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第119.5話「下準」

「――これでチラシは作り終えましたね」


 現在地――クレス・アリシアの部屋。

 夕食も済ませ、俺はマキナさんの準備を手伝っていた。

 なんの準備かって、そりゃあ明日から始める文化祭で――


「本当に布教活動するんですか……?」

「当たり前です。校舎や敷地をグルグルと巡って教えを説きます」

「ちゃんと節度を護ってくれるんですよね……?」

「約束守りますとも。ワタシとて正体がバレては今後の活動に支障をきたす。それは避けたいところですから」

「…………」

「なぜそうも疑心な目を向けるのですか? このワタシを信じられないのですか?」


 信じられません。

 逆に自信満々な彼女の様子を見て、こちらは不安しか抱けない。


「しかもなんだかなんだチラシも手伝わされるし」

「あ、配る方もやってくれるのですか?」

「そんなこと一言も言ってないですけど」

「……冷たいのですね、クレスは」

「むしろここまで酔狂な人を手伝っただけ自分は優しい人間だと自負します」


 この人にヘタな動きをして欲しくないのなら、そもそもチラシ制作などに手を貸すべきではない。

 自分に良心というものがあったからこそである。


「まぁ手伝ってもらったり、寝泊まりの場所を提供してもらってもいます。明日からはそれなりに仕事は果たしますとも」

「お願いしますよ。こっちはマイさんに基本付きっきりで、なおかつイベントにも出場させらたりして余裕がないので」

「ふふふ。楽しそうでなによりです」

「どこかに楽しさを感じさせる要素ありました?」

「閑話休題」

「しかもバッサリとツッコミ切るし」

「なに安心してください。警備くらい難なくこなしてみせますから」


 エヘンと胸を張るマキナさん。

 ご存じの通りマキナさんを始め、アウラさん、エルメスさんが文化祭に訪れる。

 彼女らがなにをすつかと言えば――まぁ基本なにもない。自由に動く。

 俺の場合はボスからマイさんからなるべく目を離さないよう特別に任務を命じられているが、それから派遣されてきたエルメスさんを除き、勝手に来た美人2人組はやることは特段ない。


 なので歩き回るついでに警備をお願いした。

 どちらも人間離れした存在なので、不審者の1人や2人すぐ気づけるだろう。

 ちなみにミスコン等のイベントで、俺がマイさんから離れる際は、その時の役目を一時的にエルメスさんに代行してもらうという作戦である。


「ふっふっふ。完璧な作戦ですねクレス。3日間の文化祭は何事もなく無事に幕を降ろすことになるでしょう」

「どうしてそうフラグは建てに建てまくるんですか?」

「ふらぐ……とは?」

「なんでとぼけるんです? もうわざとやってますよね?」

「えぇ、えぇ、ワタシやアウラの正体も結局バレるなんてことないでしょうよ」

「やっぱりわざとだ! わざと言ってるぞコイツ!」

「コイツ……? なんですかその言い方、いかにプライベートといえど許されるものと許さないものがあるでしょう?」

「ご、ごめんなさい、マキナさん」

「よろしい」


 なんで俺が謝っているのだろう。

 ただ掛け合いを続けても、こちらが疲れるだけなので早期撤退である。


「結局マキナさんたちがここに来たことは、ボスにはバレずに終わりそうですね。きっと楽勝ですよ」

「どうしてそんな最悪フラグを建てるんですか?」


 ポカンと軽く頭を殴られる。

 やれやれ、俺も大人げないことを……。


「っていや、ちゃんとフラグの意味知ってるじゃん――っ!」

 どうも、東雲です。


 丸戸史明先生の『冴えない彼女の育てかた』に霞ヶ丘詩羽という人物が出てきます。

 彼女は高校生であると同時に、ライトノベル作家という設定なんですけれど。

 ある時、企画を持ってきた主人公に対してこんな指摘をするんです。

 『本当に作りたいものが何なのかまだ見えてないんじゃないかしら』――と。

 何年前だったかは曖昧ですが、この言葉が自分にも深く刺さり、当時から今なお忘れることなく脳裏に焼き付いています。

 商業デビューという1つのラインを越えてからは、特によく考えます。

 自分が本当に書きたいこと、伝えたいことはなんなのだろうかって。


 霞ヶ丘先輩の話は以前もした……気がするしような、しないような?

 ま、どっちでもいいですか。

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