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私は敵になりません!  作者: 奏多


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閑話~氷孤の傭兵

「準備がいいんだな」

 馬上に引っ張り上げながらカインが言うので、ジナは答える。


「だってキアラちゃんの護衛でしょ? 女の傭兵を雇うなら、もちろんこういう使い方を想定していると思って。っていうか、アラン様と殿下はそのつもりだったと思うし」

 ジナとしても、雇ってくれと言った時から、氷狐という魔術が使える生き物を連れているので、キアラと行動を共にすることになるだろうと予想していた。

 大事な魔術師を守るため、あとは魔術が使える者を一か所に固めておくために。


「だからって私がスカートはいて駆け回るとか、戦うのに邪魔だから、そんな恰好するわけにはいかないし。で、ギルシュと相談してこういう準備をしてたってわけ」


 ぱぱっと身に着けられて、多少遠目にごまかせる物であればいいのだ。

 髪の色は茶系統なら似て見える。あとは女だとわかるようにほどいておけばいい。

 案の定、アランもあっさり許可したので、ジナの予想は当たっていたのだと思う。

 ジナを乗せて、追ってきた騎兵をおびき寄せるために、行軍の後ろを進み始めたカインが言った。


「わかった……キアラさん同様、君のことも守るとしよう」

 さらりと『守る』といわれて、さすがのジナのびっくりして目を瞬いた。


「え、私はいらないよ?」

 傭兵を守ってどうするんだと言ったが、カインは無表情に言う。


「しかし、ジナがけがをしてもキアラさんは傷つく」

 それは嫌だといわれたジナは、周囲に視線を配って敵騎兵の位置を捕捉しつつ、戻ってきたルナールとサーラに手招きしながら渋面になった。

 そうでもしないと、照れた表情になりそうで嫌だったのだ。


「ちょっとさ……あなた割と本気でマズイと思うのよ」

「何がだ?」

 ジナにこんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。カインは心の底からわけがわからない様子だ。

 それを見て、ジナは思う。

 さて、これは育った環境のせいもありそうね、と。


「騎士道精神っていうの? サレハルドよりもファルジアって品行方正な子が多いのは聞いてたけどね。女の子を守ろうとするのは結構だし、基本的にはそうすべきだと思うのよ。だけど相手を見て区別して」

 なにせジナは戦うために雇われた人間だ。守ってもらうためにお金をもらったわけじゃない。ジナはキアラや他の兵士達を保護し、もちろんカイン達と肩を並べて戦うためにここにいるのだ。


 ……とはいえこういう人間に心当たりはある。

 基本的に女性には優しく、と教えられて育った……いわゆる良い人だ。

 ジナが以前知り合ったその手の男も、結局最後までジナを守ろうとしてばかりいた。ジナより弱かったのに。

 だがそこで、ジナは約一名そうでもなかった人間を思い出した。ついでに彼に絡む出来事を思い出し、ちょっとむっとしてしまいながらもカインに言った。


「いい? わたしだって凶悪に強いわけじゃなくても、男どもに認めさせるだけの腕があるから、戦場に出てきてるの。あなたの配慮は不用。お金の分は働くわ。それにキアラちゃんのことも心配しなくていい。万が一の場合は、カインさんだけじゃなくてうちの可愛い仲間もいるから、これぐらいなら平気よ。……ルナール!」


 相棒の氷狐の名前を呼びながら、短剣を鞘から抜く。

 先ほどのルアイン騎兵達が、近づいてきていた。

 左側面を担っていた騎士達が、囮を立てたことに気付いて、ジナの方へおびき寄せて倒そうと考えたのだろう。背後から覆うようにエヴラールの騎兵がルアイン騎兵に斬りかかっている。

 それでも魔術師さえ討ち取れば、と思っているのだろう。後方で倒されていく仲間には目もくれず、戦闘集団がジナ達の前へやってくる。

 その前に、


「ルナール、剣を!」

 いつもは犬にも見まがう氷狐から、猛獣のような咆哮が上がる。

 それと同時に、ジナが持つ短剣の刃が身長ほどに伸びた。そのほとんどが、白く揺らめく冷気の煙をまとう、氷の剣だ。


「えぇいっ!」

 薙ぐように振れば、触れた近くの騎兵達の肩や腕、何より騎乗している馬の頭が凍り付いてその場に倒れていく。

 投げ出された騎兵は、後続の味方に踏まれ、そこから逃げようとしてエヴラールの兵に斬りかかられて命を落としていく。


 この剣は触れるだけでいい。

 代わりに30秒ほどしか持たない。けれどその間、ジナはカインに頼んで、自らルアイン騎兵のただなかへ突入させていた。

 ただ横に構えて突き進む。

 左側に剣を向けていたので、逃れるため右手に飛びのいたルアイン兵が時々ジナに斬りかかってくるが、合間にはサーラが氷の礫を飛ばし、時にはカインが剣で敵の刃を振り払った。


 氷の刃で傷ついても、まだ馬が無事な騎兵はジナたちの後方に回ろうとするが、動きが鈍くなった彼らは、後続のアランの騎士達に刈り取られる。

 さすが、とジナは心の中で称賛した。

 国境の要、エヴラールの騎兵の強さは、サレハルドでも知られている。国境を接していて時々は刃を構えることもあるため、身を持って体験するからだ。


 エヴラールの騎士の強さは、紛争に出ることが多すぎて、騎士になる頃には実践を経験することになるためだといわれている。

 戦争慣れしているので、本人たちもどこまでなら危険なのかを実地訓練しているようなものなのだ。

 サレハルドもそこそこルアインとはやり合っているのだが、接する国境が広い範囲のため、常に紛争を請け負う領地というのがあるわけではない。

 エヴラールという一領地が紛争経験度がやたらと高いのは、自然の要衝があるからこそなのだ。


 おそらくカインも、一度や二度は紛争で戦った経験があるだろう。

 もしかすると、あの王子やアランもそうではないか、とジナは思う。

 特にレジナルド王子だ。17歳だというのに軍の指揮も慣れきった様子の上、判断も早い。


(それだもん、キアラちゃんがいなくても城を落とせるって言って、有言実行できちゃうわけだよね)

 メイナールで出会ったキアラは、カッシア城攻めから遠ざけるために、あそこに来させられたのだという。

 普通の軍なら、そんな真似はできないだろう。常に非常事態に備えて、魔術師という戦力を置いておきたくなるはずだ。

 しかしレジナルド王子は、不測の事態すら起こさせないようにして、ほぼ計画通りことを勧めたらしい。

 とんでもない人だ。


 氷の刃の持続時間が終わり、崩れ落ちる中、再びカインによって騎兵の群れから遠ざかるように前方へ向かう。

 追いかけてくるはずのルアイン騎兵は、あらかたアランの騎士達やギルシュに減らされて、半数以下になってしまっている。

 もうジナが目的の魔術師ではないと気付いているだろう。

 その目が傍を並走するルナールやサーラを追い始めていた。これでまず、キアラ達の方を追いかけに行こうとは思うまい。


「カインさん、もう一度ぶつかりましょう」

 これを急いで処理しなければ、既にキアラの作成した落とし穴を避けて進軍するルアイン軍が、既に左側面に迫って来ている。


「わかった。右手は私に任せろ。無理がかかった時は間違いなく私が離脱させるから、すぐに知らせろ」

 あっさりと請け負われて、だからこそジナはちょっとうろたえた。

 思う存分やっていい。後ろで見守って、危なければ保護するというのだから。


「……危ないなぁここの人達って。もう完全に割り切ったと思ってたのに、思わず普通の女の子みたいな気分に戻されそうになっちゃうじゃないの」

 ため息をつき、ジナは誰にも聞き取れないような口の中だけで愚痴をこぼす。


「何もかもあんたのせいよ、イサーク。……死んでも恨んでやるんだから」

 そしてジナは一度目を閉じることで意識を切り替え、ルナールに指示した。

 再び氷の刃を剣にまとわせるために。

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