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第131話「輝銀」

 皆さんこんにちは!

 クレスの大親友スミスです!


 またお前かって?

 残念ながら、クレスは超がつくほど忙しいんだ。

 それにやつの晴れ舞台を見るからには、クレス自身に語らせるよりも、俺が見て語った方がおもしろ……客観的で公平な判断ができるだろう。


 というわけで、今回も俺が案内を――


「なにをニヤニヤしてるんだ?」


 会場で遭遇した、勇者の一人スガヌマが訝しげな目を向けてくる。


「今回のイベントを直接見れない全ての人に、空のように広い心の中で釈明をしていた」

「大丈夫か? 医務室行くか?」

「ガチで心配をするな」


 そんな本気トーンで言われると反応に困るだろう。

 そこはツッコミを入れてくれよ。


「しかし日本でも異世界でもやることは大差ないな」

「元いた世界にも同じようなことやってたのか?」

「ああ。といっても真剣に見たり参加したことはないが」

「ンじゃあ今回が初ってことね」

「そういうことになる」

「最高じゃねえか。なんたって初体験がクレスになるんだ」

「勘違いされそうな言い方だな……」


 だからガチな目をするなって。

 仕方ない野郎だというばかりに彼は首を振る。

 これだと本当に俺が仕方ない野郎みたいじゃないか(実際そうである)。


「しかしすごい賑わいだな」

「例年より人は多いぜ。なんたってかの勇者様も参加するんだし」


 ステージを臨む会場は既に人で溢れかえっている。

 学生や教師はもちろんのこと、学園祭に訪れたもっと小さい子供や大人までも集結している。

 この時間に合わせて校内での展示・催しも一時中断しているほどだ。

 それまでに関心は高いのである。


「そういえばハルカゼさんはともかく、ワドウさんも出場するんだったな」

「勇者は強制参加だとさ」

「ふーん、あ、だからわざわざ見に来たのか」

「なんだよその目は」

「別に~」


 プログラム表を開くと共に、出場者とその順番を確認する。

 見知った人物の名前が続くが、一番最後の出場者だけ『女神』と書かれている。

 クレスのことであるのは間違いないのだが、明らかに一人だけ待遇が違う。

 ものすごい悪ノリだ。


(まぁ、あいつにもあんまり期待しすぎるなって言われたし)


 女装が似合うのは最初から分かりきっている。

 正直ある程度の心構はできているので、そこまで大きく歓喜や落胆をすることはないだろう。

 温かい目で見守ってやるさ――


    ※※※


 それからしばらくして。

 用意された特設ステージの上に、司会役なのだろう二人の生徒が上がる。

 彼女らは俺たち見物人にアナウンスをした後、円滑に進行を始めた。


『まずはこの人! 我らが生徒会長――クラリス・ランドデルクっ!』


 歓声の中に黄金の髪が揺れる。

 姿を現した彼女は、白いドレスと共に、いつもの笑顔を浮かべている。


「うーん、良い!」


 流石に人慣れしているのか、彼女は余裕といった感じで群衆に手を振っている。


「良い、良いなぁ……へへへ……」

「だ、大丈夫かスミス?」


 よっぽど俺がやばい顔をしていたのか、スガヌマが心配そうに声を掛けてくる。


「本当にやばかったら言えよ」

「だからガチで心配するな」

「すぐに医務室に担いでいくぞ」

「話きいてます!?」


 残念だがこれが素だ。


『お次はこの方――異世界よりやってきた勇者の一人、マイ・ハルカゼっ!』


 会長が奥へと消えると、次は黒髪を揺らす美少女が現れる。

 俺たちは普段見慣れているが、その可愛さっぷりに初見の人々(主に男だが……)が湧き上がる。


「照れてますねぇ……」

「だから顔がやばいぞ」

「恥じらっているのもいいなぁ……」

「聞いてねぇし」

「へへへ……」


 スガヌマは自分の国でも同じような催しがあると言っていたが、しかしハルカゼさんはきっとそういうのに参加したことがないのだろう。

 やっぱり素人には素人の良さがある。

 変に人慣れしているより、ああいう初々しい感じもポイントが高い。

 

「……前回は会長の圧勝だったが、これは分からんぞ」

「そうなのか?」

「ああ――今回は荒れる」

「急に真剣だな……」


 ハルカゼさんは何度も頭を下げて舞台の奥へと下がっていく。


『さらに勇者の方からもう一人――リンカ・ワドウっ!』


 勇者という肩書きと共に、もう一人の美少女(そういえばワドウさんも美少女だった)が現れる。

 

「忘れてたけど、ワドウさんも美少女だった」

「まぁ普段の言動がな……」

「美少女であることは否定しないと」

「…………」

「やれやれお前も――痛っ!?」


 なんでクレスといいお前といい、俺をすぐに殴る。

 俺に対しては暴力が許可されているとか、変な校則でも存在しているのか……。


 ワドウさんはドレスで着飾って、会長とはまた違った余裕感を纏っている。

 普段からさんじげん?には興味がないと公言しているし、人前に立ってもさして羞恥心などはないのかもしれない。

 しかしそういう無感情感というか、無情に仕事を処理しようとしている感じというか、そういうのも一周回ってエロい。


「良いなぁ……」

「さっきからそればっかりだ」

「本当に魅了された時、人間には大したことは言えないのだ」

「スミスお前、審査員でも職業にしたらどうだ?」


 それから他にエントリーしていた生徒が、順番通りに壇上に上がっていく。

 みな手を振ったり、なにかポーズを決めたり――気づけば、最後の参加者であるクレスを残し、他の全ての工程が終了する。


「くそ、今年はなんて激戦なんだ……悩ましい……!」

「良い良いとしか言ってなかった気がするが」

「お前はどうする!?」

「最後に投票するんだっけ?」

「ああ!」

「まぁ、ハルカゼがリンカあたりに入れるかな」

「っく……!」


 周囲を見渡すと、他の連中もうんうんと唸っている。

 やはり甲乙付けがたい。

 なにせみんな良いのだ。

 この美少女達の戦いに、順番をつけるなんてナンセンスなのかもしれない。

 いっそのこと、本当に女神でも現れてくれれば平和に解決するのに……。


「一応、次はその女神様なんだろう?」

「クレスな」


 スガヌマの問いに頷く。

 しかし女神とは言っても、あくまでプログラム表に悪ノリで書いてあるにすぎない。

 本当に女神なら、女神に投票するので今回の白熱したグランプリンも円満に解決できる――が、それはありえない話である。

 クレスは人間だ。


『さて、いよいよ最後の方です!』


 アナウンスの声量も自然と高まる。

 これがクライマックスだ。


『我が学園の生徒で彼を、いや彼女を知らない人はいないでしょう!』


 司会は力強い声で、


『クレス・アリシアっ!』


 と呼んだ。

 ついにとざわつく人々。

 その群衆の前に、ゆっくりと、自然体で、やつが姿を現す――


 まずは艶やかな銀髪が見えた。

 それから白いドレスを纏っているのが見えて。

 最後に光に反射して銀色の眼が輝く。


 あれだけ騒いでいた観衆は、一瞬にして静まった。

 歓声を上げることも、両手を突き上げることも、できない。

 

 ひたすらに絶句。

 ただただその美しさに、圧倒される。

 自分が呼吸をすることも忘れ、目の前に現れたその神々しいなにかに魅入られた。

 静寂だけが空間を支配する。


 どれくらい経っただろうか、長いようで短いような時間の空白が生じ、静まりかえった空間の中で。

 やっと俺は言葉を思い出して、一言だけ口にすることができた。


「――女神だ」

 こんにちは、東雲です。

 この度、ファンタジア文庫から新刊を出すので告知させて頂きます。

 

     ■■■

 『大罪烙印の魔剣使い~歴史の闇に葬られた【最強】は、未来にてその名を轟かせる~』


 発売日:2020年12月19日

 出版社:ファンタジア文庫

 イラスト:ろるあ(@Rolua_N)先生

     ■■■


 卒論やら単位やらで死にそうですが、ここ1年の集大成です(ちなみに留年が決まりました)。

 ページ下部に表紙イラストを載せておきました。

 画像をクリックすると特設サイトに行くことができます。

 なろうの更新も少しずつ再開していくつもりです。

 あわせてよろしくお願いします!  

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ファンタジア文庫より新刊が出ます!
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<2020年12月19日発売>
大罪烙印1
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