18話
よろしくお願いしますm(_ _)m
走り去る足音は一つじゃなかった。と言うことは、複数の女子生徒が共謀しての行動。
おかしいと思ったよ?学校でみっちゃんから私を呼ぶことなんてないし、まして誰かに頼むとか有り得ないもん。でもまさか閉じ込められるとは……。
しかし、あなた達は一つ大きなミスを犯しました。
チャラチャチャッチャラー!けいたいでんわ~!
さっそくりっちゃんにSOSしますか。
『望?どこまで買いにいってるの?課題終わっちゃったよ。王子と二人きりってマジ辛い。早く戻ってきて』
自分から課題を手伝うように言ったのに……。なんだか大路君が可哀相。
「さすがりっちゃん、やればできる子だね。今ねぇ、みっちゃんの巣の資料室に閉じ込められちゃった。りっちゃん助けて」
『はぁ!?なんでそんなことになってるのよ!待ってて、直ぐ行くから……、ってちょっと待ちな王子。あんたは行かなくて良い』
大路君には悪いけれど、りっちゃんの言う通り大路君が来ると大変なことになる。W王子のファンから攻撃されたら再起不能です。
りっちゃんが慌ただしく電話を切った直後、大路君からメッセージが届いた。無事を確める内容だったので、閉じ込められたこと以外は全く問題ないと返した。
『また俺のせいだよね……』
どうやらこの間、私が女子に追いかけ回されたことを思い出しているみたい。でも、今回は大路君のせいじゃない。
まさか他校生の奥村君関係で、こんなことになるなんて誰が想像できる?だから『大路君のせいじゃないよ』と返したけど、これはちゃんと説明しなきゃダメかもしれないな。
この学校の女子は皆大路君派だと思っていたけれど、他校の奥村君支持者が居るとは……。
凄いな奥村君。モテモテじゃん。なんで私を選んだんだろう?
こんなモブで平均女のどこに魅力を感じたのか、ちょっと訊いてみたいいもする。
「のぞみー!居るのー!?」
「はーい!ここだよー!」
奥村君の謎について考えていたら、りっちゃんが来てくれた。助かった~。
「もう!こうなる前に連絡してよ!」
「ごめん、いきなりだったから出来なかったの。はい、ウーロン茶。温くなっちゃったかな?」
資料室から出た私は置いといたウーロン茶をりっちゃんに渡した。その顔は心底呆れ顔である。
「大路君は?」
教室に残った大路君が自分を責めていないと良い。そう思ってりっちゃんに訊くと、意地悪く笑って「落ちこんでた」と楽しそうに言う。
……なんでそんなに大路君に対してキツいのかな。
「ねぇ、りっちゃんは大路君のこと嫌いなの?」
「うん、嫌い」
真顔で答える。なにもそんなに真剣な表情で言わなくても……。
「どうして?大路君って見た目は良いし、性格も良い。悪いところを探す方が難しいくらいなのに」
「だからムカつくのよ。しかもあいつ、私の大切なものを取ろうとしてるのよ?真剣なのは認めるけど、理解は出来ても心が許否するんだよね。だから、あえて呼ばれたくない“王子”って呼んでるの。これくらいの意地悪はしてもいいでしょ」
いや、どうなんでしょうね。
同族嫌悪ってやつなのかな。確かに二人の雰囲気は似ている気がする。そして奥村君も……。
「凄く烏滸がましいのは承知で訊くけど、奥村君ってどうして私を、その……」
「好きなのかって?」
「う、うん」
職員室に鍵を返し教室に戻る途中、恥を覚悟で訊いた。まさか本人にどこが好きなの?と訊ける訳がないし、だからと言ってこんなこと訊ける友人も居ない。
りっちゃんは友人と言うより姉妹って感じだから訊けるんだと思う。
「何となく分かるけど……、教えてあげない」
「えー!何で!?」
「人の気持ちなんて他人に訊くものじゃないの。奥村の気持ちを私が決めるのは卑怯でしょ」
そういうものなのか……。人を好きになったこともなければ、好かれた経験もない私には難しい。
皆はどうやって恋愛しているんだろう。
「待たせちゃってごめんね大路君。はいこれ、コーラをどうぞ」
教室には大路君一人だった。コーラを渡すと安堵の表情と同時に、りっちゃんと同様、呆れた顔をする。
「王子、これが望よ。慌てるのはいっつも周りで本人はのほほんとしてる。たまに腹立つけど救われることもあるし、バカな子ほど可愛いってもんよ」
「ねぇ、りっちゃん。それって全く誉めてないよね?むしろ貶してるよね?」
「う~ん。半々」
酷い。半分本気で言ってるってことだよね。
まあいいや、事実もまざってるし。
「怪我が無くて良かった」
「うん、ピンピンしてるよ。あとね、今回は本当に大路君関係じゃないから気にしないで」
「……ちょっとまって。王子関係じゃなかったら誰よ」
一度座り直し、私は今朝あったことから説明した。
乗降口で呼び出されたこと。あれも今思えば奥村君関係だったんじゃないかな。そして強引に連れていかれ、閉じ込められたことを。
「あのね!朝そんなことがあったのに、なんで一人で校舎を歩くのよ!バカなの?」
「まあ、バカなんでしょうね」
だってすっかり忘れてたし、大丈夫だって根拠の無い自信があったから。結果的に大丈夫じゃなかった訳だけど。
「……奥村だっけ?そいつにまた会うの?」
難しい顔で聞いていた大路君は奥村君の名前を出すと、不自然なほど表情が歪む。第一印象は良くなかっただろうし、仕方ないのかもしれない。
「会う予定はないよ。あ、でもあれからメッセージが来るようになった。おはようとか、お休みとか。些細なことだけど」
ファンが居るような人はマメだなと感心した。こうやって乙女心を獲得してるのかって。私はそれにほぼオウム返し状態。だって何て返せば正解なのか分からない。
「あのやろう……やっぱりムッツリだったのね。せこい手使いやがって」
「そうなの?りっちゃんって奥村君のこと良く分かってるんだね」
「気持ち悪いこと言わないでよ!誰がアイツを分かってるって?」
「いひゃい、りっひゃん」
両頬つねられました。痛いです。ひりひりします。
「山下さん、一人で会いに行ったりしないでね。学校でも一緒に居られたら良いんだけど……」
「いや、そこまで迷惑かけられないよ!大丈夫!携帯を常に持ち歩くようにするから。今回も携帯に助けられたし、携帯があれば大路君ともやり取りできるし!」
「……そうだね」
大路君は困ったように笑った。
その日の夜、奥村君から電話が来て今日はどうだったと訊かれたので、奥村君はうちの学校でも人気だよって言ったら無言になった。
乙女心も難しいけど、男心はもっと難しい。




