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第18話「究極」

「————まさかクレスが隠密任務とはねえ」

「————知ってて来たのかと思ってましたよ」


 勇者の動向を監視してる最中、まさかの先輩に遭遇。

 見た目だけ美人なオカマおっさん、Ⅷのボーンさんである。

 ちなみにさっきまでは金髪メイド服という出立ちだったが、現在は茶髪の町娘風といったかんじ。

 

(相変わらず凄い変身術だ)


 ボーンさんは異能を応用することで一瞬で何にでも姿を変えられる。

 そのために世間に顔バレはしていなく、俺と同様にある程度は自由に動ける数字である。

 体形、顔立ち、服装などを自在に操る、一見すると俺以上に監視には最適に思えるはず。

 ただ性格に難あり、好みの男を見つけてはすぐ食べるとかどうとか。

 学び舎など行けばどれだけの男子が被害にあうか。もはや監視どころではない。

 パッと見だと美人な容姿だがその実————

 

(真の姿はハイテンションなおっさんだからな。正体を知ってる俺からしたら最悪だ)

 

 因みに出会った時とビジュアルが違うのは、ボーンさんが叫んで目立ったがため。

 急いで場所を離れつつ変身、今は俺の狭い住まいへと招き入れている。

 今回ばかりは任務を途中で引上げせざるを得なかった。

 

「アタシは寄り道しただけよ。帝国にちょっとお仕事があってね」

「てっきり茶化しに来たかと思ってました」

「いやねえ、そんなことしないわよ。やるのは精々アウラちゃん、それからロリババアに爺やも、って結構いるわね邪魔しそうな奴」

「まあそういう組織ですから……」


 周囲には既に風属性魔法を展開済み。

 防音仕様、誰かが来てもすぐに対応が出来る状態だ。

 今なら大抵の事を気兼ねなく話すことが可能に。

 こうしてボーンさんとは偶々会ったから情報を供給できるものの、ボスは今回の任務をあまり公言してないよう。

 今さっき任務内容を話したらゲラゲラ笑われましたわ。


「それでどう? 学園は楽しい?」

「うーん……」

「微妙な返事するわねえ」

「そりゃ任務が大前提にありますし、楽しいっちゃ楽しいですけど大変な時が多いです」

「真面目ねえ、アタシだったら男の子たちを片っ端から————」

 

 美人が言うからまだ様になるが、何度も言う、変身を解けばおっさんである。

 しかもちょっと小太りの。

 ただ喋っていて結構楽しいし、根は良い人なので信頼も出来る。

 大事なところはしっかり押さえている人だ。

 

「じゃあ勇者は噂より弱いってこと?」

「未知数です。確かな才があるのがまず2人、そしてとんでもない策士が1人いるのは確かですけどね」

「その策士の子イケメンだったりする?」

「顔ですか? 整っていると思いますよ」

「はあはあはあはあ……」

「此処で興奮しないでください」

「疼いちゃうのよ……」


 獣の眼、ギラギラと得物を狙っている。

 ただ勇者の噂はやはり知っていたよう。

 皆やはり興味は持っているのだ。

 まあボーンさんは言動からしてちょっと違う意味も含まれているけど。


「あ、そういえば面白い話が1つあるんだけど」 

「面白い?」

「それなりに新鮮なネタよ。まだ数字全員には伝わっていないと思うわ」


 ふと思い出したといわんばかり。

 ただ面白いと打って出た割に表情は真剣だ。

 そこに笑いもフザケも入らない、ハイなテンションにはならない。

 しがない話題というわけではなさそうだ。


(4)のローランちゃんがついこの間任務を放棄(リタイア)したわ」

「っえ!? ギブしたんですか!?」

「本人が言うには戦略的撤退だそうよ」

「いや言い訳でしょ。本当は途中で仕事が面倒になったとかじゃ……」

「ちゃんと戦況を判断しての撤退だそうよ。遭遇した『敵』が相当やれたってわけ」

「結局はそれ戦闘が怠くなっただけじゃ————」  


 俺たちにとって任務を失敗することは敗北に近しい。

 なにせそれぞれが超一級の力を持つ、俺たちをサシで沈める可能性があるとすれば超上級の魔王か精霊王、もしくは神か。

 ただ話を聞いてみるとローランさんはとある任務中に複数の『敵』と遭遇。

 数は5体、相手さんはフードをしていただけなのに顔は分からず終い。

 おそらくフードに特殊な魔法が付与、もしくは単純に魔法で誤魔化したか。

 ただその容姿は人型であったという。

 

(まあローランさんがそもそも後衛型のスタイルだし、それでも逃げるのはなあ……)


 見た目は結構良いんだけど、何時もヘラヘラ。

 ただボーンさん曰く今回は結構マジ、そもそも1対5の不利状況ではある。

 索敵や観測に優れるローランさん、熱が入る前に不穏な空気を察知したそう。

 結局は1手2手交わしただけで撤退、もとい任務放棄を選んだようである。


(どんだけ怠かったんだよ? もしくは本当にそれだけ厄介そうな相手だったのか?)


「任務の途中でバッタリだそうよ」

「仕事をおじゃんにされたと、魔王ですかね? でも魔王同士で手は組まないか……」

「詳しい情報はないわ、ただ人型だったとだけ。暫定呼称は『正体不明(アンノウン)』」

「正体不明、まんまですけど嫌な響きです」


 数字(ナンバーズ)の中ではまだマトモ? な方に入るローランさん。

 どちらにせよ俺以上に修羅場を通っている、ちゃんと引き際を抑えているだろう。

 あの人がそう判断した、それは正しいはず、たぶん。

 謎が深まる話だが既に本拠にいるボスたちには伝達はいっているとか。

 いかんせん起きたばかりの珍事件にして難事件、おそらく数日後には俺にも何らかの形で連絡が来るはず。


「あと最近は魔族の動きが活発だし、何時此処が襲撃されても可笑しくない」

「勇者が強くなる前に刈り取りたいってとこですかね」

「おそらく。あと魔王か正体不明(アンノウン)かどっちの仕業か知らないけど、魔獣たちが全体的に興奮しているというか、ハーレンスの端にある森ではちょっとだけ異質な空気を感じたわ」

魔獣爆発(モンスターパニック)の予兆があると?」

「断言は出来ないけど、想定はしておいた方がいいと思う」


 魔獣なんてものは何処の自然界にもいる。

 ハーレンス王国にも勿論山や森が幾らでもあり、むしろ別荘を建てている貴族もいるくらい。

 そこを抜けてきたボーンさんは動物たちが若干興奮していると感じたそう。

 ただそこら辺の冒険者が気付くような大きな変化じゃない、一級の戦士としての勘がそう告げるのだ。

 

(近い内に学園の行事で林間合宿がある。何も起こらないと良いが……)


 遠征という形で課外授業を行う。

 自然の中で数日過ごし、身体を実地に慣らすというものだ。

 ここで魔族に襲われる可能性はある、ただ王国もそこまでバカじゃない。

 行事には魔法騎士たちを護衛として派遣するそうだ。


「だとしても不安な要素が多い……」

 

 1つ、ローランさんが出会った『正体不明』という存在たち。

 2つ、複数の魔王とそれに従う魔族の動き。関係性は明言できないが高まりつつある魔獣の勢い。

 どれもこれもが不明瞭、明確な情報は手に入っていない。

 

「クレスちゃんも気を付けなさい」

正体不明(アンノウン)ですか」

「魔王にもよ。なんだか嫌な予感がする————」


 仲間と出会って思い出話をするかと思いきや、共有されるのは不穏に乱れ始めた世界のこと。

 ただ災厄の数字(ナンバーズ)だからと浮かれるつもりは一切ない。

 一切合切(いっさいがっさい)の災難災害に備える。

 少し前まで緩んでいた自己の緊張感が再び張る。

 奇しくもボーンさんと再会したことで、この身はまた鋭利に研がれたのだった。

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