第96話「仕掛」
「――久しぶりに術符作るなぁ」
現在地クレス・アリシアの拠点――ようは自宅。
俺は机に向かって、薄っぺらい〝紙〟と2時間近く格闘を繰り広げていた。
縦長の、自分の手より少し大きいソレに手足があるわけではない。
これは技術での戦いである。
「貼り付けた瞬間に透明になるのは大前提。生徒はともかく、教師やら高名な魔法使いにバレない作るってのはなかなか……」
結界を張るのはともかく、そもそも魔導具作りは専門ではない。
枚数もかなり必要なので、だいぶ骨を折ることになりそうだ。
「拠点から……ストレガさんが作ったものを郵送して欲しいけど、流石に難しいもんなぁ……」
新たな任務に際し、必要となった魔導具。
文化祭まで約1ヶ月あるものの、自分の戦いは既に始まっていた。
『あの女も面倒なこと頼んで来たわよねぇ』
「そう言うなエル。ボスも警戒してるってことだ」
頭の奥から冷ややかな、けだるげな相方の声が響く。
『正体不明でしょ? わたしが全力出せば誰が来ても一撃だけど』
「学園もろともな」
『いけない? もう家で課題をやる必要もなくなるのよ?』
「宿題がやりたくないがために学園を破壊するバカがどこにいる……」
『学生とは死んでも課題をやりたく生物。クレスのこれまでの学生生活を見てそう学んだわ』
「俺の学生生活そんなに苦しそうだった!?」
心外だ。
流石に死んででも、なんては思わない。
面倒な課題が出たときは、せいぜい学園に隕石の1つや2つ掠らないかな、と思っていたぐらい。
(いや隕石が掠っただけでも学園は崩壊する……か?)
まぁなんにせよ長い作業の時間は、こうしてエルと他愛ない会話を繰り広げていた。
『だけど新任務?だけじゃないわよ。もっと厄介かも……いえ、もっとも厄介な事があるじゃない』
「アウラさんとマキナさんだろ……」
『どうするつもり? 伝えなかった時点であなたも共犯よ?』
「片棒を担いでいる自覚はある。でもあれだけ脅されたらなぁ……」
『年上の女に弱いのがあなたの弱点よ。ビシッと断るべきだった』
「……いやまぁそうなんだけど、」
凜々しく説法を飛ばしてくるエル。
正論だ。
自分の方がまともだと思っていたが、どうやら彼女も――
『はぁ。わたしアイツらほんと嫌いだから、もう会いたくないのよね』
「そっちが本音か!」
ガッカリだ!
見直した俺の良心を返してくれ。
(あの時はマキナさんに『お仕置きしますよ?』とシンプルに言われたけど……)
それだけ聞くと、俺だけに対しての手ぬるい懲罰を想像した。
が、詳しく内容を聞いてみると――
『お仕置きの内容ですか?』
『ぐ、具体的にはなにをするのかな~って……』
『そうですね。まずは急ぎ学園を武力制圧し――』
『あ、ハイ。もう大丈夫です』
――と、話の序盤でオチが見えた。
ロクでもないことになるっていうな。
少なくとも、ハーレンス王立魔法学園が消失、もしくは形が残っても魔王城の如く禍々しい様相になることは分かってしまったのだ。
「……だけどアウラさんとマキナさんが大人しく、本当にただの一般参加に甘んじてくれたなら、2人も俺も、そして学園もハッピーエンドを迎えられる……」
『それ無理じゃない?』
「っう、そうハッキリ言ってくれるな。可能性は0じゃない」
それに――
『勝利を得るためにはゲームに参加しなければ始まらない――か』
「ああ。それがどんなに難しいクソゲーでもな」
『くそげー?』
「ワドウさん曰く、うんこのようなゲームの事を指すらしい」
だがクソすぎて逆に面白いモノもあるようだ。
しかし今回の一件が愉快かと聞かれたら、即座に首を横に振るが……
「――よし、これで必要枚数は作り終えたかな」
符を束に纏めた。
結構な枚数だったので、だいぶ時間が掛かってしまった。
これでようやく一息つける。
『お疲れ様。なら後は……』
「ああ、明日あたり一度下見をして――文化祭準備期間に仕掛けるぞ」
どうも、東雲です。
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