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人外界で民宿始めます  作者: ぱくどら
4.民宿、一時中断
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二人の試練(4) 悪い予感

 ウミと陸の身に危険が及んでいることなど知らず、ライスは水汲みを終え、家でウミたちの帰りを待っていた。

 いつもならば露店風呂の準備に取り掛かるか、もしくは終わった頃には必ず帰って来ていた。

 が、今日は違う。

 終わっても姿を見せず、しばらく待って見ても帰って来る気配さえない。


「ウミたち遅いねん」


 玄関の前でライスとリンちゃんが開く気配のない玄関をじっと見つめている。

 窓からは朝日が差し込んでいた。もう帰って来ないとおかしい時間だった。


「遅すぎる。まさか……何かあったのか」


 チッと小さく舌打ちをするや否や、ライスは玄関を飛び出ようとする――が、寸前のところで足を止めた。

 ドン、と扉を叩き頭を俯かせ乱暴に頭を掻く。


「くそっ! 待て待て、落ち着け……落ち着け……」


 大きく深呼吸をして、足元にいたリンちゃんに視線を落とした。


「おい、ウミたちが行く店、どこか聞いてねぇか?」

「……確か、大通りの横道って聞いたことあるわん。詳しい場所まで知らないのん」

「大通りの横道……しらみつぶしに探すしかねぇな」


 玄関を開け放ち飛び出ようとしたとき――。


「ライス、待てねん!」

「なんだよ!」


 振り返ると、いつの間にかツベちゃんが土から出てきている。

 リンちゃんが傍まで寄り、ツベちゃんの言葉を聞いているようだった。


「ツベちゃんが『私も探すのをお手伝いします』って言っているわん」

「はぁ!? てめぇが何ができるんだよ」

「……ツベちゃんは『ウミさんの匂いを辿れば見つかるはずです』って言っているわん」

「匂い? 触手系は鼻が効くのか? ……そもそも鼻なんてねぇように見えるんだが……まぁいい! ほらお前ら俺の背中に乗れ!」


 家畜たちは一斉にライスの背中へと飛び乗った。

 振り落とされないよう、リンちゃんは蔦を伸ばしマグカップを固定し、ツベちゃんは触手をリンちゃんのマグカップに這わせる。


「よし、行くぞ!」


    ◇    ◇


 朝日が照らす町は多くの人外どもで溢れていた。ざわざわと賑やかな道の中、ライスが脚力を活かし颯爽と駆け抜ける。

 大通りの横道――そんな細く暗い道などたくさんある。だが、探すしか方法がない。

 何本もある細い道を何度も行き来し、ウミの名前を呼びながら探し回る。木箱の影、建物の隙間、探せるところは全て見て、何度も名前を呼んだ。

 背中ではリンちゃんも必死に頭を振って周りを見渡し、ツベちゃんはウミの匂いを必死に嗅いでいる。

 匂いと言っても、様々な匂いのする通りではなかなか選別することが難しい。一応ライスに指示を出すものの、発見に至ることがなかった。


「……くそ! どこ行ったんだ!」


 壁にどんと拳を当て悔しさを滲ませる。額には汗が光り、走り続けたため息が上がっていた。


「おい、ツベちゃん! ウミの匂いしねぇのか!?」

「……ツベちゃんは『色んな臭いが混じっていてわかりづらいです。申し訳ないです』って言っているわん。本当に、ウミたちはどこ行ったねん……」


 ライスは舌打ちをし唇を噛み締める。

 このところの平和な民宿経営に甘んじていたのかもしれない。

 ヒトがどのような立場なのか――それを散々目の当たりにしてきたのに。

 ぐっと背筋を伸ばし前を見据えた。


「休んでられねぇ……! 絶対見つけてやる」


 疲れた重い身体を奮い起こし、再び狭い路地を駆けて行く。


    ◇    ◇


 後ろに感じていた温もりが消えている――そんなことを思いながらヤクちゃんは目を覚ました。

 硬い地面に倒れていた。蔦を使ってマグカップを起こし周りを見渡す。

 薄暗い――そう思って上を見れば何か大きな物が頭を上を覆っている。どうやら木箱のようで、ちょうどその隙間に入っているようだ。

 隙間から抜け出してみると、先ほどまでいた細い路地だった。が、誰もいない。

 

 ――と、大通りの方面から見覚えのあるシルエットが全速力で向かってくる。

 下半身を馬の姿、上半身はヒトの身体。


「……ライス」


 そうヤクちゃんが呟いた時には、すでに目の前にやって来ていた。

 激しく肩で呼吸をして、顔は汗が流れている。


「ウミはどうした!?」


 上気させ怒っているようにも見える。

 起きたばかりのヤクちゃんは考えがまとまらず、どうしてライスが怒っているのかと不思議そうに見上げた。


「……ウミ、ですか?」

「あぁ! お前、一緒に出ただろう!? ウミとリクはどうしたって聞いてんだよ!」

「ウミと、リク……」


 どうして今ヤクちゃんだけなのか――少しずつ記憶を遡っていく。


 そう――触手どもに襲われたのだ。

 いきなり触手たちに囲まれてしまったウミは、あまりの気持ち悪さにそのまま意識を失ってしまった。

 腕に抱えられていたヤクちゃんはそのまま地面へ転がり落ち、運よく木箱の隙間へと入り込んだ。


「盗賊団に、触手どもだと? それでどうなったんだ」

「僕、落ちたときに強く身体を打って意識が朦朧でしたです。でも、複数の足音が去っていくのを聞いたです」

「じゃあ触手どもにさらわれたってことか!?」

「たぶん……そうだと思うです」


 しょんぼりとヤクちゃんは頭を俯かせる。だがライスがヤクちゃんを責めなかった。

 どこに連れて行かれたのか。さらった目的は何なのか。そして、無事なのか――。

 考えれば考えるほど、胸の中に例えようのない重い不安が膨れ上がる。

 だが、考えたところで答えなど浮かばない。

 不安を解消するには、ウミを見つける以外にないのだ。

 ライスはグッと拳を握り締め、前を見据えた。


「……どういう状況だったか、わかっただけでもいい。そんなに遠くへは行ってねぇはずだ。見つかるまで探し続けりゃいいんだ」


 奴らはどこに行ったのか。

 大通りへ出たのか、それともこのまま細い路地を進み、どこか別ルートを通ったのか。


「ライス」

「なんだよ」


 背中に乗るリンちゃんの呼びかけに、若干苛立ちを見せ振り返る。

 

「ツベちゃんが『ここからわずかにウミさんの匂いがします。ここから辿れそうです』って言っているわん!」

「本当か!?」


 ツベちゃんがうねうねと動きながらも、頭の部分を上下に振っていた。

 すると身体を揺らしながら移動し、ライスの肩の部分によじ登って来た。触手の一本を前へ突き出し、あっちへ進めと指示している。


「あっちから匂いがするのか?」


 ライスの問いかけに、再び頷くツベちゃん。


「……わかった。あとヤクちゃん、お前はカグラのところに行ってくれ。盗賊団について何か情報を持ってるかもしれねぇ」

「わかったです」


 ヤクちゃんは小さな身体を一生懸命動かし、飛び跳ねながら去って行った。

 それを見届けた後、家畜たちに顔を向けた。


「行くぞてめぇら! 絶対にウミたちを助け出すぞ!」


    ◇    ◇


 意識を失ったウミと一緒にロープで縛られた陸は、何とか解こうと抵抗を試みるも意味を成さなかった。

 今、荷台はガタガタと揺れながら移動している。上は布で覆われており、どこを進んでいるのかわからない。

 陸は大声で助けを呼びたかったが、ヒトとバレてはまずい。身体をくねらせ何とかロープを解こうとする。

 が、うまくいかない。きつく縛られたロープは身体をきつく締めつけ、自由に動くこともままならない。

 一方で、ウミは気を失ったまま目を閉じている。


『……おい、大丈夫か』


 小声で呼びかけるも、ウミは目覚める気配がなかった。

 焦る陸をよそに、荷台はどんどんと進んで行く――。

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