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第87話「防衛」

 5番目の災厄アウラ・サンスクリット覚醒。

 正体不明(アンノウン)が1人――サムライ、佐々木小次郎との戦闘を開始する。

 そして彼女の仲間でもあるダンジョンマスターもまたひとりでに動き出した。

 ただ彼にも彼で、遠方より監視するモノの影が――――


 帝都では『戦姫』が軍と勇者を率い防衛戦への最終準備段階に移行していた。

 相手は暴走していると思われる巨大スライム。

 加えてソレの先頭には森より逃れてきた魔獣たちが先行している。

 これをまず討たなければ帝都に未来はない。


 またラスボスともいえるスライムは剣聖とクレスが対処に当たることに。

 人類を征服せんと近づくソレは2人の少年少女の活躍に託されていた。


     ◆◇◆


「――ハルカゼ様、こちらです」


 勇者の1人――春風 舞は帝国軍人に連れられとある場所へ。

 

「ここが……」


 そこはとても広い空間だった。

 もう少し言い加えるのなら〝真っ白〟な空間である。

 天井も床もカーテンも、そして数え切れないほど置かれたベッドもまた白い。


「帝国を基点とし戦う際の〝病院〟となります」

「……」


 野戦病院……とまでは呼ばないものの、戦争に際し急造された病室である。

 漂う薬品の匂い、酷いことになるなと祈りを捧ぐばかり。

 

「流石に誰も(、、)いないんですね」

「ええ」


 この広い空間でせわしなく動いているのは白衣をきた女性――つまり看護師だけ。

 血を流し痛みに唸る患者はまだいない。


「報告によればポツポツと交戦は始まっているようですが、まだ序盤も序盤」

「そうですよね……」

「ふふ、今運ばれてきては帝国兵として名折れ、姫様に折檻……いえ、お仕置きされますから」

「あ、あはは……」


 どうやら帝国軍人には中でも戦う相手がいるらしい。

 大変だと思いつつまた周囲を見渡す。

 目線が泳ぐ、意図はしていないのにだ。 


「勇者様が不安になる必要はありません……というか、しないでください」

「……戦争、ですもんね」

「初めての現場できっとお辛いでしょう。でも患者の前でだけは……申し訳ありません、こんな命令するみたいにお願いして」

「大丈夫です。心構えはローズさんからバシッと既に言われましたから。それに他人の心配ばかりしてると姫様にお仕置きされますよ?」

「あ、あはは、仰るとおりですね。ええ、折檻は勘弁だ。わたしの方が心配しすぎ……いえ、弱気になっていたかもしれません。では――頼みました勇者様」

「はい!」


 一瞥をし案内役は去って行く。

 これから訪れるのは治療という名の戦場、桜の花びらのようにヒラヒラと散ってく魂を1つでも多く掴む。


 できるできないよりやるやらない。


 春風 舞という人間がここにいる意味を――


「っっっよし……!」


 両手で頬をパシンと叩く。

 気合い十分、瞳の〝青〟を輝かせる。

 それは異能を備えた宝石、これまでの経験をフルに発揮させるのだ。

 

「……できる、できる、できる」


 砂漠の中に眠る1個のサファイヤ、その真価を今こそ――



「――――私なら……いや、私だから(、、、、)できる!」


     ◆◇◆


「姫様」

「配置は完了した?」

「勇者様たちは全員配置につきました。ただ東門の砲台だけもう少し時間がかかりそうで……」

「あら、鍛えられた帝国軍人が初めて戦場に立つ勇者に遅れをとっていると」

「も、もも、申し訳ありません!」

「急ぎなさい」

「っは!」


 伝達役の兵は彼女の言葉を聞き駆け足で消えていく。

 自分よりも年下――少女に怒られただけというのに男の様相は真っ青であった。


「……そんなにわたくしって怖いのかしら」


 無人となった司令室、何気なくポツリと出た言葉。

 いかに指揮官という肩書きや、姫という身分であったとしても1人の乙女。

 ああもビビられては流石に傷つく。


「……恐怖のお陰で言うことを聞いてくれるという利点もありますが、乙女としては要らないモノですわね」


 いくつか見合いの話は来ているが、きっと自分の力や態度を見た途端畏怖するのだろうと思ってしまう。

 事実パーティーや式典で会った異性はみな政略と同等、それ以上に恐れを抱き対処を考えていた。


「……はぁ、クレスさんとの試合がおじゃんになったのが本当に痛い」


 あわよく――などと考えていたが、トーナメント自体が破綻してしまったのだから約束もなにもない。

 勝利でも敗北でもない結果を見いだすとは、彼は女性以上に運命に愛されているらしい。


「それこれもあの魔族(スライム)のせい……今回はこの鬱憤を魔獣たちにぶつけるとしましょう……っ!」


 うふふふと笑いながら彼方を見据える。

 無意識なこういう発言やオーラがまた周りを怖がらせるのだが……本人はまだ気づかない。


「本命は剣聖たちに任せたことですし――」


 こちらはこちらで都を護らなくてはいけない。



「さぁ、帝都防衛戦の始まりですわ――」


     ◆◇◆


 赤黒く染まった樹海、(よど)む大気に眩む視界。

 深い森は巨大な流動体に占領、遠慮なくのしかかるグラビティに獣たちも逃げ足を速める。




「……やばくねー」

「……ああ、やばいな」




 クレスと剣聖センは大地を駆けながら〝敵〟を確認する。

 馬より強化された自分の身体を信頼、天才同士だからできるハイ・スピードな展開。

 

「デカすぎてもう視界に入るんだもんな――!」

「……まずいねーまずいわー」


 敵とされる巨大スライムまでそれなりにある距離。 

 鳥のように空を飛ばなくとも、ノミのように地を這わなくとも、2人の瞳孔はそのサイズを何者よりもハッキリと視認(しにん)していた。

 きっとあれが帝都を襲おうものなら数え切れないほどの死人――被害が出ることだろう。


「……あれ倒すの無理じゃね?」

「ちょ、行く前はすごい意気込んでたじゃん!」

「……そうだっけ?」

「いやいや『……今回だけは本気を出してやるか~』みたいなことカッコよく言ってたって!」

「……別人じゃない?」

「確実にお前だよ!」


 口も動かしながら、足を休めることなく前進前進。

 帝国人・勇者・都――大きく言えば全人類を救うための前人未踏なラスボス退治。

 天変地異的な敵を前に背水(はいすい)の陣、もう後には退けない。もうやるしかない。

 

「……まぁお姫様にやるって言っちゃったし」

「それに何故か付き合わされる俺な」

「……もしかしてやる気ない?」

「センよりはあるよ」

「……失礼な、ボクだって髪が真っ白になるくらいプレッシャー抱えてるんだぞ」

「元から白髪(はくはつ)じゃん!」


 ナイスツッコミ――などとクレスを褒める者はここにいない。 

 各々がそれぞれの戦場で戦っている。

 

(もうすぐ帝都でも魔獣防衛戦が始まるだろうな――)


 ただあそこには『戦姫』と……一応勇者もいる。

 数が多いことを除けば帝都に迫り来る魔獣の質は高くない。

 英傑(えいけつ)軍師ならば適切な指示を出し激烈(げきれつ)な戦に終止符、無事勝利を収める――と、クレスやセンは考えている。


「問題は俺たちの方だ……策はあるんだろ?」

「……まぁね」

「俺の仕事は?」

「……時間稼ぎ」

「ちなみに策の内容を具体的に聞いていいか?」

「……聖剣のパワーを貯めて最後にドッカーン!ってやる」

「…………りょーかい」


 それだけ聞ければ十分と追求はしない。

 ようは力技であの巨体をねじ伏せるというのだ。

 いやねじ伏せるというかは殲滅、肉の一片でも残せばスライムは時間をかけまた再生・復活をすることだろう。


「……あと、雑魚も頼むね」

「あぁー……」

「……ほらコッチにも来たよ」

「ったく、分かった。そっちも大部分は請け負う」


 森から逃げる魔獣全てが帝都に向かうわけではない。

 その軍勢は森へと向かうクレスたちにも降りかかる。

 磁石で言えばプラスとマイナス、天体で言えば惑星と重力――これは約束された法則、互いに引かれあい衝突するが決まり。




「じゃ、センのための道を作るとするとするか――っ!」

 お久しぶりです。

 投稿が遅くなってしまいスイマセン。

 

 夏コミからの実家帰省でバタバタしてました。

 あとファンタジア大賞の〆切まで2週間を切りましたね。

 挑戦する同志さんいましたらラストスパート頑張りましょう!


 投稿頻度を増やしたい的なことを言ったんですが、今後は〝週一〟投稿にします。

 基本〝土曜日〟に更新です。

 ゆっくりペースになってしまいますが、よろしくお願いします。

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