リアナ・レッドグレイヴの苛立ち2
「リアナ。いい加減、イーディスに難癖をつけるのはやめておけ。手痛いしっぺ返しを食らうぞ」
ディリアンお兄様に苦い顔で言われて、わたくしは激しい苛立ちを覚えた。
「……ディリアンお兄様、ずいぶんとイーディスの肩を持つじゃない」
ディリアンお兄様まで、ローレンス卿たちのようにイーディスに誑かされた?
いえ、さすがにそんなことはないかしら……。
「肩を持っているわけじゃない。客観的事実を述べているだけだ。我々ではローレンス卿には勝てないし、『あの』第五王子とはいえ殿下の寵愛を受けているイーディスへの手出しは賢い者のやることではない。王家への反逆と捉えられたらどうする」
お兄様はそう告げてから、眼鏡のフレームを指先で押し上げつつ深い深いため息をつく。
その心底呆れたという様子を目にして、頭の奥でプチン! となにかが切れる音がした。
生意気、生意気、生意気! わたくしに負けてばかりの、情けない男のくせに!
「なによ! わたくしに勝てないくせに生意気を言わないで!」
「……ローレンス卿に一瞬で制圧されていた愚妹が、よく言うな」
「ぐうっ」
今日のディリアンお兄様は、ずいぶんと弁が立つじゃない! わたくしは唇を噛み締めながら、お兄様を睨みつけた。
「あ、あの方は格が違うのよ!」
「イーディスを拷問しようとしたり、呪いをかけようとしたり……。その格が違う方の神経を逆撫でするようなことばかり、なぜしようとする」
「それは、みんながわたくしの言う事を信じてくれないからじゃないの!」
腹に据えかねたわたくしがダンダン! と足を踏み鳴らすと、メリアンお姉様が「あらまぁ」と小さくつぶやく。
ちょっと、そんなわがままな子どもを見るような目で見ないで!
「ローレンス卿やあの馬鹿王子との婚約が枷になるなんて……! まったく、イーディスは男を誑かすことだけは上手いんだから!」
叫びながら近くにあった花瓶を地面に叩きつけると、エイプリルお姉様がびくりと身を震わせる。
いけないわ。わたくしは淑女なのに、下品な怒り方をしてしまった。
……落ち着きましょう。落ち着くのよ、リアナ・レッドグレイヴ。
わたくしは数度深呼吸をしてから、一人掛けの椅子で静かに本を読んでいるお父様に視線を向けた。
「今回の件、お父様はどう思っているの?」
「……イーディスが上位魔法を使えるなどと、馬鹿馬鹿しいことを言うなと思っている」
お父様は本から一切視線を逸らさずに、静かな声でわたくしの問いに答えた。
お父様も、信じてくださらないの……!?
「もう! お父様まで! お母様はどう思っているの!?」
お父様の側に控えているお母様に訊ねれば、困ったような顔をされる。
「……リアナ。熱があるんじゃないの? いい子だから、今日は休みなさい」
「お母様まで!?」
お母様の言葉を聞いて、わたくしはがくりと肩を落とした。
どうして誰も、わたくしの言う事を信じてくれないのよ!
イーディス……! 絶対に化けの皮を剥がしてやるんだから!




