告白の後
昨日、つい雰囲気に背中を押されて、告白してしまった。
翌朝目を覚ました私は、そのことを思い出して「あああああああ」と呻きながら自分の顔を手で覆う。
「恥ずかしい、恥ずかしい」
思い出して恥ずかしがり、使っていた部屋の寝台をごろごろ転がる。そんなことしたからって言ったことは取り消せないんだけど、暴れて疲れると、羞恥心が少し落ち着いてくる。
息をついて大の字に寝っ転がっていると、師匠に笑われた。
「壁が薄いからの。あまり騒ぐと隣の王子に聞こえるぞ? ウッヘヘヘ」
「うう……」
……うん、師匠には言ったんだ。
色々ね、気を使わせたりしたのもあるけど、師匠を迎えに行った時の私の様子がおかしすぎて問い詰められたので。
昨日、様子がおかしかったのは仕方ないと思う。
告白してキスした後、レジーがなかなか離してくれないかと思えば
「あ、だめだ。このままだと我慢できなくて襲いそうだから。キアラは部屋に戻った方がいいよ」
とか言い出したりして。
襲うって!? と、その単語にいろいろ想像してしまって、私は脱兎のごとくレジーの部屋を逃げ出してしまった。
とはいえ落ち着かず、とりあえず土偶を抱きしめれば安心するはずと思って、師匠を迎えに行ったのはいいんだけど。
食堂にそのままいたらしい騎士の皆さんに「あれ?」みたいな顔や安堵するような表情をされる。
わけがわからないまま、でも注目されると恥ずかしさがこみ上げて来て、とりあえず師匠を受け取ってレジーの隣の部屋に落ち着いた。
「なんで私大注目されてたんだろ……」
「お前が王子に食われるかどうか賭けが始まってたからのぅ」
私のつぶやきに、師匠がとんでもない答えを返した。
え……まさか。あれ?って言いたそうな顔をしてた人は賭けに負けたとか、そういう意味!?
「そ、そもそも食われるって何! まだ告白だってしてなかったのに!」
「……ほぅ?」
師匠がその言葉に何かがひっかかったらしく、ヒョッヒョッヒョと笑う。
「語尾が過去形ということは、したんか?」
「え、えう……」
「それで赤い顔をして、慌てて王子のところから逃げてきたんかいな?」
「うそ! 赤い顔してました!? だってレジーがっ」
つい頬に手をあてると、師匠がまたおかしそうに笑う。
「王子が何かをやらかして? それで告白したと? うっひょひょひょ。好きだと言えとでもねだられたんかいな?」
「レジーからねだられたわけじゃないけど、でも」
甘えさせてほしいって言うほど、レジーが心弱っている様子に、どうにかしてあげたくて。
「それなら、母親の死因を知った王子が可哀想だったからかいな?」
「……う、うん」
どうやらレジーと私が立ち去った後、その場にいた騎士達同士で、レジーのお母さんが魔術師くずれにされて殺されたらしいことについて情報交換したようだ。
その場にいた師匠も、当然それを聞き知ったのだろう。
「慰めてたら、そういう雰囲気になってたと。抱きしめられて『もう私には君しかいない』とか言われたんじゃろうのぅ?」
「……う」
「図星か」
気づけば師匠に色々と看破されていた。
「な、なんでわかるんですか……」
「そういう時にモテ男が言う台詞など決まっておるわ」
師匠は「ケッ」と毒づきながらも、やや柔らかい口調で言った。
「まぁ、付き合ってるんだかわからないような状態よりはいいじゃろ。待たせすぎるのも蛇の生殺しみたいなものだからの。あの王子もよくまぁ待とうなんぞと思ったもんだの」
「やっぱり、待たせない方が良かったんですよね? 私もちょっと無理言ったかなとは思ったんですけど、レジーが先に許してくれたから甘えちゃって……」
自分に置き換えてみれば、好きだと言ったのに返事をもらえないのは、さぞ辛いだろうと想像できる。態度で色々バレているとはいえ、自分だったら答えないうちに心変わりしてしまったらとか、嫌なことを考えてしまいそうだ。
ちょっと落ち込んでいると、師匠がケケケと笑った。
「まぁアヤツには我慢ぐらいさせておけ。うっかり暴走する方が怖いからのぅ。少し待たせておいた方が安全じゃろ、ヒッヒッヒ」
「暴走って……」
そんなことを言われると、レジーにされたことを思い出してしまう。確かにあれは暴走だったから。
……そういった一連のことを思い出したおかげで、翌日の今も、私は再びごろごろとすることになってしまった。
その後、ご飯だからと呼びに来たカインさんの声に慌て、のたうちまわった疲れでぼんやりしていた私は、朝食で顔を合わせたレジーにわたわたとパニックを起こした。
師匠に笑われて、なんとか自分を保とうとしたものの、恥ずかしさが引かなくて、どうしてもレジーを見ることができなかった。
それでも私達の予定は変わらない。
探索は終えたので、アラン達に合流するのだ。
移動中はカインさんと一緒なので、あまりドキドキすることもなかった。
とはいえあまりにレジーに構われないと、昨日のことが夢か幻だったのではないかと思えてきそうだった。
それでつい、休憩時に木陰に座りながらレジーのことを目で追ってしまったりしたのだけど。
ふっと視線が合う。
レジーが微笑むように目を眇めると、私の側に来てくれた。
「寂しがらせたかい? ごめんねキアラ」
目の前に膝をついて視線を合わせてくれたレジーは、そんなことを言い出す。
「寂しいっていうか、その、まだちょっと現実味がないっていうか……」
本当に私告白したんだよね? てことは、レジーと付き合い始めたってことなのかな?
でもここは学校でもなくて、戦争の途上で、私が想像してた恋愛のこういろいろなイベントというか、そういうものからすごく離れた状況なものだから。どう考えていいかよくわからないのだ。
すると察したようにレジーが笑ってささやく。
「君が応えてくれたんだから。君はもう私のものだよ」
他の人には聞こえないほど小さな声だったけど、確実に私の耳に届いて、顔が熱をもちはじめる。
「みんなに言って回りたいけれどね、君の場合恋は、私が初めてなんだろう? エヴラールにいる間も、特に誰かと付き合ってはいなかったって、報告を受けてるし」
「え、う……うん」
恥ずかしいけど、本当のことだしとうなずけば、嬉しそうにレジーが口の端を上げた。
その笑みに見とれてしまったけど。あれ、なんか変な事言ってなかった? 報告ってどういうこと?
疑問が浮かんでうろたえる私に、レジーは何事もなかったかのように話を続けた。
「人に見られるのはまだ慣れてないだろう? 君を怯えさせたくないから、少しずつ慣れてもらおうと思っているんだ。だから、今はここまでにしよう」
「まだって、まだって……」
「そのうち、不安になる暇がないくらいにしてあげるよ」
呻くように繰り返す私の頭を撫でたレジーは、それだけ話してまた自分の馬の元へ歩いて行く。
呆然と見送った私は、しばらく経ってからようやく疑問を思い出す。
「あれ、報告って?」
師匠がため息をついた。
「王子がいない間も、誰かにお前の動向の監視をさせてたんじゃろうな。もし誰かにお前さんの気持ちが向いていたら、妨害されてたかもしれんのぅ。なかなか束縛がきつそうな奴じゃな、王子も」
「束縛……」
師匠はやや呆れ気味に言っていたし、ちょっと怖い言葉のはずなのに、なぜか私は、少し幸せな響きを感じてしまっていた。
そんなこともありつつ、行きよりも時間をかけて二日後、私達は王領地を南下していたアラン達の軍に追いついた。
そうして、ベアトリス夫人がいる軍がキルレアを通過したこと。パトリシエール伯爵の軍が、シェスティナへ移動したという情報を知ることになる。




