員の名前と顔は頭にインプット済み。

 他の生徒についても警戒という意味で監視の目はそれなりに光らせている。


「えっと、ウィリアムさんだよね?」

「ははは、呼び捨てでいいよ」

「まあ仲間は探してたけどよ、俺たち今のところ平民グループだぜ? 良いのか?」

「全然構わないさ。僕はそういうの気にしないし」

 

 全身から優しさという見えない概念が溢れ出ているような人。

 そもそも身分というのもあまり気にしてない様子だ。

 喋るのもタメ口で良いと言うし。

 こんな良さげな人がわざわざ俺たちの所に来るとは。

 

(さっきから視線だけは来るからな……)

  

 周囲からチラチラと見られている。

 様子見、そういう空気感だ。

 もしかして危険視されてるんだろうか? 俺はスミスを凍らせた前科持ちだし。

 ただそこをウィリアムが一刀両断、観衆の中から一歩前に出てくる。

 

「クレスにはずっと興味があったからね。あ、呼び捨てでいいかい?」

「それは全然、でも俺そんな面白くないぞ?」

「いやいや、僕からしたら君が遅刻したあの時から仲良くしたかったね」

「遅刻……」

「クレスの登場が決まりすぎて、後からオドオド入ってきたスミスも面白かったよ」

「っく、言ってくれるじゃねえかウィリアムさんよぉ?」

「あれは確かに笑ったな」

「お前もかクレス!? あの時の俺の気持ちはお前らなんかに————」

 

 ちょっとした冗談も混ぜてくるウィリアム。

 ただ本当の意味でバカにはしていなく、盛り上げる1つのネタに。

 しかしハーレンスの貴族ってのはどうしてこうも緩いのか。

 基本優しい、普通にフレンドリーで関係を持ちやすい。

 隣で何かを熱弁するスミスにもウンウンと相槌(あいづち)をうってくれている、真面目に聞かなくていいんだぞウィリアム。


「それじゃあ3人目はウィリアムで決まりと」

「あと1人はどうすっか……」

「もう周りは固まり始めてるね」


 まだまだ新入生、周りも最近になってようやく友人関係を形成しだす。

 というかこの行事は親睦を深めるという意味もある。

 訓練と題してはいるが、ここで壁を取っ払おうというわけだ。

 現に俺もウィリアムと知り合うことが出来たわけだし。

 この調子なら今後もいい関係が保てそうで————

 

「あの、ぼくも入れてもらえないかな?」

 

 あと1人はどうしようと話す中、遂に現れる加入希望者。

 俺より少し小さい身長、掛けるは黒縁の眼鏡、几帳面に整えられた茶色の髪。

 名をケイネル、俺の中では真面目な優等生というイメージがある学生だ。

 後ろの席だから分かるが、授業は誰よりも真剣に受けている様子がうかがえる。

 入学試験の筆記では学園トップだったはず。


「どうやら仲間になりたいようだな。ならまずはリーダーであるこのスミスに————」

「よろしくケイネル」

「これで4人揃ったな」

「って俺のこと全無視かよ! 酷い奴等だ。まあ俺もケイネスの加入は全然賛成だけどな」 

「あ、ありがとう。よろしくお願いします」

 

 スミスのダル絡みは無視して大丈夫。

 しかし中々濃い面子になった。

 監視者たる自分に、ハイテンションすぎるスミス、貴族のウィリアム、秀才のケイネルとは。

 ただSクラスに決まるだけあってある程度の魔法は使えるだろう。

 結局面子は男だけだし、そこそこやり易いメンバーになったな。


「しっかしケイネルが来るとは意外だな。お前はもっと静かそうなチームに行くかと思った」

「失礼なこと言うなよスミス」

「今までだったらそうしたね。でもぼくはクレス君がいたから」

「お、お前、もしかしてコッチの趣味か……?」

「ち、違うよ! 僕は純粋に————」

 

 スミスがとあるポーズを。

 それに対し違う違うと全否定。

 良かった、どうやらボーンさんの仲間というわけでは無さそうだ。


「少し前にクレス君が魔法学の授業をしてくれたでしょ」

「あれは凄かったね」

「うん。感服したよ。こんな理論を語れる人が同い年にいるんだって」

「そ、そんなに良かったか……?」

「良すぎるぐらい、もうあの日は感動し過ぎて夜も寝れなかったね」


 数日前に一度だけ俺は壇上にて教鞭を振るった。

 ケイネルはそれに感銘を受け俺と同じ班に。

 友人を作る機会でもある今回は思い切って来たそうだ。

 近くで俺の話をもっと聞きたいらしい。

 

(俺は自分の考えを語っているだけなんだけど————)


 教科書に記載してある言葉は最近覚えたばかり。

 他の科目は兎も角、魔法学については教科書をあまり信用していない。

 なにせ無駄が多いのだ、俺の式はもっと美しい。

 

(あ、そういえば入学試験で受けた魔法学のテスト、ずっと返ってこないな)


 此処での入学試験で用意された記述式の魔法学テスト。

 それは採点されて合格者にだけ返却される、らしい。

 らしいと言うのも手元に来ないので何とも言えないのだ。

 内容はさして難しくなかった、自分の回答にどんな赤ペンを入れられるかと楽しみにしてたんだが。

 まあ人数も人数、気長に待つしかないだろう。


「そういやこの合宿の後は振替休日があるし、その時は皆でどっか行こうぜ」

「確か4連休だったよね?」

「週末も合わせりゃ6連休だ!」

「あ、そっか」

「チッチッチッ、秀才のケイネルも視野が狭くなったな」

「そんな得意ぶって言うことじゃないだろうに……」

 

(連休、クラリスさんにお願いされた舞踏会もその時だったな)

 

 忘れてない。俺は疑似的に恋人を演じればいい。

 既に服は揃えたし、ダンスも大体は出来るようセットアップ済み。

 合宿終わってすぐなので中々ハードな連休になりそうだ。

 

「というかデニーロ先生どこ行った?」

「さっきフラフラっと出ていったみたいだけど」

「トイレじゃないかい?」

「まあ取り合えず自由時間ってことだろうな」


 辺りを見渡せば班は全て出来上がり。

 それぞれが喋りに興じている。

 

「腹減ったし菓子でも食うか」

「スミス、一応授業中だよ」

「お堅いこと言うなって。お前らにもやるからさ、ほい」

「これは……」

「まあ貴族のウィリアムはコイツ(・・・)を知らない————」

「具現化菓子じゃないか」

「って知ってるんかーい!」

「懐かしいです。子供の頃はよく食べました」


(ぐ、具現化菓子……?)


 スミスに渡されたのは小さな箱だ。

 開けてみるとそこには黒色の薄い板のようなものが数枚。

 それを皆食べているので、同じように食す。

 甘すぎるくらい甘い、おそらく糖度の高すぎる果実をすりつぶして何かを配合、固めたモノだろう。

 まずくはないが、あまり好みの味ではない。

 

「そんじゃ具現化見ようぜ」

「具現化を見る?」

「中にカードが同封されて、ってクレスは知らないのか?」

「そういや別の大陸出身って言ってたもんな」

「まあ説明するとだな————」


 箱の中には菓子とは別に1枚のカードが入っている。

 このカードこそがオマケでありながらこの商品の醍醐味だそう。

 取り出して手に取る。

 それは何も描かれてはいない、表が黒一色に染まっているカードだった。


「やり方は簡単、このカードに自分の魔力を流すんだ」

「魔力を流す?」

「おうよ。すると自分の魔力に応じた何かが映る」

「動物や武器に建物、まあ色んな物で自分を表してくれるんだね」

「といってもオマケはオマケ、その日その日で結構変わるんだけどな」

「なるほど……」


 とりあえずとウィリアムが手本を。

 自分の魔力を少し流してカードの変化を待つ。

 少しすると黒一色が緑色へと変わっていく。


「僕は『森』かな?」

「つまんねえなあ。もっと変なのだせよ」

「変って、まあ酷い人は本当に酷いけどね」

 

 曰く公には見せられない程下品な物を具現化する場合もあるらしい。

 そんな中でウィリアムは森と。

 カード内では木々が生い茂り、そこに住まう動物たちがチラリと映っている。

 中々綺麗な映りをしており、正直面白いなと思った。


「んじゃ今度はクレスの番な」

「え、順番制なのかよ」

「確かにクレスのは興味あるな」

「はい、ちょっと楽しみです」

 

 今度は俺の番だそう。

 気負うことも無い、やはり所詮は暇つぶしのオモチャである。

 それでも皆楽しみにしてるっぽいし、自分としても初めてで好奇心は湧く。

 手のひらの上に漆黒のカードを乗せ、そして少しずつ魔力を送っていく。


「さて何が出るかなと」

「なんだか全体的に白くなって来ましたね」


 黒一色だった表面が今度は白に変わっていく。

 ただ雪と表現するには薄い。

 氷の世界、そう呼ぶのが相応しい舞台が。

 全てが凍てついた、そんな光景である。

 

「ん、なんか中央に出てきたぞ」

「動物、でしょうか……?」

「僕は人型のように見えるけど」


 凍てつく大地、凍てつく空、そんな冷たき世界の中心に1人の人間? が映り始める。

 まずは脚から、性別はおそらく女性、身体の造りからしてそうだ。

 ちなみに纏った衣装はドレス、色は真白である。

 脚から股関節、そこから胴体、胸、首と描かれていく。

 長い髪を持つようで、顔はまだだが既にその髪だけは描写されることに。

 そしてそれは俺とまったく同じ、青みがかった銀髪であった。

  

「なんかメチャクチャ美人そうなお姉ちゃんが出てきたぞ」

「身体だけでも気品と威厳が伝わってくるよ」

「なんだか場所も相まって氷の女王って表現が————」

「っふん!」

「「「っあ!」」」

 

 まだ完成途上、全てが映る前にカードは握り潰す。

 ただゴミ箱には捨てず、自分の懐に仕舞いこむ。


「悪い、なんだか握り込みたくなった」

「いやいや! すげえいいとこだったじゃんか!」

「完成が気になったんだけど……」

「最後まで見たかったです……」

「まあそういう時もある」

「「「いや無いでしょ」」」


 せっかくの貰い物だし、最後までやりたかった。

 ただ俺はこのオチを悟ってしまったのだ。

 

(まさかこんな所にまで出てくるとはな……)


 おそらく彼女(・・)の悪戯だろう。

 まさかと思ったが、もう髪の色で分かった。

 今頃は大笑いをしてるだろうな。


 「仕方ねえ、じゃあ次はこのスミス・ケルビンが————」


 割り切って再スタート、今度はスミスの番だ。

 途中で台無しにしたんだ、皆には悪いと思ってる。

 でもたかが玩具、小さい子がやるようなオマケのカードと言えど。

 俺の異能の正体(・・・・・)を見せるわけにはいかなかった。

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