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 名残惜しそうなローレンスと別れ、俺は死竜に挑むべく足を踏み出した。

 風魔法を使って街を駆け、道中で遭遇する魔物をついでに処理していく。

 空を舞う死竜の真下までたどり着きはしたが……問題はやつがいる高度である。


「空にいられたまんまじゃ、どうしようもないよなぁ」


 つぶやいてから、民家の屋根に跳躍する。そんな俺を目にして目を丸くする人々もいたが、そんなことを気にしている場合ではない。


「さっきみたいに直で魔法を叩き込めないから、一撃じゃ落とせないよな。落とし損ねて逃げられたらまずいし。かといって、あそこまで風魔法で飛ぶのも難しいし……」


 こちらを嘲るように空中を旋回している死竜を眺めながら、俺は思考を巡らせた。


「……仕方ない、高位魔法を使うか」


 高位魔法で地面に叩き落し、まだやつが生きているようなら中位魔法でケリをつける。たぶんそれしかないよな。

 前世の記憶に目覚めてからは魔物を狩りながら魔法を使う鍛錬をしていたので、高位魔法を使っても大怪我を負うことはあれども死ぬようなことはないだろう。攻撃魔法は治癒魔法みたいに複雑な術式じゃないから、へーきへーき。……のはずである。

 行使の反動で大きな欠損でもしたらローレンスが泣きそうだな……などと一瞬思ったが、背に腹は代えられない。


「よっし」

 

 パン! と自身の頬を叩いてから、俺は詠唱を開始する。高位魔法の行使にはさすがに詠唱が必要だ。


「くっ……」


 ミシミシと軋む音がして、鋭い痛みが体を貫いた。痛みで集中が乱れそうになるが、俺は必死に持ちこたえる。

 攻撃魔法の術式は単純とはいえ、『イーディス』の体にはやっぱり負担がかかるな!

 だから中位魔法で済ませたかったんだよなぁ、前世じゃ手足みたいに使えたのに情けないなぁ、などと内心ぼやきながら俺は詠唱を続けた。

 体内の魔力が無理やり引きずり出されるような感覚に、意識を手放しそうになり慌てて堪える。魔力が集中している十指の皮膚が裂ける感触がして、血が飛び散ったがそんなことを気にしている余裕はない。


 詠唱の時間は恐らく数秒だったのだろうと思う。けれど俺にとっては、永遠にも等しい時間に思えた。


 そして──。詠唱は完了し、術式は完成した。


「叩け、疾雷!」


 全力疾走したあとのように息を切らせながら、俺は両手を振り下ろす。

 ゴロゴロと雷鳴が轟いたのちに空に黒雲が満ち、目を灼かんばかりの強い光を伴う雷が死竜に落ちていった。


『──ッ』


 死竜は声を上げる暇もなく一瞬にして黒焦げになり、地面に落下していく。


「しまった……!」


 やつがこのまま落下すれば、街に損害が出てしまうかもしれない。慌てて風魔法を行使しようとしたが、俺が魔法を行使する前に死竜の体は誰かの魔法によって受け止められてゆっくりと地面に下ろされた。

 ローレンスか? などと思いながら術者を目で探す。

 そして、俺の視界に入ったのは──。


「イーディス。お前どうして高位魔法なんて使えるのよ!」


 怒りと憎しみに顔を歪ませる、我が姉──リアナだった。

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