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第82話「戦姫」

「――とうとう来たわねこの時が」

「――俺はそんなに待ってなかったですけど」

「――あら、連れないこというのね」


 天高く昇る太陽、真上からジリジリと熱射線を落とす。

 広いステージだからか、端の方には蜃気楼が掛かりグニャリと曲がって見える。


「氷剣とは、夏にはピッタリね」

「どうも」


 クレスの右手には刃渡り2尺3寸の剣が握られていた。

 氷魔法によって生み出されたソレ。

 温度差もあってだろうが、刀身より生まれる白い冷気を遠くからでもハッキリと視認できる。


(戦姫さんの方は――槍ね。しかも2本も(、、、))


 (かた)やローズの武器は2本の長槍。

 右と左でそれぞれ1本ずつ持つという希有なスタイル。

 ただどちらも姫の使う得物としては装飾もなく、鋼一色とシンプルな出立ちだ。


「槍は剣よりも強し――クレスさんもそうは思いません?」

「さぁ、使い手によるんで」

「ふふ、ごもっとも」


 この大会では武器に明確な規定があり、剣聖の聖剣といった特別なモノの持ち込みは出来ない。

 ローズも例外ではなく、こうして試合向けの貸し出し武器を使う。


『それでは選抜戦最終試合を開始いたします。カウント――』


 クレスの描く理想的決着は――激闘の末に敗北をすること。

 初めはローズもそうだろうが、手探りとして軽い打ち合い。

 相手の力量を大方把握してから、上手いこと幕を下ろさせるというものだ。


『――――試合、開始です!』 


 灼熱の空気、熱がステージを焦がす中、2人の戦士が勢いよく駆けだした。


     ◆◇◆


 人類最古の武器――槍。

 

 槍には主に2種類の使い方がある。

 1つは〝刺突(しとつ)〟。

 敵の臓に突き刺すというシンプルな手、獲物を近接戦にて仕留める方法である。


 ただ槍の真価は中・遠距離戦でこそ発揮される。

 それが2つ目の使い方、すなわち――




「――穿(うが)ちなさい、赤きは裂する槍(アル・ボルグ)!」




 投擲(とうてき)

 ローズは開始早々、右手に握っていた槍を勢いよく放ったのだ。

 これぞ槍の真骨頂とも言える代名詞的攻撃である。


「……ッマジ!?」


 2本の槍を持っていた、1本を投擲というのは別段想定できない攻撃ではない。

 クレスも想定はしていた――が、驚いた。


「一発目ですもの! 大サービスしましたわ!」


 その投擲はもはや物理攻撃の域を超えていたからこそ。

 言うならば光放射(レーザー)

 赤い魔力を纏った、超高速で放たれる〝破壊〟の一撃であった。


「なにが大サービスだよ……ッ!」


 氷壁展開――小声で毒づきながらもクレスはすぐさま防衛に移る。

 レーザーにも負けない高速のシフトチェンジ、(サークル)を描くように輝く銀色の魔力、コンマ数秒で氷の牙城を組み立てる。


「氷の女王が居城、生きとし生ける全てを阻め! 此処に建立しろ――女王の冷たき絶城アルス・マグナ・ガーデン!」


 薄透明な障壁(シールド)が瞬間的に展開される。

 クレスを囲うようにして生まれた盾は〝赤い一槍〟と衝突、するとバキッっという氷柱(つらら)が折れたような音が辺りに響く。 

 見守るスミスたちはまさかクレスの盾が破られたのかと思ったが……


「――お返しだ」


 ドライアイスを水につけたように漂う白煙。

 それを霧散させるは銀色の閃光弾――否、クレスから送る氷槍の投擲(カウンター)であった。

 

「あら、貴方も使うんじゃない!」


 ローズは大して驚くこともなく、むしろ喜ぶように声を上げた。

 そして――


纏うわ(パワー・ポイント)! 帝国に喝采、帝国に喝采を!」


 無属性魔法のモノとは違う――特殊な強化術。

 赤い粒子(レッド・ベール)が完璧と言ってもいいローズの美しい肢体を包んでいく。

 

「――久しぶりに楽しめそうですわね」

「――っ」

 

 ローズは俊敏に動く、強化された二足はまさしく電光石火の速度。

 彼女は赤い稲妻を足跡のように残し姿を消す。

 

「キレイに(さば)いてさしあげます!」


 本来のスタイルである一本使い(、、、、)に。

 数段格上へと昇華された瞳孔と鼓膜、身体がクレスの放ったカウンター全てを捉える。

 そして槍をクルクルと遊ぶように数回転、これが彼女のルーティーン。

 最後に一呼吸、スゥっと息を吐いたかと思うと――


「破!」


 粉砕。粉砕。粉砕。粉砕。粉砕。

 前へ、右へ、左へ、得物を巧みに操り氷槍を真っ向から砕いていく。

 クレスの攻撃は遅くはない、むしろ凄まじく早いものだ。

 それをいとも容易く成す――まるで氷の張った水たまりを踵《で割るぐらい気安く、簡単に。


(こんな強いとか聞いてないって!)


 対してクレスもぼやっと傍観しているわけにもいかない。

 ローズの達人ぶりと見るやすぐ相手の情報を上方修正。

 脳をフル回転させつつ彼女に迫る。


「あらあら、こんなに近くに。今度はわたくしと舞踊(ワルツ)を踊ってくださるの?」

「こんな血なまぐさいダンス御免だ!」


 さっきまでは開いていた、お互いの距離が一気に縮まる。

 クレスの余裕があった心持ちもだいぶ縮小した。


「さぁ――踊りましょうか!」


 迫る距離と距離、先に仕掛けたのはローズだった。

 槍はリーチが長く懐に入られると不利だが、近接線における接触時は他の武器に比べ有利でもある。

 だが並の(、、)達人の技であればクレスが対処できないはずも――


独唱曲(アリア)!」

「!」

交奏曲(シンフォニア)!」

「っ!」



協奏曲(コンチェルト)――ッ!」



「まだまだ行きますわよ!」

「じゃじゃ馬お姫さまだなぁっ!」

「うふふふふふふふふ!」


 これもまたクレスの見当違いであった。

 ローズは並の達人ではなく、その更に上へと至った達人であった。

 一突、二突、三突、放たれる連撃は間違いなく超一級の技々である。


(それでこの〝赤い力〟が戦姫の『異能』ってわけだ)


 クレスは押されているのはなにも力量に差があってではない。

 相手の〝力〟を見定めるためである。


「だけどよく分かんないや――ッ!」


 空いた一瞬の隙、ローズの鳩尾(みぞおち)に膝をたたき込む。

 だがその感触は鉄を蹴ったときのような。

 当たったという手応えはあるものの――


「容赦ない、しかも効きましたわ!」

「嘘つくなよ!」


 賛辞には皮肉を送る。

 

「ならお返しを――赤い独唱曲を貴方に(アリア・アル・ボルグ)!」


 三度の赤い閃光。

 不可思議な粒子が彼女の槍に纏う。

 鋭利な先端に〝破壊〟の事象が付与されたのだ。

 至近距離で放たれるソレは(さき)の投擲より何倍もの殺傷能力を秘める。

 察しないクレスではない。


「防げ――氷結界!」


 出し惜しみはそうしていられない。

 高度な氷魔法が入れ替わり激しく構築、数々の技が芸術的に積み重なる。


「おっもい――!」


 魔法戦のお手本とも言える戦い方を見せるクレス。

 槍と盾の衝突は、またしても大きな衝撃音を生んだ。

 しかし構築が甘かったか、クレスの頬に小さなかすり傷が――


「姫様の攻撃は効くなぁ……!」

「嘘をつかないでくださいまし!」


 今度はクレスの賛辞にローズが皮肉で返す。

 火花散る剣戟がまたしても、ローズは当然だがクレスも大事な線引きはしつつもれっきと殺意を込めて向かい合っている。

 

「素敵ですわクレスさん! これだけで惚れてしまいそう!」

「間に合ってま……っす!」


 剣と槍が交差、衝突をしつつも言葉はハッキリと届く。


「振られてしまっては仕方なし! ならばこそ帝国人らしく力で奪うまで!」

「ローズさんて意外と脳筋ですよね!」

「帝国人はみな脳筋ですわ!」

「もっと酷いじゃん!」

「褒めてもなにもでませんのに!」

「褒めてないし!」


 コミュニケーションが取れているようで取れていない。

 なにせ彼らは口で語るのではなく、武器と魂の鼓動で伝えるのだから。

 会話が成り立たないことなどさして重要ではないのだ。


 戦場に事の善悪なし、ただひたすらに斬るのみ。


 かつてそう謳ったサムライがいた。

 クレスとローズはまさにそれ体現している。

 大会と名を打って始まった戦いも――死闘にまで昇華しているのだ。

 

 そう、この戦いは己が人生を賭けた戦いのだから。

 三人称視点で書かせてもらいました。

 これまでが一人称だったので本当は良くないんですが…

 違和感があったかもしれませんがご容赦ください。


 あと無駄話なんですが、昨日とあるゲームのデータが消えました。

 課金はしていなかったのでダメージはとても少なく済みましたが、彼女たちともう会えないと考えるとやはり悲しいです。

 ボクは武蔵ちゃんが好きでした。ボクが初めて真剣に育てた子でありましたし。


 新しいCMも公開されましたね。

 素晴らしい映像であると同時に、あの副題のセンスには脱帽しっぱなしです。

 ボクも見習おうと思っています。

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