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第111話「設置」

「どけどけー!」「階段開けてください!」「廊下通るよー!」「ここ頭上注意ね!」「足下にも色々転がってるからな!」


 校舎のいたるところで、色々な人物たちの声が交ざりあう。

 それは注意を喚起するものであったり、行為を促すものであったり、はたまた命令をくだしていたり。

 とにもかくにも、多くの学生が忙しなく動いていた。


 文化祭準備期間――1日目。


 今日から授業もなくなり、各クラス各部活で準備が展開される。

 ところによっては泊まり込みで作業をすることもあるらしい。


「ごめんねー。ちょっと通らせてー」

「あ、はい」


 どいてと言われて道を譲る。

 すぐ横を巨大な謎オブジェクトを担いだ集団が通過していった。


(……なんに使うんだアレ?)


 謎オブジェクトと言うほかない、謎の物体である。

 しかもデカい。廊下もいっぱいに使って運んでいる。

 ……教室の扉はまず通れないな。


「……俺も自分の仕事をしないと」


 現在、(いとま)をもらって校舎を闊歩している。

 ひとえにそれは『任務』だから。


 結構前のエピソードになるが、俺の『監視任務』が変わった……みたいは話を覚えているだろうか?

 それから徹夜でお(ふだ)的な、壁や物にペタリと貼り付けるシートを制作したんだ。

 で、途中クラリスさんに掴まったが、設置場所の下見もしたわけで。


(……ここも設置完了)


 壁に貼り付けられたポスター、その裏面に(ふだ)を貼り付ける。

 魔力探知などでバレないよう符自体にも細工はしてあるが。例え見つかったとしても、魔導具には見えないよう側にも(、、、)工夫を施しておいた。

 なにせ透明だからな。透明。

 例えと言ったが、まぁほぼ発見されることはない。

 あったとしても、おそらくゴミとして普通に捨てられることになるだろう。  


「どいてどいてー!」

「あ、はい」

「ちょっと君、このポスターの反対を少しだけ押さえてくれ!」

「……あ、はい」

「これ試作してみたの、食べてみてくれない?」

「…………あ、はい」


 符を張るため場所を転々としているが、その最中にだいぶ他人とコミュニケーションを取ることになる。

 途中からなぜか協力をしていたし。

 怪しい手伝いもさせられそうになったが、流石にそれは断った。

 脱兎の如く逃げたとも。


「みんな(せわ)しないけど、やっぱり楽しそうではある――」


 彼らからしてみれば、1年の中でもビッグイベントなのだろう。

 どこにいても熱気が伝わってくる。


(うちのクラスも熱気は凄いけど……)

 

 ただ最近になって1つ問題……というか、不測の事態?が生じた。

 いやその言い方では、まるで彼が悪いみたいだな。

 悪いのはすっかり忘れていた俺たちであるわけで。


(ワドウさん、勢いよくダブル主人公って言ったもんなぁ)


 もともとあった『ロミジュリ』は、ここでは説明を省くが、いつの間にか魔改造されていた。

 現在も魔改造され続けていると言うべきか。

 アドリブの辻褄を合わせるため、皆でアタフタしていたら、どうもおかしなシナリオになっている。


 といってもやはり俺はヒロインのままのようで。

 なにか演技や台詞を大きく変える必要はなく、役者としては案外楽な方なのかもしれない。

 余裕があるからこそ、こうして抜け出せたわけだし。


『良かったわね泊まり込みにならなくて』


 エルが言葉を呈す。


「(そのあたりは演劇という選択を取って良かったってとこなのかも。もしかしたら舞台装置関系の人は終日らへん泊まるとワドウさんは言ってたけど……)」

『役者はとっとと帰れ――だっけ?』

「(ああ。寝不足やら体調不良にならったら本末転倒って)」


 少なくとも準備最終日と、3日ある内の文化祭初日は家に帰れるはずだ。

 まぁ今なお進化中?のシナリオ次第かもだが……。


『――ん、クレス、また何やら仕事が舞い込んできそうよ』


 ここまでの道のりで、なし崩しで様々な人に協力をしてきた。 

 その光景は姿はないながらもエルは知っている。

 さて今度はなにが――


「あ、クレス君」


 前方より顕れたのは我らが大先輩――


「く、クラリスさん……」 

 どうも、東雲です。

 遅れてすいませんでした。


 更新ペースについてお知らせです。

 今後は『土曜日』だけの投稿になります。週1です。

 元通りになるとはいえ申し訳ありません。

 そして3巻を購入してくれた方、わざわざメッセージ等で感想をくれる方、本当にありがとうございます。

 これからも精進します。

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