第105話「配役」
「――じゃあ配役も大体決まりね」
スミスが幸運男で、だからこそ皆に追いかけ回され不幸な男となった昨日。
今日も今日とて、演劇の準備は進んでいく。
なにはともあれ主役2人は決まったのだ。
となれば後は、脇役やら敵役を務める人物を選ばなくてはいけないわけで――
「……ふっふっふ……死に物狂いで逃げたかいがあるぜ……」
「発見された時は本当に死にかけだったもんなスミス」
隣にいる男は不敵……というかは勝者の笑みを浮かべている。
昨日は最後に揉めたものの、主人公はスミスということで正式決定した。
皆もやれやれと言いつつ、事を受け入れたようだった。
「さて役者は大体揃って……」
ワドウさんが先頭でブツブツと。
漏れがないか確認でもしているのだろうか?
演劇は『役者』がいるだけでは成り立たない。
演技をする『役者』。
役者の台詞や動きをブラッシュアップする『演出家』。
台本を書く『脚本家』。
リーダーとなって引っ張る『監督』
他にも『小道具』やら『衣装』やら『照明』やら。
観覧する者にとっては『役者』しか人物は目に入らないが、その背後にはこれでけの『裏方』が存在ししているのである。
「といっても、今回は発起人である私が、演出、脚本、監督をやるし。そこまで大事にはならずに済んだかな」
ワドウさんが言ったとおり、そもそも『ロミジュリ』などという話は彼女らの世界のもの。
現地人である俺たちが指揮を執れるものではない。
「でも私たちの世界よりは楽かも。照明も機材じゃなくて魔法でできるし、道具も魔法で作れる――てか道具なんて、最悪の場合クレス君に氷で造ってもらえればいいし」
「……そうならないように頑張ろう」
1回許すと、これもあれもと氷で造る羽目になりそうだ。
そんな寒いステージで、誰がやりたいし観たいのか。
「しかし三役もワドウさんに任せてもいいのかい? 大変じゃないか?」
「ありがとうコンラード君。同じ文化祭委員としてその言葉、血涙が出るほど嬉しいわ」
「う、うん」
「……血涙に対してなにか突っ込んで欲しかったんだけど」
「あ――そ、そっか、ごめん! 血なんて出てないよ!」
「後の祭りだし、内容もイマイチね。1億年前から修行し直しなさい」
「1億年前に人はいないよ。神様相手に練習させる気かい?」
「っふ、それでいいのよ」
「……もう僕には君が分からないよ…………」
と、言うわりにはウィリアムも最近はついて行けてる。
多少人格が変わったか?とも感じたが、気のせいだろうきっと。
とにもかくにも、数名の配役は誰になるか決定。
裏方で動く班決めも済んだ。
いよいよ演技練習やら、道具なり衣装なり、本当の準備が始まるわけだ。
ただ自分からしてみれば演技はすぐに出来ると思う。
これまでに変装して任務に当たった経験は、数え切れないほどあるのだから。
経験豊富なのに今回の監視任務ぜんぜんじゃん――などと思う人もいるかもだが。
今回の勇者監視(今はちょっと違うが)は、特別なんだ特別。
不測の事態が多すぎる。
「……まぁ流石に今回は」
この演劇に関しては、ここまで色々あったが、全員がなにをやるか今日で決まった。
1人の漏れなくだ。
役者、裏方、どちらかハッキリしている。
だから文化祭自体に不測の事態は起こりえるかもしれないが、少なくとも演劇自体にはなにも不測なことは起きないだろう――
※
「――ではもう間もなく退院ということで。あと数日安静にしていてくださいね」
看護婦が定期として決められているチェックを終え、病室を出て行く。
あと数日安静にと口にしたのは、彼の気持ちをおもんぱかって。
「――ようやく退院だ」
彼――とは、とある勇者のこと。
かなり前に遡るが、選抜戦の予選にて、クレスとの戦いのすえ病院送りなった男でもある。
同じく勇者であるマイ・ハルカゼに治療してもらえなかったのは、王国側が『お仕置き』として入院を命じたからに他ならない。
選抜戦の予選では、それだけのルール違反を犯したのだから。
当然看護婦も事情は把握しており、だからこそ先のような忠告をしたのだ。
「――文化祭と聞いているが」
さてなにをするのだろう?と疑念を抱く。
一考のすえ、どうせ学生感満載の出店でもやるのだろうと結論づけた。
「――ま、テキトーに手伝えば良いか。どうせ俺は勇者、大きな仕事の1つや2つ任されると決まっているようなものだし」
やれやれと首を振る。
彼は――ユウト・ケンザキは、まだ知らない。
自らのクラスが『演劇』をやると決め、しかもガチ勢と呼ばれる存在になっていることを。
そして残念なことに、クラスメイトたちからすっかり忘れられているという事を――
つまり、1人の漏れはあったのだ。
どうも、東雲です。
随分と前、ボクは『9番目』の感想欄を閉じました。
それは新人賞や9番目の書籍に集中するためでした。
しかし同時に、自分に自信がなかったらでもあります。
なぜ自信がないのかは……多すぎてここでは(笑)。
だけどボクは、皆さんに感想をもらい、返信をすることが好きです。
もちろん今でもです。
次回更新は11/20(木)。
『9番目』以外のことで、1つ告知をするつもりです。
――また会いましょう。





