第80話「本戦」
遅れてスイマセンでした。
毎度のことでもう『ハイハイ、また東雲の遅刻芸が出たよ~』と思われてそうですが、その通りです。
許してください。
『おぉぉ! 剣聖は圧倒も圧倒も圧倒的!』
『素晴らしいですねぇ~』
『やはりこれは卓越した剣術あってこそでしょうか!?』
『素晴らしいですねぇ~』
『……だそうです! やはり剣聖の技量とセンスは素晴らしい!』
◆◇◆
「なんだか解説の人テキトーじゃないかい?」
「……まぁ」
剣聖と帝国代表の名も知らぬ学生がバトル。
ウィリアムの言うとおりアナウンスはだいぶカオス。
剣聖の速攻猛攻さることながら、急にこんな話になって混乱する人も多いだろう。
ここで今までの流れをおさらいしてみる。
・王国の代表として帝都に来ました。
・色々あって剣聖と仲良くなり一緒にクエストをやりました。
・その後式典に遅刻ギリギリで突入、なぜか戦姫と勝負をすることに(負けた方が勝った方の言うことを聞く的なやつね)。
・その後アウラさんとも奇跡の再会。
・なんだかんだと遂に選抜戦当日、開会式も終わりました。
……そして今は1回戦の3試合目、ぐらい。
ようは本戦はとうに幕を上げ、現在進行形でバチバチに進んでいる状況だ。
『――ここで3試合目決着! 剣聖の堂々勝利!』
『――素晴らしいですねぇ』
はい、ここで3試合目も決着だとさ。
ちなみにクレス・アリシアの出番は最後の最後。
相手はあの戦姫、まるで全てが仕組まれたかのようなシチュエーション。
エモーション抱く観客に比べ、俺のテンションは下降線を辿っている。
しょんぼりだよ。
ホントにしょんぼりで……
「あっはっは! みんな動きが遅いなぁ!」
「……アウ、アルカさんが速すぎるんでしょ」
隣では一時的に銀髪となったアウラさんが。
乱入はするなと重々伝え了承してくれたが、どんな弾みで暴走するか分からない。
ただ剣聖の力を見て燃えてないから、この後も大丈夫って言えば大丈夫な気もするけど。
「なんにせよ気苦労は……」
「お! 次クレスのダチの~、」
「スガヌマね」
「そうだ! 微妙な勇者!」
「び、微妙って、」
「わたしの方が軽く10000倍は強いし」
アウラさんの小粋なジョーク、だと周りは思うのかな。
一応控え室なので周りにマイさんやウィリアムもいるが、みなその言葉に苦笑である。
これ冗談じゃないんだけどな~……
「クレスの相手の……なんたら姫は強いのか?」
「正直分からないですね。ただ指揮官として優れてるってことは話でよく聞きます」
「んーじゃあバトってもクレスの楽勝じゃん」
「いやいや……」
「でもエル――んぐぐっ」
「エルフ、がどうしたんですか?」
なに普通にエルレブンって呼ぼうとしてんの!?
完全アウトだから。
……というのを無言の圧力で伝える。
「――本当に仲が良いんですねクレス君たち」
「――ほぼ家族みたいなものって言ってましたね」
「――なぜそうもフラグを建てるのか」
「――同感。私的にはもっと腐ラグを建てて欲しいけど」
「――最後のソレはまだ建ったことすらないような……」
そしてアウラさんとのやり取りを見て、上記のことを皆に言われたり。
いやはや、大会さえなければもっと楽なのに。
だって思わないか?
なんで選手やってるのって。監視で来たんだろしっかり働け……的な。
ドキドキワクワクの隠密活動が見たいやりたい。
いやドキワクするかはともかく、こんな大衆の前で魔法使うよりはよっぽど楽だと俺は思ってる。
(……しかも今回、もしもの時に派手に動けるか怪しいし)
もしもの時――
実はアウラさんが再会した当初に言っていた。
帝国はもうすぐ滅びる、と。
これに根拠はない。
完全に勘だと言っていた。
ただアウラさんのシックスセンスは〝本物〟であると、相棒たる自分が一番理解している。
「さてどうなるか――」
頭の中は試合もそうだが。
もっと言えばアウラさんや、これから起こる〝ナニカ〟に対しての不安の方が強かった。
◆◇◆
「――帝都は盛り上がってるなぁ」
少年――いや『ダンジョンマスター』と呼ばれる男は年相応の笑みを浮かべながら呟く。
クレスたちに『正体不明』と呼ばれる組織の1人は、今この帝都にいた。
「王都の方はどうなったんだろ。上手く行ってるとは思うけど……」
ダンジョンマスターとは別に、王都にて1人入院中とされる『剣崎 優斗』の奪取に向かっているチームもいる。
厄介な騎士団長はこの王都に来てる。
まさかこれで失敗することもないだろう。
「なにかあった時は緊急連絡が来るようになってるし」
あの2人がまさか瞬殺されるはずもない。
転移で一気にテレポートして確認もできるが、制約もあるから気軽にはできないし。
連絡が来ないとうことは順調だ、そう判断していた。
「僕たちも僕たちで、色々やらないといけないから大変だ。そう思いません?」
王都に向かっているチーム同様、少年もまた1人ではなかった。
話し掛ける方には、三度笠と言う目から上をおおうように深く作られたかさを被る人物がいた。
ただその笠も目立つことながら、やけに長い黒髪と、その髪にも劣らぬ〝長刀〟を腰に下げる異様な風体。
着物をまとった〝古風〟な女である。
「わたくしにも大きなお仕事。くくく、くく、楽しみですねぇ」
「僕との連携はしっかりと……」
「くっくっくっくっくっくっく」
「って聞いちゃいないか」
しかしその女は狂ってもいた。
品性を多少残したバーサーカー。
いかに美しさを持ち腕が立つとしても、組むことになったダンジョンマスターは苦笑い。
あまり得意としない人物であった。
「巌流島での決闘で落とした命、そして得た第二の生。果たしてわたくしの岩流はどこまで通じるのでしょうか、考えるだけでも……っくっくっくっく――」
勇者いる帝都に迫るはなにも魔王一派、あのスライム男だけではない。
異世界の極東にてビックネームな剣士。
日本人なら誰もが知るかの〝長刀使い〟もまた蘇り、狂った心と共に目的を果たそうとしていた。





