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親の町工場を立て直そうとしていたが、志半ばで他界。転生した先も零細の貴族家だったので立て直します  作者: 工程能力1.33
18章

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161 武器よこんにちは

 スティーブは工場の社長室で悩んでいた。

 周囲はガスターの研究を元に、火薬の研究を始めている。生活の向上のためではなく、兵器として使用するためにだ。

 いまだガスターの足取りが掴めない中で、もしも他国で兵器開発を進めていたらと考えれば、こちらも準備するのは当然なのだが、強力な兵器が開発されれば戦争の悲惨さが増す。

 そんな悩んでいるスティーブは、不機嫌さがにじみ出ているので、ニックも他の社員もそれを察知して近づかない。唯一幼馴染であるベラだけが、いつもと変わらずスティーブに接していた。

 そんな彼女が社長室にお茶を持ってくる。


「お茶淹れてきた」

「ありがとう」


 スティーブはベラがやって来たことで、一旦思考を止めた。そしてお茶を受け取る。

 受け取るときに、スティーブはベラの顔をジッと見つめた。


「どうしたの?」


 不審に思ったベラは訊ねた。


「保険は必要かなと思ってね」


 とスティーブはこたえる。お茶を受け取るために思考を止めてはみたが、やはりすぐに兵器のことを考えてしまった。そして、万が一自分が爆殺されるような事態になった時に、爆発の範囲外である遠距離から攻撃できる手段をベラに持たせておこうかと思ったのである。

 スティーブが昔ばねで弾丸を射出する武器を作ったが、今度はそれを火薬でやる、つまりは銃を作ろうというわけだ。

 どのみち火薬が一般に広まれば、遅かれ早かれ銃にたどり着く。それならば、今のうちに銃を作ってしまってもよいかと考えたのだ。

 という説明を聞いていないベラは、保険がなんのことかわからなかった。


「保険ってなんのこと?」

「ベラに新しい武器を渡しておこうと思ってね」

「スティーブに作ってもらったやつで十分満足しているんだけど」


 ベラは子供のころから使っているばね式の銃を気に入っており、今更他の武器を使うつもりは無かった。スティーブはそんなベラを説得しようとする。


「今回は相手に近づくと危ないかもしれないからね。今からそれを見せるよ」


 そう言うと、スティーブはベラの手を取って転移する。転移した先はアーチボルト領でも人が近寄らないような僻地の平野だった。草も育たないため、動物もほとんどおらず、近寄る必要がないのだ。

 そんな場所でスティーブは魔法で火薬を作り出す。黄色い粉末状のピクリン酸である。それをスティーブの隣でベラが見た。


「この黄色いのは何?」

「爆発する薬。危ないから少し離れるよ」


 二人は一旦ピクリン酸の場所から離れる。

 離れた場所からピクリン酸にファイヤーボールを撃ち込むと、当たった瞬間に爆発した。ベラは爆音と閃光に驚く。


「なにあれ?」

「ガスターが研究していたと思われるものだよ」

「じゃあ、魔法じゃないのね」

「そう。今は起爆にファイヤーボールを使ったけれど、起爆も科学の力で出来る。あんな威力の兵器を持った敵と接近戦闘はしたくないよね?」

「勿論」

「だから、遠くから攻撃できる兵器を作って、ベラに渡しておこうと思うんだ」


 スティーブは魔法で銃と弾丸を作る。銃はリボルバーであり、弾丸は9mm。.38インチにすればよかったのだが、スティーブはインチに不慣れでミリに慣れているので、9mmの弾丸としたのだ。スティーブは銃に魔法で作った弾丸を込めた。ベラはスティーブがシリンダーに一個一個弾丸を装填する動作を興味深く見つめる。


「初めて作ったから、試射は僕がやってみるよ」


 スティーブはそういうと、両手で銃を構えて、自身に身体強化の魔法を使った。そして、20メートル離れた場所に鉄板の標的を作ると、それ目掛けて引き金を引いた。


バンッ

ガキン


 発射音が聞こえ、すぐに鉄板が音を立てた。ベラは驚いて目を丸くし、スティーブに話しかけようとそちらの方向を見たが、スティーブはまだ集中して的である鉄板を見ていたので、話しかけるのをやめた。

 一発目の発射がうまくいったことで、スティーブは残りの弾丸も鉄板に撃ち込んだ。

 全て発射し終えたところで、ベラはスティーブに話しかけた。


「すごいわね。何かが発射されたのはわかったけど、速すぎて何も見えなかった」

「こんなものが量産されたら、戦争のやり方が変わるってわかった?」

「十分すぎるくらいね。でも、あれだと鉄の鎧を着ていれば大丈夫そうだけど」


 ベラが見つめる先には、弾丸を受け止めた鉄板があった。9mmの弾丸では鉄板を撃ち抜くことは出来なかったのである。

 スティーブはシリンダーから空になった薬きょうを排出する。


「これだとまだ威力が小さいからね。もっと威力のある弾丸を作ればいいだけだよ。ただし、その分反動は大きくなるけどね」


 9mmがうまくいったので、スティーブは.22LRと.44マグナムの弾丸と、それを発射するためのリボルバーを作った。結局インチサイズの弾丸を作るスティーブであった。

 .22LRのリボルバーをベラに手渡す。


「絶対に銃口を覗かないように。で、さっきやったように弾丸を入れて、引き金を引けば弾丸が飛び出すから。このアイアンサイトを目安に狙いをつけてみて」


 簡単に使い方を説明してから、弾丸を手渡す。

 ベラは見よう見まねで弾丸を入れると、両手で銃を持って腰を落とした構えをとる。そして、的に向かって引き金を引いた。


パン


 軽い音発射音がして、弾丸が的に当たる。.22LRでは当然鉄板に弾かれる。


「思ったほど反動は無かったけど」

「今のは威力が弱い弾丸だからね。次はこれを使ってみて」


 スティーブが渡したのは、先ほど自分で使った9mm用のリボルバーだった。ベラは同じように引き金を引く。反動のせいで、今度は的を外してしまった。


「全然違うのね」

「でしょ。それで、これがさらに威力のあるやつ」


 スティーブはそう言うと、.44マグナム弾を装填してあるリボルバーを使って見せた。身体強化をしてあるからこそ、その反動を抑え込むことが出来、弾は見事に鉄板を撃ち抜いた。

 ベラは思わず拍手した。


「音が全然違う。それに、当たった時も。でも、それだと私には無理」

「そこでまた違う形状の銃が出てくるんだよね」


 スティーブは中折れ式のライフル銃を作る。ストックは丸い鋼で出来ており、それを肩に当てて狙いを定めた。引き金を引くと、弾は鉄板を撃ち抜く。9mmの弾丸を装填して試射してから、それをベラに手渡した。


「肩当てを使ってみて。弾丸は9mmだから、さっきの2回目の銃と同じ火薬量だよ」

「さっきと同じ?でも、鉄板を抜いた」

「それは長い銃身のおかげだね。銃身が長い方が威力が増す。ジャンプする時に、助走距離が長いほど遠くにとべるじゃない」


 銃身が長いと弾丸の加速が増す。弾丸の回転が安定し、燃焼ガスが弾丸を長く加速させるからだ。その仕組みをベラに理解させるため、スティーブは助走とジャンプの関係で説明した。実際の原理からしたらちょっと違うのだが、ベラはその説明で納得した。

 そして、スティーブからライフル銃を受け取り、使い方の説明を受けてから、的に狙いを定めた。姿勢はいわゆるスタンディングである。立ったままの姿勢での射撃だ。

 ベラが引き金を引くと、今度は的に弾が当たった。


「反動は来るけど、肩で押さえている分なんとかなるのはわかった。でも、狙ったところに行かない。これなら今持っているばねの方がいい」

「ばね式銃の欠点は弾丸の装填だね。銃ならば次弾の装填が自動になったりもする」


 ブローバックの自動小銃ならば、複数の敵を相手にしても射撃速度がネックになることはない。これがばね式となるとそうもいかない。クロスボウで連射が出来ないのと一緒だ。


「その、装填が自動の銃も撃ってみたい」

「今すぐに作るのは難しいね。なんとなくの仕組みはわかるんだけど、動くかどうかわからないから」


 スティーブは前世で銃に興味があり、その仕組みを調べたりもしていた。なので、リボルバーならば簡単に再現できるのだが、ブローバックやショートリコイルの銃を再現できるかどうかはまだわからなかった。


「それで、これを工場で量産するの?」

「いや、それはしないよ。これが広まるのは望まない。ま、どのみち時間とともにこうした兵器も開発されるだろうけど、僕が率先してそれをやることもしないし、工場ではよっぽど国からの要請でもない限りは、兵器をつくらせないつもりだから。誰かに恨まれるような仕事はしたくないんだよ」


 これはスティーブの信念であった。どうせ作るのであれば、みんなに喜ばれるようなものを作りたいし、逆に恨まれるような仕事はやりたくないと考えていた。それでも、国が亡ぶかどうかという状況であれば、仕方なしに協力はするが。そんな状況の前にスティーブが出陣すればたいていのことは決着がつくので、兵器をつくることはないだろうと思っていた。


「じゃあ、これは私専用ってこと?」

「そうだね。僕に万が一のことがあるか、僕のいないところで新兵器を持った敵が現れたら使ってもらうことになるね」

「それじゃあ練習しないとね」


 そう言ってベラはにっこりとほほ笑む。

 スティーブはその笑顔を見ると、後ろめたい気持ちになりながらも、9mmの弾丸を追加で作り出した。


「練習していて。僕は別の銃の試作をしているから」

「わかった」


 ベラは弾丸を受け取ると、スティーブに背を向けて的の方に視線を向ける。スティーブはベラの発射音をBGMにアサルトライフルの試作をするのだった。

 前世の記憶を頼りに作る自動小銃は不完全であり、上手く動作しない。

 気晴らしにつくったオートマチックのハンドガンは成功する。これは、散々モデルガンをばらした経験が役に立ったのだ。

 結局そこでは自動小銃はうまく作れずに、一旦屋敷に帰ることにした。

 屋敷に帰ってからも、ベラが射撃訓練をしたいというので、スティーブはベラのために射撃場を急遽つくった。

 スティーブがそんなことをしていれば、当然クリスティーナもナンシーも気が付く。二人は射撃場にやって来た。


「旦那様、これはなんでしょうか?」

「行方不明になった研究者のガスターが新兵器を完成させていた時のために、ベラにも新兵器を渡しておいたんだ。それの練習をするための施設だね。ベラ、二人にみせてあげて」


 スティーブの合図にベラは頷いた。

 そして、中折れ式ライフル銃で50メートル離れた的を狙う。

 なお、的は20メールから10メートル刻みで立てられており、50メートルが一番遠い。的の鉄板は25.4mmの厚みとなっている。対物ライフルで徹甲弾でも使わない限りは撃ち抜けない厚さだ。

 ベラが的に当てると二人は驚く。


「見えなかった」

「今のはなんですの!?」


 二人はスティーブに説明を求める。そこでスティーブは銃の仕組みと、今回作った目的を二人に話した。

 説明を聞いてから、ナンシーはベラにもう一度撃つようにお願いする。弾丸の軌道を目で捉えようというのだ。先ほどはそれほどのものとは思っておらず、意識を集中する間もなく弾丸が的に命中してしまった。なので、今度は最初から見るつもりで集中しようというわけである。


「撃つ」


 とベラが合図して引き金を引く。


「何とか見えたが、見えるだけで躱すのは無理か」


 ナンシーは何とか弾丸を目で捉えることが出来た。それだけ並外れた動体視力を持っているのだが、弾丸に合わせて体を動かすところまでは無理だと判断した。


「恐ろしい兵器ですわね。これを行方不明の研究者が?」


 クリスティーナはベラの持っている銃を指さした。


「いや、これはそれに対抗するために作った。相手が研究しているのは爆発して、小さな石や鉄片を飛ばす兵器だから、近寄らずに攻撃できる手段が欲しかったんだよね」

「これを大量に生産して配備されるつもりですか?」

「いや、これはベラにだけ渡しておくつもりだよ。これが広まれば戦争はもっと悲惨なものになるから。まあ、時が経てば発明されて広まっていくんだろうけど。ベラ、拳銃の方も見せてあげて」


 スティーブがそういうと、ベラはリボルバーを取り出した。


「連続で撃ってみて」

「わかった」


 ベラは連続で撃ち、そのすべてを的に当てる。

 スティーブはその結果に満足し、クリスティーナの方に向き直る。


「こうやって、矢よりも早く連射が出来るものもある。今はもっと連射出来て、威力が高いものを作ろうとしているんだ」


 それを聞いたナンシーは悔しそうな顔をする。


「これでは剣の修行も意味が無くなります。ベラ一人いればどんな国の軍隊も簡単に壊滅出来るではないですか」

「そうでもないよ。銃も弾丸も金属の塊だから重たくて、運べる量には限界があるよ。それに、銃は筒の中で火薬が爆発しているから、ものすごい熱を持つんだ。連続で撃っていれば壊れちゃうよ。結局のところ、戦争を一人でどうにかできるようにはならないんだ。ただし、銃が兵士に行き渡れば変わるだろうけどね」

「旦那様、私にも一ついただけませんか?」


 ナンシーにせがまれて、スティーブは首を縦に振った。ナンシーもこの日から銃を扱うようになる。しかし、彼女の場合は銃を持った相手に対し、剣で戦うためにその弱点を探ろうという気持ちが強かった。

 そして、スティーブは自動小銃の開発を進めるのであった。


いつも誤字報告ありがとうございます。

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