第112話「着替」
「あ、あの、クラリスさん」
「なんでしょう」
「お、俺は一体どこに連れていかれるんでしょうか?」
「……ユートピアです」
「意味深すぎるっ! しかも間を挟んだのが輪に掛けて心配!」
学園中にペタペタと符を張る最中。
俺は我らが生徒会長に遭遇。
それから腕を掴まれ、どこかへ連行されている(現在進行系で)。
「大丈夫。すぐに気持ちよくなりますから」
「ほ、本当になにしようっていうんですか!? じ、人体実験とかはもう嫌なんですよね……」
「もう? 既にされた経験が?」
「されたというか――」
させられた、が正だろう。
ストレガさんに。ストレガさんに。ストレガさんに。
恨み節だ、念のため3回言っておいた。
「詳しくは聞きませんが、大変な経験をしたんですね」
「……はい」
「ならこれからすることは楽勝も楽勝でしょう!」
「それは内容を知ってからです。ざっくりでいいから教えてくださいよ」
ツカツカと廊下を進む。
彼女の目的地がどこなのかは分からない。
遭遇してすぐ、こうやって引き連れられているのだ。
再会して挨拶をした後に――
『今って余裕ありますか? すぐクラスの準備に戻らなくちゃいけないとか』
『特には……』
『なら少しお時間ください。連れて行きたい場所があるので』
と、軽く承諾してしまった俺にも落ち度はあるんだろうけれど。
なんだかんだと話を逸らしてきたクラリスさんだが、ここで目的地に近づいたのだろうか、簡単にこれから起こることを教えてくれた。
「これからするのは……まぁ、人体実験に近しいなにかですね」
「結局また人体実験!?」
「心配無用ですよ。精神はともかく肉体的にはなんらダメージないので」
「精神にもダメージあっちゃダメでしょう……」
半分は話のネタとして出した人体実験が、まさか繋がってくるとは。
遺書とか書かされるんだろうか……。
心配するなというが、精神ショックで心肺停止になることだってあるんだぞ。
「――ここです。着きました」
クラリスさんが、とある部屋の前で立ち止まる。
扉には1枚の紙が貼られていて――
「……ミスコン準備会?」
「元は空き教室だった所を、準備の場所として活用しました。ちなみに隣の教室がミスターコン用の準備会場です」
「本当なら俺はそっちなんじゃ……」
「?」
「その『え、なに言ってんのコイツ?』みたいな顔しないでくださいよ……」
クラリスさんは優雅に笑った後、『クレス君が出るミスターコンに意味はないでしょう』と言った。
最初から分かっていることをやってもなぁ、と。
……あまりに過大評価しすぎていないか?
「ミスコンならば、まだ私たち女性サイドにも勝機は残されています。ミスターたちの雪辱はミスが晴らします」
「なんか俺、学園中の敵みたいな扱いですね……」
というかミスターたちなめられてないか?
男たち、相手がクラリスさんだからって遠慮せず怒って良いぞ。
「ささ、ひとまず中に入ってください」
クラリスさんが背後に回り、軽く押してくる。
立ち止まっていたって仕方が無い。
俺は言われるがままに扉を開け、教室内に足を踏み入れた。
「――おぉ」
そこには沢山の『衣装』があった。
派手なのも、シンプルなのも、鮮やかなのも、異国のものも。
「うちのミスコン・ミスターコンの衣装は全て学園が用意しています。正確には学園のスポンサーがですが」
「へぇ……」
「貴族だけが良い衣装を着るのでは不公平でしょう。勝負とは常に身分など関係なく正々堂々に。参加する人たちはここにある衣装を好きに使えます」
随分と羽織がいいなと思った。
やはり巨大な学園、財力が違う。
「ここで皆さんには、どれを着るか選んでもらいます。着付け人も雇っているので色々見て貰って」
部屋には既に人がいた。というか全員女性。
視線が集まっていると思ったが、どうやらこの人たちに手伝って貰うとか。
「ちなみにクレス君が一番乗りです」
「え、いいんですか?」
「いいというか……ここで1つ問題がありまして」
「問題?」
なにかあったのだろうか?
まさか今になって女装少年はエントリー禁止とか?
それだったら俺としては万々歳で――
「そういうことでなく、これまで女装した人がミスコンには出たことがないので」
「でしょうね」
「だから衣装合わせを他の方より綿密にやりたいなと、着付けの方々も女装を手伝ったことはないそうで、本番の時にあたふたしないように」
「……ようは練習、してみたい的な?」
「そうですそうです」
男ものの服は1人で着られるが、確かに女性ものを着るのは大変だろう。
制服や私服ならともかく、ドレスの類いは特に。
練習したい、早めに服を選んでもらいたい、その気持ちはよく理解できる。
「では――」
「く、クラリスさん?」
なぜかクラリスさんに羽交い締めされる。
しかも背中にあたる胸の感触に感想を言う暇もなく、待機していた着付け?お手伝い?の人たちの眼がギラリと輝く。
そしてゾロゾロと、アンデットのように俺の方に近づいてきて……。
「「「「――お覚悟を」」」」
どうも、東雲です。
早速ですが、『エロマンガ先生』新刊の書影が公開されていました。
数日前には新OVAのPVも公開され、どちらも非常に楽しみです。
電撃といえば来年には『ブギーポップ』がアニメ開始ですね。
少し前に全巻買ったんですが、まだ1巻しか読めていなくて。
曲もカッコ良くて色々と期待する反面、アニメに間に合わなかったのは悔しいです……。
なんにしても来年1月が楽しみですね。





