第95話「再起」
自分――クレス・アリシアの任務は『監視』である。
9番目の災厄でありながらも、監視をするために学園の生徒として潜入をしている。
だが改めて監視役ですと言うと『あ、そういえば監視役でいるんだっけ』なんて思う人もいるかもしれない。
いやいたらダメなんだけどさ……
「おーいクレス」
「……」
「おーい。聞こえてますかー」
俺が勇者たちに向ける視線上にニュルッと男――スミスが入り込んでくる。
どアップで近づかれたので、瞳孔の8割はむさい男の顔面で埋まってしまった。
「無視ですかー?」
「……」
「いやさ、可愛い女の子の顔やら首筋やら胸やら尻やら、この短い休み時間でも常に凝視したいってのいは同じ男として分からなくもないんだけど――」
「お前と一緒にしないでくれ!」
「お、反応した」
「……それを無視したら同族判定をくらいそうだったから」
「違うのか?」
「さも同族だよな?みたいな感じで振らないで欲しい」
俺は女子を凝視――ではなく、監視をしていたのだ。
帝国から王国に帰ってきて心機一転、真面目に監視をしている。
流石に半年近く一緒にいれば、それなりに会話はできるというもの。
特になにを聞き出すでもないが、警戒は怠らない。
「で、誰を見てたんだよ?」
スミスは不敵な笑みを浮かべながら小声でそう聞いてきた。
「誰って言われも……」
勇者3人だ(ケンザキは入院中。もうすぐ復活するとかなんとか)。
ただ正直に3人と言っても照れて言えないんだろーとか言われそう。
「別に。ぼーっとしてただけ」
「またまたー。どの子を見てたか照れ言えないんだろー」
はい。結局言われた。
どうやらどの道ここに至るようだったらしい。
「ま、オレみたいに良い男は、野暮な詮索はしないけどよ」
「なら最初から聞くなよ……」
「だがもうすぐ華の文化祭、好きな子がいりゃあ一緒に回りたいし、いちゃいちゃしたいし。多くの学生が文化祭当日までに彼氏彼女、もといその候補になるぐらいの人が欲しいわけよ」
「ほー」
「……なにが『ほー』だ! お前さんざん上級生のお姉様方にラブレターまがいの手紙もらってるだろうぅ!?」
あれだけ楽しそうだったのに、瞬時に顔を歪め涙を流すスミス。
日頃から思うがコイツは百面相の達人になれると思う。
「お、オレが、オレが毎日どんなに失恋をしているか……ッ!」
「いや知らないけど」
「だ ろ う な !」
「あ、あんまりそうグイグイ来るな……顔が近い……」
「しかもキサマはその誘いをことごとく断り……ッ!」
「す、スミス?」
「人の心が分からぬクレスよ! どうやらお前を女にするしか道はないようだ――っ!」
「どういう理論!?」
「スミス理論じゃああああああああああああああああ!」
と、暴走したスミスを魔法であしらい、いつもの如く吹っ飛ぶ。
壁にめり込み轟音を立てるが、やはりいつものこと。
誰も気にせず、振り向くこともなく雑談を続けている。
「人の心、ね……」
視線を勇者たちに戻す。
スガヌマは寝ているが、マイさんもワドウさんも楽しそうに談笑している。
まさに年相応。
不審だったり不信である点はまったくの皆無(ワドウさんには腐心があるようだが……)
(――この平和すぎる監視、勇者たちになにか大きな変化は起きるんだろうか)
◆◇◆
――そして帰宅。
俺は勇者たちを王城までつけた後、自宅に到着した。
玄関を開けるとそこには1通の手紙が落ちていた。
赤いシーリングスタンプが暗い空間によく映えている。
「……ん。ボスからか」
暗号文となっている手紙だが、わざわざ自分に便りを送ってくる人物など数字以外もとからいない。
「定期報告書の時期でもないし。内容は……」
スラスラと読み進めていく。
俺は軽い気持ちでそれを手に取った。
根拠もないのに、さして重要ではないだろうなと思ってしまった。
だが――
「……任務、変更?」
遅れてすいません。
ようやく3巻が校了完了。一息つけます。
イラストも完成しつつあり、11月には1巻のとき同様『なろう』にイラストを掲載していくのでお楽しみに。
3巻の内容もイラストも、たぶん皆さんの多くが望んでいる話になったのではと思っています(女装話ではないですよ笑。ちゃんと熱い話です)。
遅刻ばかりのボクですが、11月は『週4回投稿』をすると決めました。
何曜日に投稿していくかは、次の更新日(27日)にお知らせします。
よろしくお願いします。





