表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/58

45

「ん……。ふがっ! う……?」


 自身の発したいびきで目を覚ました俺は、ふらふらと視線を彷徨わせる。

 視界に入るのは見慣れた自身の部屋で、俺は寝台に寝かされていた。

 熟睡していた俺を、ローレンスが寝台まで運んでくれたのだろう。

 感じていた体の痛みはなくなっており、寝ている間にローレンスが治癒魔法を使ってくれたのだろうことが想像できる。

 ……本当に世話をかけてばかりだな。


「我が君。起きたのですか?」


 部屋の隅に控えていたらしいローレンスが、表情をぱっと明るくしてこちらにやって来る。


「ローレンス。俺はどのくらい寝ていた?」

「四時間ほどです」


 身を起こしながら訊ねれば、そんなふうに返される。決して長くはない時間だが、疲れはそれなりに取れた気がするな。


「寝ている間に治癒魔法をかけてくれたのだろう? ありがとう、おかげで体が軽い」

「礼なんて……。当然のことをしただけですから」


 ローレンスは、はにかむように微笑む。

 ローレンスが傷ついた時に治癒魔法で傷を治せるように、体力をつけないとな。改めてそんなことを思う。

 ……場面が未来にあるかはわからないが、備えは大事だ。


「お疲れでしょうから、もっと寝ていてください」

「そうしたいところだが……」


 人の気配を感じ、扉に視線を向ける。ローレンスも気配に気づいたようで、不快そうに眉を顰めた。


「……お客様みたいだな」

「……そのようですね」


 声を揃えて俺たちが言った直後。形ばかりのノックのあとに、長兄のディリアンが顔を出した。


「イーディス、やっと起きたか。話を聞かせてもらおうか」


 ディリアンは挨拶もなしに、眉間に深い皺を寄せながら俺に命じる。

 ──まぁ、そうくるよなぁ。

 リアナは街での出来事を家族にどんなふうに報告したんだろうか。本当に面倒だなぁ。

 そんなことを思いつつ、もたもたと寝台を出ようとした時……。


「我が君はお疲れですので、お引き取りください」


 ローレンスが俺の前に立ち、言い放った。するとディリアンは不快そうに片眉を跳ね上げる。


「……疲れたのは、上位魔法を使ったからか?」

「一体、なんのことでしょう」


 俺が言いながら肩を竦めてみせると、ディリアンのこめかみに青筋が走った。


「とぼけるな、リアナから報告は受けている。イーディス、どういうことかちゃんと報告しろ」

「……ディリアン様。我が君に対して口が過ぎますよ」


 凄みながらディリアンが一歩踏み出したが、ローレンスが睨めつけるとその歩みが止まる。

 一触即発な彼らの様子を目にして、俺はふうと小さく息を吐いた。


「遅ればせながら自分には魔力があることに気づきまして。それだけです」


 魔法が使えることは、どうせバレているのだ。だから今度はごまかさずにそう告げる。

 するとディリアンの目が、零れ落ちんばかりに瞠られた。


「……いつ気づいた?」

「まぁ、少しばかり前ですね」

「なぜ、家族に言わなかった」

「面倒事は避けたかったので。それに、自分を今まで虐げていた方々に利用されたくもなかったですし」

「なんだと……!」


 言葉を紡ぎながら微笑んでみせれば、ディリアンは気色ばんだ。


「当然でしょう? あんなふうな扱いをされ、喜んで利用される人間などいない」


 胸の中に、じわりと怒りが湧き上がる。

 これは──長年家族に愛してもらえなかった『イーディス』の怒りだ。

 前世の記憶とともに消え去ったと思っていたか弱い少女の感情は、今も俺の中にあったらしい。


「そして、これからも利用されるつもりはありませんから」


 青の瞳に怒りを滾らせながらディリアンを見据えれば、彼は気圧されたように一歩後ろに下がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ