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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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38、その後

 目が覚めたのは、城の一室だった。


 ここは以前にも見たことのある場所だ。王宮に上がった際、部屋ができていないからと数日泊まったところがこの客間だった気がする。


 むくりと身体を起こせば、エアルやディーネ、ウルとグノーが嬉しそうに私の周りを飛んでいた。お礼を言って皆の頭を撫でれば、とても嬉しそうにしている。


 周囲を見回してみると、誰もいないらしい。今、何日なのか、どれくらい眠っていたのか……聞きたい事は色々あるのだが。その祈りが通じたのか、目の前の扉が音を立てて開いた。

 開けたのはライさんだったようだ。彼の後ろにはカートがあり、その上には物がたくさん置かれている。



「シアさん?」

「ライさん、おはようございます。今、何日ですか――」


 

 にこやかにそう話せば、感極まったライさんにギュッと抱きしめられた。はて、どうしたのだろうか。その疑問は、ぼそっと呟かれたライさんの言葉から理解する。



「シアさん、五日間も眠っていたんだ……心配したよ……」

「……ええ?!そうなの?!」



 それは心配かけるはずだと、私は彼の背をぽんぽんと優しく撫でた。



 

 落ち着いたライさんから聞いた話によると、皇帝陛下とルイゾン様は報告があるからと先に国へ帰られたそうだ。今残っているのは、ライさんと帝国代表として残されたルイさんとディアさんらしい。


 その理由は精霊崇拝派の件があったからだそう。以前私たちを襲ったザリバーや精霊崇拝派は、ザリバーの手によって壊滅させられていたそうだ。帝国の諜報員と王国の精鋭部隊で侯爵家の別荘に押し入ったところ、食堂に血まみれになった刃物を持ったザリバーが立っていたらしい。

 帝国の諜報員部隊が捕まえる時も何故か抵抗される事なく、素直に捕らえられたそうだ。


 その間に王国の精鋭部隊が食堂を見てみれば、食堂はあちらこちらに血が飛んでいて、まるで血の海にいるようだった。そしてそこには四人の遺体があったのである。


 その後ザリバーの供述により、彼らは精霊崇拝派の幹部である事が分かり、それ以外の人間の死体も他の部屋から出てきたのである。

 ザリバーは帝国に連れられ、取り調べられた後、絞首刑になるそうだ。



 ちなみにリネットさんもライさんの護衛兼代表として、こちらに残っているそうだ。ライさんと一緒に看病してくれたらしく、話を聞き終えた後にリネットさんにもお礼を伝えた。



 

 

 ――そして、私が目覚めた翌日。ハリソン様と面会し、王国の今を知ることになった。


 

「改めて済まなかった」


 

 応接室でハリソン様に謝罪をされて、飛び跳ねそうになったのを抑えた私を褒めて欲しいくらいだ。普通の謝罪だけでも恐れ多いのに、彼は頭を下げて謝罪をしている。流石にこれには動揺した。



「頭を上げてください!私も失礼な態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした!」



 と頭を下げれば、ハリソン様が「いやいや」と頭を下げてくる。堂々巡りになった私たちを止めたのは、笑っていた大公様だった。


 ちなみにハリソン様と面会になった理由は、彼が私に謝罪したいからということだった。謝罪は仮婚約の件を知らなかったとはいえ……過去の私に対する態度と、ハリソン様の仕事を手伝わされていた件、そして婚約破棄の件だった。


 仕事は私を気に食わないと感じていた側近たちにより、振り分けられていたのだと言う。「知らなかったとはいえ、許されることではない」と再度頭を下げられたのだ。

 


 まさかこんなことになるとは誰も思わないだろう。

 実際隣で様子を見ていたライさんも、口をあんぐり開けていたのだから。


 

「そろそろ話を進めたらどうだい?ハリソン」

「叔父上……そうですね。シア嬢、陛下は隠居されることになった」

「え……?何故、それを私に……?いえ、そもそも言っても良いことなのでしょうか?」

「ああ、大丈夫だよ。既に王国の貴族内では周知されている事実だからね。それにシア嬢も当事者の一人だ。君も聞くべきだと思う」

 


 そう述べた大公様に驚いていると、ハリソン様が詳しく話を教えてくれた。


 元々私は陛下の話により、国外追放・除籍の件は隠されていて、表向き「愛し子の力がないために、共和国で訓練している」と周辺貴族には周知していた。だが、やはりこの理由には国王派の中でも首を傾げる者が何人もいたらしい。


 「何故王国ではなく、他国で訓練をするのか。実質追放ではないか」と考えている人もいたらしい。そんな時、あの場で私が除籍され、国外追放されていたと聞いて驚いたそうだ。


 その理由を宰相様より伝えられ、陛下と公爵代理の所業に怒り心頭。しかも公爵代理に関しては、私怨でアレクシアを追放したと聞いて、国王派派閥内の公爵家寄りの家は、公爵代理から離れていき……求心力が低下どころではなく、マイナスにまで落ちたと言う。


 追放・除籍の件を知っていた一部の貴族も、公爵代理の私に対する扱いと、広間での精霊やミラに対する態度で信用を無くし、支援する貴族すらいなくなったとのこと。


 

「陛下はハリソン様に王位を譲られ、隠居し……病死になる予定だ。そして公爵代理は愛し子であるシア嬢とミラを虐げ、前公爵であるカロリーナの遺言を握り潰し、公爵家を乗っ取ろうとした罪で、磔の刑に処される」

「まあ、本人はそんなつもりはなかっただろうが……」

 


 単に私が嫌いで、ミラを甘やかしただけだったが……それがこんなことに繋がるとは彼も知らなかったのだろう。磔の刑も、公爵代理の罪を公開した後、行われるらしい。



「そして私は今回の件を全て公表した後、王位を降りることにした」

「「えっ?」」


 

 隣で聞いていたライさんも驚いていたので、これはまだ公表されていない事実なのではないだろうか。そう思い宰相様や大公様を見ると、二人とも困惑した笑いでこちらを見ていた。



「これはまだ秘密ではあるのだが、殿下が王位を継ぐ式典の際に今回の件を公表することは決まった……だが、その式典で殿下はこの件の責任を取って王位を辞退され、宰相であるガースン侯爵が王位を継承することになった。これによってアフェクシオン王国は名前を変えることになる」



 大公様に言われて、私は驚きで声も出ない。ハリソン様が辞退されたとしても、大公様がいるではないか。何故……と思ったところで、大公様が肩を竦めて話す。



「私は陛下を諌める事が出来なかったからね。そんな私が戴冠したところで、王家に不信が募るだけさ……今回の件は、精霊の国である王国を揺るがす大事件だ。王家と公爵代理を悪とする事で、そちらに世論を向けたいと言う思惑はあるのさ」

「それに、王家が何もしない中、この国を支えていたのは宰相だ。これほど愛国心のある貴族は少ないからな。私と叔父上は表舞台からは去るが、文官として下から支えるつもりだ」

「結局宰相にはこの国の事後処理を押し付けてしまうことになるからね。ハリソンと私は療養という名目を利用して、下っ端で仕事をするさ」

 

 

 それが落ち着いたら、その後の身の振り方を考えようと二人は思っているらしい。今のところハリソン様は、「国境付近で魔物を狩っても良いかと思っている」と話していた。


 魅了魔法に掛かっていたとはいえ、力のないミラと再度婚約を結んだ事は、貴族内では挽回ができない過去となっているようだ。王位から外れたハリソン様は晴れやかな顔をしていた。



「やはり私はミラを諦めきれなかったのだ……」



 彼はミラとの婚約を破棄していないらしい。

 「ミラと私は似ている。だから私が支えになりたいと思っている」……愛を渇望していたのはハリソン様もミラも同じだった。落ち着いたら北の塔に幽閉されているミラの元へ顔を出すつもりらしい。


 ミラは精霊を消し、城内で魔力を暴走させたが、公爵代理の態度もあり温情がかかったらしい。と言うよりも、訓練はしていなくとも愛し子であるミラを亡き者にするのは、流石に憚られる。

 

 そのため魔力を一定以下の量にする魔封じの腕輪を付ける事が条件であるが、塔の最上階が彼女の部屋となった。ちなみに塔は牢屋のような場所ではなく、ある程度広めの部屋だ。降りる階段は一箇所しかない。北の塔は6階建の建物であるため、窓には念の為落下防止の魔法がかけられているし、窓が開く隙間も狭いため、魔力の使えない彼女が窓を突き破って出る事はないだろう。


 彼女は今憔悴しているらしい。


 エアルも少し様子を見にいったらしいが、彼女の周りにも精霊さんたちはいるようだ。他の精霊を消滅させていても、彼女は愛し子である。彼女の周りに集まってくる精霊はいるのだろう。

 


『彼女はまだ情緒不安定ではあるけれど、今回の件については反省しているわ』



 エアルが言ったことを伝えれば、大公様は少し首を捻る。



「ちなみに、ミラ嬢はこれから愛し子の訓練を受ける事ができるだろうか?このような事がないように、できたら魅了魔法だけは制御してほしいのだが……」

『魔石に魔力を込める訓練をすれば、可能だと思うわ。だけど、時間はかかるでしょうね……』

「魔石は……前公爵である母が私たちの訓練用に財産の一部を魔石に宛てているようです。もし必要であれば、そちらをお使いください」


 

 エアルのことも含めて大公様たちには伝える。彼らはそれを了承した。そして彼女が反省し魔力操作を極めた暁には、魔封じの腕輪を取り、外に出す算段もつけているらしい。それを聞いてホッとした。 


 ……そして話し終えた私とライさんが席を立とうとしたその時。



「ちなみに、シア嬢。ベルブルク公爵家に戻るつもりはないのかな?」



 笑顔で大公様は私に尋ねてくる。それに私は笑みを返した。

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