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第97話「下見」

 Q:ブラック企業(会社)とは?


 A:一般的に、従業員を過重労働・違法労働・パワハラによって使いつぶし、次々と離職に追い込む成長大企業を指す。また対義語はホワイト企業である。


     ※


 ――ハーレンス王立魔法学園。


 それは放課後のことだ。

 9番目の災厄こと自分、クレス・アリシアは大きな負傷を負っていた。

 

 気を抜けばすぐにでも意識を失いそう。

 呼吸をするだけでも一苦労。

 異世界風に例えるならば、負け戦から死に体で逃げようとする落ち武者といったところ。

 

 鈍い痛みが右手に襲いながらも、俺はなんとか足を進めていた。

 なんとか、なんとか生き延びようと――


『前振り長いわ』


 一喝。いやツッコミか?

 頭の中心に彼女(エル)から舌鋒(ぜっぽう)が飛んでくる。


『というかちっともシリアス感ないし。ここ学園だし。誰ともバトルしてないし』

「(……あんまりメタな発言するなよエル)」

『大きな負傷ってほぼノーダメだし』


 エルはそう言うが、右手がやられた。

 おそらく――腱鞘炎だろう(、、、、、、)


『含蓄ある風に、深刻そうに言ってるだけじゃない』

「(今日はノリ悪いな)」

『ノリって……クレスあなたそんなキャラじゃなかったでしょ? 入学した頃のクールビューティーはどこにいったの?』

「(クールはともかくビューティーは始めからない)」


 さて、そろそろ俺がなにをしているか説明が欲しいはず。

 簡単に言ってしまえば『場所探し』である。

 

 昨日せっせと『術符シート』という魔導具を作っていたのは、記憶に新しいはず。

 ただ紙にも見えるコレを、どう使うかはともかく。

 まずは術符を設置できる箇所を、学園の地図を片手にずっと奔走しチェックをつけていた。


 いたわけなのだが――


「……広い。広すぎるッ!」


 泣き言である。

 最初から分かってはいたことなのだが、この学園が広大すぎるのだ。

 今は本校舎にいるが、別校舎もあるし、研究棟も沢山あるし、もう詳細に書けないほどスケールが大きい。

 

 つまるところ腱鞘炎けんしょうえん気味になったのは、昨日のぶっ通し作業からの地図にチェックマークつけまくったせいだ。

 ちなみに気を失いそうのくだりは、たんに眠いということ。

 ブラック企業Q&Aは『災厄の数字(ナンバーズ)』への密かな批判である。


『だから最初から言ったじゃない、下見は数回に分けなさいって』

「だって……」


 面倒事は1回で終わらせたいじゃないか。

 と、一見すれば母と幼い子のやり取りのよう……ではあるが、あまり認めたくはない。

 なにせエルは褒められると調子に――


『わたしが褒められるとなんだって?』

「イタタタタタっ!」

『んー? ほら続きを言いなさいよ。ほら』


 脳を中から直接グリグリと痛めつけられる。まさに拷問。

 こんなことが許されるのだろうか?


『わたしは神だから許されるのよ。わたしこそがこの世のルール!』

「なんて横暴……っく、ゴメン。ごめんなさい」

 

 降参だ。

 すぐに謝って――


「(エルは褒めるとさ、その、うん、照れて可愛くなるじゃん? これ以上エルが可愛くなっちゃったらもう俺の理性が崩壊しちゃうなと心配で……)」


 大仰な言い訳、1周回ってもはや嘘くさい。

 いや2周回っても嘘くさいのに変わりはないが……


『へ、へぇ……』


 エルレブンさん、まんざらでもないご様子。

 

『……そういうことなら、まぁ仕方ないわね』


 と、そっぽを向きながら許して……くれた?

 ここまでくると、もはやなにが『仕方ない』のかは不明だけれど、九死に一生を得たわけである。

 甘んじよう。

 ちなみに今の内心、小説にすれば4行程度しかないソレはちゃんと内々に隠した。安堵はエルに伝わっていないから安心して欲しい。


 しかし1つの安心を得て、俺は気づく。

 もう1つの脅威がそこに迫っていたと――



「…………」



 連なる三点リーダー。

 無言の蓄積、直進してくる視線、不可視なる圧。

 長い廊下にポツンと俺だけしかいなかったはずが、向こうの曲がり角に人影が。

 彼女こそ(、、、、)、この身に脅威を抱かせた人物で……


「ひ、ひとりでなにをしているんですかクレス君……?」


 長い金髪と、大きな碧眼が相まみえる。

 声の主は――

 

「こ、こんにちはクラリスさん(、、、、、、)


 生徒会長にして、公爵令嬢にして、良き先輩にして、美少女なクラリス・ランドデルクである。

 ぎこちなく笑みを浮かべ挨拶をしたものの、彼女の瞳から疑い?は晴れていないようだ。


「ここを通りかかったらクレス君が見えて、少しお話しようかなーとコッソリ近づいてみたんですけど、さ、さきほどから1人でボケたりツッコミを入れたりして……だ、大丈夫ですか?」


 純粋に心配してくれているらしい……俺の頭を。


「もちろんです。さっきのは、ええっと……演技! 演技の練習なんです!」

「演技……?」


 だが案ずるなかれ。

 これまで完璧な仕事をしている……し、してきたはずの自分。

 この程度のこと誤魔化すのはたやすい。


「うちのクラスでは演劇をやることになったので」

「つまり、自主練……というわけですか? 1人こんな廊下で?」

「え……あ、そうですよ? 自分恥ずかしがり屋なもので……」


 た、確かに。

 いくら人の気配がなかったとはいえ、こんな廊下の真ん中で演技とか不自然すぎる――ッ!

 あと恥ずかしがり屋とか、お前自分で言うかって話だ。


『アホね』


 と、エルからは溜息をつきながら言われた。


「ふふ。まったくもう。だとしたら空き教室でも使えばいいのに……こういうところ抜けてますよね、クレス君って」


 しかしこんな苦しい言い訳にも関わらず、クラリスさんは笑ってくれた。

 苦笑しつつも――納得してくれた。


『この女も大概アホね』


 そういうこと言うなエル。

 俺はクラリス〝大先輩〟と呼ぶほど彼女を慕っているのだ。

 と、我ながら調子よく切り返す。

 するとエルは『恋は盲目』とぶっきらぼうに呟いた。謎である。


「だとしたら痛がってたりしたのも……」

「もちろん演技です」

「へぇ。いや傍から見ていて凄かったですよ? 本当に痛そうに頭を抱えてなにかに謝ってましたから。もしかしたらクレス君には芸術の才能があるのかもしません」

「そ、そうですか? あははは……」


 ……などと真剣に褒めてくるが、実際エルに頭痛攻撃をされていたから。

 なんかすいませんクラリスさん。

 

「あ、そうそう、クレス君にはちょっとした用があったんですよ」

「用?」


 思い出した!という感じで、クラリスさんがポンと手の平を叩く。

 それからなんともないように、笑顔でその言葉を発した。




「――クレス・アリシア君、死んで頂きますね」

 どうも、東雲です。


 ついに11月に突入しましたね。

 波乱の2018年も残るとこあと僅か……

 今回から更新回数を増やすわけですが、このあとがきは相変わらず続けようと思います。

 なんだか日記みたいで楽しくて。

 まぁ読者さんの大半が要らないなぁ~と思っているでしょうが……


 担当さんには許可もらっているので、11月中旬からは3巻のイラストも随時掲載していきます。

 表紙もカッコよく仕上がりました。こちらはもうすぐ公開できるでしょう。

 次回は11/3(土)。それでは!

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