少年は在りし日を望む
この世に神様なんていない。
俺は今までそう思ってた。だから、俺はエリーナ姉ちゃんにこう言ったんだ。
二人で村を捨てて逃げようって……
姉ちゃんは寂しそうに微笑みながら俺に言った。
「ありがとう……ヴァン……でも、行けないわ。父さんと母さんが眠るこの地を捨てられないもの……」
「何でだよ! 姉ちゃんだって、このままだと自分がどうなるか分かってんだろ! 俺が子どもだからか? こんな生活続けたって、何にもならないじゃないか!」
姉ちゃんは俺の言葉に困ったような顔をした。
そうだ……俺だって分かってる。
何の力も無い子どもに何も出来はしない。
分かってるんだ……
「辛いことも、悲しいことも、楽しいことも全部女神スフィールド様は御覧になっておられるのよ。ヴァンは今は分からないかもしれないけど、きっと生きていているだけで幸せなことなのよ。ヴァン、貴方は将来何になりたいの?」
姉ちゃんの言葉に俺は言った。
大人になりたいって……
でもさ、あいつが来てからこの村は良くなったんだ。
あの時の姉ちゃんの言葉は正しかったんだって思えた。
妹のミリィが病気になった時にあいつがジゼルの街まで連れて行って医者に診せてくれたんだ。
毎日、お腹一杯に食べる事だって出来るようになった。
全部、あいつのしたことだ。
多分、あいつはこの村の現状を嘆いた神様が遣わしてくれた天使様だったのかもしれない。
俺もちょっとだけ神様がいるって信じかけてたんだ。
けど、結局、裏切られた。
神様が俺達から全てを奪っていくってんなら……
そんなの神様なんかじゃない。
俺達が苦しんで、不幸になってるのを笑っている神様なんていらない。
俺は幸せにはなれなくっても、あいつとエリーナ姉ちゃんだけは幸せにしてみせる!
だから……だから……
一緒に帰ろうよ、兄ちゃん……




