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第91話「五六」

「ま、マキナさん――ッ!?」


 襲来せしは6番目の災厄。

 『消失神殿(ロスト・テンプル)』のマキナ。

 突然の同胞の出現に、クレスもアウラも目を見張る。


「久しぶりですねクレス」

「ど、どうも」

「よ、マキナ!」

「赤女……あなたに挨拶はしていないのですが」

「寂しいこと言うなよー」

「慣れ慣れしく近づいてこないでください。暑苦しいです」


 空間の狭間から大地に降り立ったマキナ。

 クレスと一応アウラも交え言葉をかわす。

 

「でもマキナさん、なんでこんなところに……」


 クレスの疑問はもっともであった。

 他の災厄が来ることなどボスたちから聞いていない。

 まさかアウラさんと同様に、好き勝手歩きたまたま巡り会ったとでもいうのだろうか。


「まぁ大変面倒ではあったのですが、エリザから依頼を受けましてね」

「ボスから?」

「はい。クレスの元へと(、、、、、、、)向かったアウラ(、、、、、、、)を捕獲しろ(、、、、、)、と」

「「――!」」


 ようは連れ戻しにきたということ。

 そしてアジトから帝国にいることを聞かされ、ここまで足を運んできたわけだ。


「ただ途中でおかしな人間を見つけまして、少し懲らしめてやりました」

「おかしな人間?」

「はい――こちらです」


 バリンと空間を割り、手を突っ込んでゴソゴソと漁る。

 目的の物が見つかったのか、ヒョイッと持ち出して来たそれは――


「うわぁ……」

「生首か」


 マキナが右手で掴んでいるのは男……いや、少年の頭部だった。

 うっすらと開いた瞳に光はなく、切断された首元からは血が流れ出ている。

 しかもこの顔にクレスは見覚えがあって――


「これって正体不明(アンノウン)の……」


 ダンジョンマスター。

 空間に干渉する異能力者だったと記憶している。

 どうやら帝都には長刀使いだけでなく、まだ異能力者が潜んでいたらしい。

 

「この人間が勇者を狙っていま……」

「勇者を!?」

「落ち着いてくださいクレス。最悪の事態になる前にこうしてワタシが懲らしめましたから。学友たちは無事ですよ」

「そうですか、ありがとうございます」


 ただ首を落とすその行為は、もう懲らしめる(、、、、、)という範疇を越えているような……

 

「あ、そういえばアウラさんの方はどうだったんですか?」

「どうとは?」

「あの長刀使いですよ」

「あー倒したぞ。結構手強かった、黒い焰まで使うことになったし」

「ちなみに遺体は?」

「燃えて消えた。塵一つ残さなかったぞ!」


 エッヘンと胸を張るアウラ。

 誇って言うには怖すぎる台詞だ。


「なら一件落着ですね。帰りますよ赤女」

「えー! まだクレスと会ってなにもしてないぞ私!」

「なにもしてない内にです。ワタシとてアナタの手を引くなど嫌ですが、エリザに借りを返さねばなりません」

「頼むマキナ! なぁクレスも!」

「そう言われても……」


 棺にピアスに首チョーカー、全身真っ黒なマキナは見た目はあれだが、中身は……まだ常識的な方だ。

 少なくともアウラのように感情の機微が激しいわけではない。

 仕事のできるクールなお姉さん、と自称しているらしい。


「まだなにもしてないー!!」

「子供ですかアナタは……」


 嫌だ嫌だと暴れるアウラ。

 ただ彼女の言うとおり、奇跡の再会はできたが共に過ごす時間は少なかった(アウラ基準で)。

 しかしこれ以上一緒にいればクレスの任務に影響が出ると危惧される。

 ボスたちもまだクレスに正体を明かして欲しくはないのだ。


「せめて学園の文化祭ぐらいは行きたいぞー!」

「ぶんか、さい?」


 だだをこねていたアウラが口にした1つの単語。

 マキナはそれがなにか分からず首を傾げる。


「ン、お前も知らないのかマキナ? 私も最近クレスに聞いたばかりだがな!」

「アナタと一緒にされたくはないですが……クレス、文化祭とは?」


 説明をクレスに求める。

 彼はアウラにした時と同じように、簡単に説明を始めた。


「えっと、文化祭っていうのは学生たちによるお祭り……ですかね。それぞれのクラスや部活で出店や演劇をやったり、ステージでイベントを開催したり」

「つまり学生による学生のための行事、というわけですね」

「そんな感じらしいです。俺も文化祭の経験はないですけど、今通っている学園のこの行事は王都でも特に大規模かつ派手で、他国からわざわざ足を運んでくる人もいるとか」

「ほほう。学生主体だからとバカにはできなさそうですね」


 まだ入学してすぐの頃あった学食のくだりを覚えているだろうか。

 王国随一の学園、本来そこに入れる(、、、)だけでも価値があるのだ。

 ヘタな儀式たパーティーよりも人の来る数は圧倒的に多い。


「期間は?」

「1日じゃないですよ。えっと何日間だったかな……」

「少なくとも2~3日はあるわけですね?」

「ですね。すいません確認不足で」


 準備期間と開催期間は合わせて休校となる。

 スミスは喜びのあまり小躍りしたぐらいだ。


「日数もそれなりにあり、人の数も多い……」


 顎に手をあて、なにやら考え込むマキナ。

 少しして決めたといった(てい)でコクリと頷く。


「あー。赤女発見しましたー」

「「?」」


 マキナは無表情かつ棒読みで突然語り出す。

 それから背負った棺の中から1つ小箱を取りだし――


「赤女、この魔導具が入った箱を壊しなさい」

「壊す? いいのか中になにか入って――」

「早くしなさい。スクラップです、スクラップ」

「お、おう、じゃあ壊すぞ」


 魔導具が入っているという箱を差し出し、アウラに破壊させる。

 最後には炎を発現し、なにかも分からぬまま全ては灰となった。


「あ、あー、エリザに連絡するための通信機器を、赤女に壊されてしまったー」

「え」


 驚いたのはクレスである。

 この人は一体なにを言っているんだ、と。


「赤女、今度はワタシの頬を軽く殴りなさい」

「な、殴る?」

「いいから。触れる程度で」

「お、おう」


 命じられるままにマキナの頬を殴る……というかポンッと触れるアウラの拳。

 すると――


「あーれー、反抗してきた赤女にやられてしまったー」


 よよよとスローに倒れ込むマキナ。

 その光景にクレスもアウラも首を傾げる。


「……はい、というわけでワタシのアウラ捕獲任務は失敗してしまいました」

「「?」」

「任務失敗です。無念……というわけで、これからワタシは自由行動(、、、、)となるわけです!」 

 

 倒れていた身体を瞬間で起こし、無表情であるものの若干高くなった声音でそんなことを言い始める。

 ――ようは仕事放棄だ。


「その文化祭とやら、興味が湧きました」

「ま、まさか……」

「ワタシも参加します」

「はぁ!?」


 意味不明である。

 クレスを楽にするため送った支援が、ここに来て脅威と変わる。


「まさか布教をする(、、、、、)とか言うんじゃないでしょうね!?」

「まさかのその通りです。流石ワタシの唯一信者であるクレス、心が通じ合っているのですね」

「通じ合いたくない!」

「そんなに怒らないで。ほら、よしよししてあげますから」


 怒りをなだめるため銀髪を優しく撫で始める。

 自らをシンボルとしたマキナ教、これの復興のため人の溢れるこの祭りに注目を置いたらしい。

 病的とも呼べる布教第一主義――それは任務すらも放棄させた。

 

「しかしワタシの信者たるクレスの仕事を邪魔したくはない。そこで大変遺憾ですが赤女」

「ん?」

「ワタシと――手を組みましょう」


 ババン!と効果音が付きそうな誘い。

 アウラは意図が読めず頭にクエスチョンマークを浮かべている。


「ワタシとアナタは命令違反をしたわけですし、これからされるであろうセローナの索敵に引っかからないよう2人で隠れましょう。クレスと共にいたのでは迷惑がかかる」

「つまり戦略的撤退ってことだな」

「ほとぼりが冷めたらワタシたちだけで王都に向かいます。それで文化祭とやらに参加するわけです」

「ふむふむ……」


 どうやら2人の中で事はどんどんと進展しているらしい。

 が――


「ちょっと待ってください! まず根底からおかしくないです!? 災厄が文化祭に来ちゃダメでしょ!」

「差別はよくありませんよ」

「そうだ! 祭りはみんなで楽しむものだ!」

「なんでこういう時だけ結託するんですかね!?」


 クレスがなにを言っても聞く耳をもたない2人。

 どうやら意思は揺るがないようだ。


「もう俺がボスに――」

「チクったらお仕置きしますよ?」

「なんで!?」

「エリザの拳骨は痛ぇもんなぁ……」

「あの女の暴力も効きますが、セローナもだいぶ恐ろしいんですよね」

「2人ともすごい愚痴るじゃないですか……」


 なんにせよクレスがボスたちに密告しようものなら、派手に暴れちゃうぞ☆とマキナに可愛くいわれた。

 ただその時も無表情なので、可愛いというか悪魔じみていた。


「よっしゃ! なにはともあれクレスの学園にも行けるわけだ!」

「まだ先ですけどね」

「いいんだよー! で、どこに隠れるマキナ?」

「そうですね……離れすぎてもあれですし、王都の方、東にでも向かいますか」

「りょーかい!」


 東だなと言って走り出すアウラ。

 そっちは西なのだが……


「まだ細かい打ち合わせをしようというのに、気の早い女です」


 やれやれと溜息をつくマキナ。

 1対1となったこの状況、クレスは疑問に思っていたことを1つ尋ねた。


「でもマキナさん、どうしてアウラさんをアジトに転移させなかったんですか?」


 言ってしまえばマキナはダンジョンマスターの超上位互換。

 彼と同じく消費は激しいだろうが、遠くにある数字(ナンバーズ)の拠点にアウラだけ送ることは可能だった。

 内面はどうかは知らないが、表面的には嫌うアウラをなぜ見逃したのか。

 任務を完了した後に、1人で文化祭に赴くのがベストだったはず――


「それはですね――」

 

 クレスの疑問を受け、マキナは彼方……小さくなりつつあるアウラの背中を見ながら言った。

 その時の彼女はほんの少しだけ微笑んでいるようで――




「任務放棄、みんなですれば怖くない」




 どうも、東雲です。


 今回で帝国編はほぼ終了となりました(来週に軽くまとめます)。

 そして次章からは『文化祭編』を予定しています。

 災厄の数字が組織された理由や、正体不明の目的もようやく出せるかなと。

 忘れられし5人目の勇者にもそろそろ出番が近づいてきた…?

 最初は導入?をそれなりに挟みますが、気長に待っていただけると幸いです。


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