第124話「大祭3」
後書きにコミカライズのお知らせがあります。
「だぁ~! 人が多すぎんぞ~!」
マキナがほぼ我欲のために奔走している頃。
同じくしてアウラも我欲を充たすがために校内を闊歩していた。
ただ前日譚においてクレスに上手いこと乗せられており。
トレードマークである赤髪は綺麗に隠され金髪へと変わっている。
しかしその性格やら言動までもが急に変身できるはずもなく、実際今もあまりの人の多さに文句を高らかにあげたところだ。
「……今日分の軍資金も使いきっちまったし」
アウラはクレスからお小遣いをもらい(年下からもらうというのもどうかと思うが)、そしてそれは全て食べ物へと変わり、最終的には全て彼女の腹の中に収まってしまった。
彼女は、自分がしたかったことを既に終えてしまった。
つまるところ暇なのである。
「――お姉さんお姉さん。投げナイフやりませんか!?」
アウラは祭りというと食べ物のことしか頭にないのだけれど、もちろんそれだけのはずがない。
いわゆる『出し物』というやつである。
目的もなく闊歩していたアウラに声を掛けたのは1人の女生徒であった。
その手には銀色の刃が握られている。
「投げナイフ……?」
「はい! 点数の高い的に当てられたらちょー豪華な景品もあります!」
「へえー」
ちょうど良い暇つぶしだと思うアウラであるが。
しかし真面目に考えてみると、学生の出し物が投げナイフの的当てとは、かなり物騒である。
普通は投げ輪だとか、せいぜいダーツとかだろう。
そういう普通をやらないのが、この学園の生徒たちなのであるが……。
「いいぜ。ロハだよな?」
「はい、無料です」
「しかしアタシに声を掛けるとは、お嬢ちゃんは良い目をしてる」
刀剣類には一家言あるアウラである。
自分の実力を少なからず見破るとはと感心し、また自信ありげに笑う彼女だが、
「あはは、そうですか? ぶっちゃけるとナイフは危ないっていうんでウチ全然お客さん入ってないんですよね。暇だなーと思ってたら、目の前にまさに暇だなーって顔したお姉さんがいたのでつい」
「……あんま見る目なかったようだな」
しょんぼりというオノマトペがしっくり表情で、アウラはガクリと首を落とした。
それから3本のナイフをもらい、的がある直線上に立つ。
形式自体はダーツとほぼ変わらない。
ただその手に持っているのが丸くカーブした刃を持つナイフというだけだ(だったらダーツでいいじゃないかという話はもう蒸し返すべではないのだろう)。
「あの真ん中のちっさいところ、あれに当てりゃいいんだろう?」
「そうです。でもかなり難しいですよ。私たちが試しに何回やっても一度だって的中しなかったので」
「ふーん。で、景品は?」
しょせんは学生のお遊びだと、気が抜けた様子でアウラは尋ねる。
しかし――
「豪華景品だなんて啖呵を切っておいてあれなんですけど、この文化祭で使える金券を――」
「よっしゃああああああぁ!」
「え、あ、あの、お姉さん?」
「金券、いいじゃあねえかァ……」
これで食べ物をより買うことができると踏んだアウラは、露骨にやる気を見せる。
「行くぜ……」
それから3本同時。
まさに刹那の如くナイフを投擲する。
直線の軌道を描く銀色は、寸分の狂いもなく中心へと突き刺さった。
「う、うそ……」
愕然とする女生徒。
それをアウラはなんのことはないと平然に言う。
「あ、あなたは一体……」
「詳しいことは訊くな。けどな、アタシはこういう時のために剣を磨いてきた。じゃ、金券はもらっていくぜ――」
良い顔と良い声で、金券片手に颯爽と立ち去っていくアウラ。
向かう先はもちろん決まっている。
いや、どう考えてもお前の剣はこういう時のためじゃないだろ。
それから仕事完全に忘れてるだろうおい。
などと、彼女に舌鋒を飛ばしてくれる人物はいなかった。
本来ツッコミを入れるべき男は、今現在――





