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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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34、彼らの罪 その1

「少々脱線しましたが話を戻しますと、私が次期当主と母に言われた頃、エアルとディーネも私に付いていく事を決めたそうです」

「な、何故だ……?!」



 エアルとディーネが私の元にいると聞いた公爵代理は叫んだ。ミラは声にならない悲鳴を上げているようだ。



『何故って?だから言ったじゃない。ミラは愛し子としての力を磨かなかったの。だから私たちの主人としては不適格なの』

『ミラもきちんと訓練していればねぇ〜。私たち二人が貴女に付いていく可能性もあったのに〜』

「知らない!そんな事、私は知らなかった!」



 ミラはそう叫んで、エアルたちに詰め寄った。だが、エアルたちは空を飛んでいたので、実際は私の元に近寄る形になっていたが。

 振り乱したミラに危険を感じたのか、ライさんが一歩出て私を背に隠してくれる。あのまま進めば、私の襟元を掴んで詰め寄っていた可能性もあったのだが、彼のお陰でミラも一旦落ち着いたようだ。



『そんなはずはないわ。事実、一緒にカロリーナの授業を受けていたシアは、私たちを実体化できる真の愛し子に到達しているじゃない。貴女もカロリーナの話をしっかり聞いていたなら、この事は理解できていたはずよ』

「でも……」

 


 それでも取り乱している彼女を見た周囲は、ミラが愛し子の訓練を受けていない事に完全に気づく。そして聡い者は理解できるはずだ。もしミラが王妃になり、次期公爵家の後継を生んだとしても、愛し子であるための教育を満足に後継に行えないのではないか……という事を。


 そして周囲のミラへの視線から好意的なものが少なくなった。ミラは私よりも愛し子として優れている、と言われていたのに実際に蓋を開けてみれば、反対だったのだから。


 ミラが悪い空気になりかけていた時、とりつく島もないエアルに声をかけていたのはディーネだった。

 


『ねぇ、エアル〜。確かにミラが授業を受けなくなった事は悪い事だと思うんだけど〜。正直、たかが数年しか生きていない子どもがカロリーナの授業を受けたくないな〜、遊びたいな〜って思う事は不思議じゃないと思うんだ〜。シアもそう思わない?』

「そうね。結構あの内容は大変だったもの……」

「どんな内容だったんだい?」



 遠い目をした私の様子が気になったのか、ライさんが私に尋ねてくる。



「愛し子とは何か、を半刻の間休憩なくずっと聞かされたり、ある時は『精霊に祈りなさい』って言われて大体半刻ほど祈らされたり……幼い私たちには確かに大変な内容だったわね。それより遊びたい、部屋でゆっくり寝たいって思ったこともあったわ」

『その件はカロリーナも言っていたわ。立派な愛し子にするため……を意識するあまり、母親として二人に愛情を掛けられなかった、それが心残りだって』

『私としては〜、愛し子が何かも知らないで〜、ミラに「母の元へ行かなくても良い」とミラを何度も何度も甘やかしたコイツの方が、問題だったと思うのよ〜。カロリーナが何度愛し子について話そうとしても、話を聞かないどころか、送った手紙すら読まずに破ったり捨てたりするこの男が〜』


 

 ディーネに「コイツ」呼ばわりされた公爵代理は、ディーネの魔力の圧を感じているのか分からないが、固まって口をポカンと開けている。

 ディーネによると、元々彼女は私よりもミラとの相性の方が微々たるものではあるらしいが良いらしい。もし、の話を以前したが、ミラが愛し子として力を扱えるようになっていれば、ディーネが彼女の元についている筈だった。


 それを潰したのが公爵代理なのだ。



『ミラを甘やかすだけでなく、もう一人の愛し子であるシアまで迫害して。本当にこいつは愛し子にとって害悪な人間だわ』



 エアルもそれに便乗する。酷い言われようだ。

 だが、それも納得する。特にディーネは楽しみだったと聞いていた。直近の愛し子の一番相性の良い属性は、風属性が多かった。そのため、今回二人生まれたことで私が風属性、ミラは水属性と一番相性の良い属性が分かれていたそうだ。だから楽しみに見守っていたのだが……結果はこの通り。


 周囲の視線が公爵代理に注がれる。その視線に我慢がならなかったのか、「そんなの、知らない!知らなかった!」と言って彼も取り乱し始めた。発言も先程のミラとそっくりである。


 そう繰り返す彼に呆れたのか、ため息をひとつ吐いて皇帝陛下がとどめを刺した。

 

 

「知らない、で許されるのは幼子だけだ。みっともない」



 その言葉が引き金だったのか、公爵代理は怒髪天を衝く形相でこちらを睨みつけ、「お前が、お前が全て悪いんだ!」と私の方に向かって走りながら拳を振り上げる。



「危ない!」

 


 そう声が聞こえ、私の目には公爵代理がこちらへゆっくりと走っているのが見えた。だが私の元へ辿り着く前に、目の前にいたライさんによって床にうつ伏せで捕らえられる。



「私の婚約者には指一本触れさせない」

「っ〜〜!私はあの娘の父親だぞ!」

「それが?実の親だからと言って、殴って良いわけないだろう?そもそも自分の失態を人のせい……しかも娘のせいにするなんて、情けない」


 

 ライさんも相当お怒りのようで、辛辣な言葉を公爵代理にかけている。

 今までの思いは、共和国にいる間に消化できたと思っていたが、私を殴ろうとしてくる公爵代理を見て、感情の蓋が取れてしまったらしい。気づけば冷たい視線で彼を睨みつけていた。



「そもそも、貴方はもう少し母の言葉に耳を傾けるべきでした。上に立つ者として何も知ろうとせず、感情のままに生きてきたからこのような事態になっているのでは?」

「……黙れ!」

『黙るわけないじゃない。お前には2つの罪があるのだから。ひとつ目は「ミラの愛し子としての将来を奪った罪」、そしてふたつ目は「精霊を――」』

「知らない!私は本当に知らなかったんだ!」

「バート公爵代理、それが貴方の罪です。『知る事を放棄した罪』ですわ」


 

 エアルと私にそう言われて暴れようとするも、両手はライさんに押さえつけられているので、起き上がることもできないのだ。


 その時、この状況を皇帝陛下や宰相様の近くで見守っていた陛下が、「バートを捕らえろ!」と声を荒らげる。周囲にいた衛兵たちが、公爵代理を拘束した。

 彼の顔が困惑に染まっている。まさか捕らえられるとは思っていなかったようだ。

 


「陛下、何をするのですか?!」

「お前は、私に嘘をついたということだろう?!そんな人間は捕らえられて当然だ!……ところでアレクシア嬢、この場に来てくれたのは、この国の愛し子となるべく、戻ってきてくれたということだろう?どうだろうか。ライナス殿との婚約はきっとこの場に来るための、仮婚約なのだろう?!ライナス殿との婚約を解消して、再度ハリソンとの……」

「陛下、巫山戯るのも大概にしていただけませんか?」



 陛下は素晴らしい案だと思ったのだろう、声を弾ませて私に提案してきたが、私が何か言う前に、大公様によって遮られる。遮った相手に不満げな顔を向けると、そこに居たのが大公様だと分かり、陛下は慌てて表情を変えた。


 

「叔父上、巫山戯てなどおりません!彼女はこの国の人間ですから……」

「だそうだが、シア嬢。そこのところ、どうなのかい?」

「いいえ、大公様。私は公爵家から除籍されており、現在は共和国に戸籍を作った人間です。それにライナス様との婚約は仮ではありません。ここに来る前に申請が通っております」

「なっ……!」



 除籍の件は知っていたのだろうが、まさか共和国で戸籍を作っているとは思わなかったのだろう。戸籍がなければ、私をうまく丸め込んで、王国に籍を戻そうとしたのかもしれない。

 その企みに気づいたのだろう、ルイゾン様も援護射撃をしてくれる。


 

「彼女の仰る通りです。ライナスと彼女は正式に婚約者として署名を提出しております。……そもそも、彼女を放り出したのは、そちらでしょう?散々な扱いをしておいて、都合の悪い時だけ戻ってこい、と言うのは虫の良い話ではありませんか?まぁ、彼女がそれを望むのなら、それをするのも吝かではありませんが……」

 

 

 ルイゾン様が私に顔を向けられたので、私は王国に残らない選択を伝えた。

 



「そんな……?!」

 

 

 まさか私から否定されるとは思わなかったのか、陛下の顔色は悪い。そして私たちを取り囲む貴族は、口々に王家がこのこと(私の除籍)を隠していた事に嫌悪感を覚えているようだ。

 ハリソン様も陛下が言い出した事に最初は驚いていたが、今は顔が真っ青だ。彼は表の理由しか知らなかったのだろう。


 今やミラとの距離も離れているように思う。そんなミラは一人で俯いていた。


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