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「エドゥアール殿下。はじめまして」


 俺はにこりと笑うと『はじめまして』を強調する。

 するとエドゥアール殿下は俺の意図に気づいたようで、こほんと小さく咳払いをした。

 彼はギシリと音を立てつつ、長椅子から立ち上がる。


「はじめまして、イーディス嬢。エドゥアール・ド・ドルレアンだ」


 そして俺の手を取ると、挨拶をしながら手の甲にそっと口づけた。

 もちもちしていてもさすが王子様というか、なかなか様になっているじゃないか。

 この子……兄上の子なんだなぁ。言われてみればという感じではあるが、たしかに兄上の面影がある。

 今世では兄上との血縁関係などないものの、なんだかムズムズした心地になってしまうな。


 この子が、リアナがあんな顔をするほどに世間から忌避されている王族なのか。


 たしかに彼は標準体重を軽く超過しているし、森では俺を囮にして逃げようとしたし、お漏らししちゃったし、ちょっと癇癪持ちっぽかったが……。

 女性が群れを成して集るタイプの少年ではないにしても、素直なところもあるしそこまで悪い子だとも思わないけどなぁ。

 これが男女の感覚の差というものか。いや、今の俺は立派な女の子なわけなのだが。


「レッドグレイヴ公爵」


 エドゥアール殿下は、俺に続いて部屋に入ってきたレッドグレイヴ公爵を呼ぶ。


「なんでしょう、エドゥアール殿下」

「イーディス嬢をお借りして、庭の散策をしても?」

「……ええ、もちろん。構いませんよ」


 レッドグレイヴ公爵は、意外そうに目をぱちくりとさせた。

 ……きっと、エドゥアール殿下が魔力なしとの婚姻に対して怒り狂うことを予想していたのだろう。


「可愛い婚約者と二人きりになりたいから、供の者はいらない」


 エドゥアール殿下はそう言うと、俺の手を引きさっさと部屋から連れ出してしまう。

『可愛い婚約者』ってなんなんだ? とは思ったが、世辞ということで納得する。

 彼は玄関から外に出ると、ずんずんと大きな歩幅で庭へ歩いて行く。

 そうしながら、俺に話しかけてきた。


「先日とは、まったく違うな。その……とても令嬢らしい」

「はは。さすがに王族と会う日なので着飾ってもらえました」

「……似合ってる」

「へ?」

「似合ってると、言っているんだ!」


 声を荒げて言う彼の顔は、耳まで真っ赤だ。

 ……誰かを褒めることに、慣れていないのかもしれないな。


「ところでイーディス嬢。いろいろと説明を求めたいのだが」


 彼は庭にたどり着くと、じっとりとした目をこちらに向けながら言った。

 周囲に視線を走らせると、遠くに殿下の護衛と従者がいるのが見える。

 供はいらないと言われても、さすがについてくるよなぁ。


「エドゥアール殿下。風魔法で会話が周囲に聞こえないよう小結界を張れますか?」

「魔法ならお前の方が……」

「使えることを、皆に知られたくないのです」


 声を潜めながら俺が言うとエドゥアール殿下は不思議がる表情になりつつも、少し長めの詠唱をして結界を張ってくれる。

 よかった、これで周囲を気にせず話ができる。

 

「エドゥアール殿下。俺はごく最近まで、自身の魔力の存在に気づいていませんでした。周囲と同じく、自分のことは魔力なしだと思っていたんです」

「は……?」


 エドゥアール殿下の目が丸くなる。

 それもそうだ。こんなことは、レアケース中のレアケースだからなぁ。

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