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 ──そんなわけで、お出かけである。


「ローレンス。今日は一体どこに行くんだ?」


 レッドグレイヴ公爵の執務室から部屋に戻った俺は、外出着に着替えさせられつつローレンスに訊ねる。

 ……今の俺は一応のところ女なのだから、ローレンスに着替えを手伝ってもらうのはどうなんだと思うのだが。ローレンスは俺が衣類をクローゼットから取り出すと、当然だと言わんばかりにそれを手にして着替えを手伝いはじめたのだ。

 先日俺の下着姿を見て照れていたのはなんだったんだ。というか、手伝うのはドレスの着替えだけじゃないのか?

 疑問が次々と脳裏を過ぎるが、楽しそうに俺の髪を結い上げるローレンスを見ていると少々気が引けてしまいそれを伝えることはできなかった。

 ちなみに、本日の外出着はジェーンちゃんの店で買ったものの中の一着だ。『イーディス』がはじめて自分の力で手に入れた服は、俺のお気に入りなのだ。


「オークの集落が近くにできたので、軽く退治に行きませんか?」


 ローレンスはそう言いながら、俺の髪に花を模した髪飾りを飾る。こんなもの、いつの間に用意したんだろうな。

 彼が飾った髪飾りは金色で、前世の俺の髪の色によく似ている。……『獅子王』が大好きすぎないか、ローレンス。似合うからまぁ、いいんだけど。


「オークの集落か。そんなものがあるって、よく調べたな」

「独自のルートがありますので」


 俺の言葉を聞いて、ローレンスはにこりと笑う。なんとも頼りになる臣下だ。


「ひとりだと体力が持つか不安だけど、ローレンスと一緒だったら大丈夫だな」

「ええ、しっかりとサポートさせていただきます」

「はは、頼むぞ!」


 言いつつ彼の腰のあたりを軽く叩けば、ローレンスの顔が泣きそうにくしゃりと歪む。

 そ、そんなに強く叩いた覚えはないんだが……!?


「……我が君とまた魔物を狩れること、嬉しく思います」


 なるほど……感動してそんな顔になったのか。


「俺もだよ。頼りにしてるぞ、ローレンス」


 言いながら手を伸ばせば、『撫でて』と言わんばかりに頭を下げられる。

 俺はローレンスの頭を、わしゃわしゃと少し乱暴に撫でた。乱暴にされているのにも拘わらず、ローレンスは嬉しそうにしている。忠犬だなぁ、本当に。


「我が君……」

「だらしない顔をして。男前が台無しだぞ」

「ですが、嬉しくて」


 さらに頭をかき混ぜれば、ローレンスはくすくすと笑い声を漏らす。

 同時に、金色の瞳からは綺麗な雫がはらはらと零れ落ちた。


「お前は昔から泣き虫だな」


 頬を流れる涙を、手のひらで拭ってやる。

 少年の頃の彼をこうして何度か慰めたな。ローレンスは魔法に関して、相当な努力家だ。その目指すところは、昔からかなり高いところにあった。

 高い目標になかなか至ることができずに心が折れ、悔し泣きする少年の頭をよく撫でてやったものだ。

 そんなことを思い出して、懐かしい気持ちになる。


「泣くのなんて……我が君の前でだけです」

「はは、そうだな。そんなお前を、前世から可愛いと思っているよ」

「──ッ! 我が君……っ!」


 ローレンスはぐすりと鼻を鳴らしてから、大きな体で抱きついてくる。

 獅子王時代は軽々と受け止めきれたその体だが、『イーディス』である我が身には荷が重い。

 ローレンスも昔より、かなり大きくなっているしな!


「ローレンス、軽々に抱きつくな。俺は一応婚約者がいる令嬢なんだぞ」

「婚約者がいるご令嬢である前に、我が君です」

「……主君に抱きつくのも、どうかと思うんだけどなぁ」


 呆れつつも、懐かれること自体が迷惑ではない。しかしこれは、どうしつけたものか。

 

「我が君は私にとって父のような存在でした。甘えたくなるのも仕方がないと思います」

「その年齢でそれは無理があると思うが!?」

「いいえ。私がいくつになっても親は親です」

「いやいや、今は俺の方が年下なんだが」


 そんなこんなで、ローレンスはしばらくの間俺を放してくれなかった。

 本当に、困った腹心だ。

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