33、真実を
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「母である前公爵は私とミラが二人とも精霊の愛し子である事をご存じでした。ですから、私たちが幼少の頃から前愛し子として、『愛し子として力をつけるための教育』を始めたのです。古株の使用人に聞いたところ、私たちが2歳半過ぎた頃に始まったらしいです」
私の言葉に皇帝陛下達だけではなく、聞き耳を立てていた周囲の貴族達からも驚きの声が上がっている。隣で聞いているライさんも、小さい声で「えっ!」と言っていたので、やはり驚くべき事なのだろう。
「最初は魔石に触ったり、話を聞いたりするだけでしたが……ある時、愛し子の力、精霊の力のことですね。これを使いこなすためには、魔力量を増やすことと魔力操作の訓練を積むことが必要だ、と言われました。その時に毎日行うように常々言われていたのが、魔石に魔力を込める方法でした」
「確かに、一番安全な方法でしょうね」
宰相様は首を縦に振って、同意した。そもそもまだ幼い子どもが魔力操作も覚束ないまま、魔法を放ってしまえば……最悪周辺が吹き飛ぶなどして、本人が大怪我してしまう可能性もあるのだ。それに比べたら安全で安心な方法である。
「そもそもの話ですが、生まれた時点では公爵家を継ぐのは……ミラでも私でも、どちらでも良かったそうです。この事は私も最近知った事実ですが」
そう言ってのければ、「嘘でしょ……?!」と、か細い悲鳴のような声が耳に届く。ミラの声だ。彼女は拳を握りしめているらしく、それがプルプルと震えている。
周囲が騒々しい中、彼女の声だけははっきり聞こえた。
「ミラ、これが事実なのよ。……公爵家の当主になる人間は、精霊の力を使いこなせる者でなければならないため、母は私たちに教育を施す事でどちらが当主に相応しいか、見極めていたのでしょう……」
そしてミラの後ろに佇んでいる公爵代理は、顔を真っ赤にして俯いていた。そろそろ彼が何を仕出かしたのか、理解してきた頃だろう。
「そんなある日、ミラが母の元へ来なくなってしまったのです」
全員がミラに注目する。
「そこから、私だけが訓練していたがために……母は私を次期当主とし、ミラを王家へ嫁がせることを決めたそうです」
私の言葉が終わると同時に、目の前から驚きが混じった声が上がった。ハリソン様だ。
「……なんだって?!どういう事だ?私の婚約者はアレクシアだったではないか!」
「その件については、まず謝罪を申し上げます。ハリソン様、申し訳ございませんでした」
私に謝罪されたハリソン様の頭上には、疑問符がたくさん浮かんでいることだろう。頭を下げた私は、ハリソン様の目をしっかりと見て話し始めた。
「これは公爵家の恥を晒す事になりますが……母は出産後の肥立ちが悪く、自分の死期を予期していたらしいのです。そのため、事前にキャメロン様と取引をされていたのです。……つまり、当時母は、現公爵代理である父には次期当主の教育を任せられないと判断していたようです」
ミラの周辺で彷徨っていた視線が、今度は公爵代理に集中する。彼は怒りを抑えているのだろう、肩を震わせている。
「そのため、キャメロン様に当主教育の依頼をしていたのです。ですが、王宮に上がるためには理由付けが必要となります。そこで……」
「私とアレクシアの婚約が結ばれた、という事か」
「はい。私たちは仮の婚約者でした。私はその事を事前にキャメロン様から聞いておりました……キャメロン様からは、『交流よりも勉学に力を』と言われておりましたので、ハリソン様もこの婚約が結ばれた経緯についてを知っている前提で動いておりましたので……」
正直自慢話は苦痛だったが、もしあの状況でなければもう少し上手く対応できた気がするのだ。私の態度も悪かったと思うので、謝罪を述べれば、ハリソン様も何かを考えたようだった。
だが、それで納得しない男がいた。
「で、出鱈目を言うな!」
そう、我が父公爵代理である。彼はきっと私が嘘をついていると糾弾するだろう。徹底抗戦の予定で彼の顔を見れば、公爵代理は私の圧に負けたのか、精霊達の圧に負けたのか、後ろに後ずさった。
再度体勢を整えた公爵代理が声をあげようとした時、宰相様がにこやかに彼を制した。
「公爵代理、この事は出鱈目ではありませんよ」
公爵代理は宰相様を見る。その目は血走っていた。
「キャメロン様の時代の重要書類を確認したところ、ベルブルク前公爵様とキャメロン様の印が押してある書類を見つけました。それには、『ハリソン様との婚約を白紙にした後、ハリソン様はミラ嬢と婚約を結び直し、アレクシア嬢には婿を紹介する』と書かれておりました。その書類は此方にあります」
「……確かにこれは父上の印だ」
皇帝陛下から陛下に渡されて書類を見た後に、呟いた。
「……!?」
その言葉を聞いて、公爵代理は血走っていた瞳が収まり、顔面蒼白になる。
「ちなみにキャメロン陛下時代に行われた教育スケジュールです」
そう言って、以前王宮で行われていた私の教育スケジュールが書かれた紙が次に手渡された。
「なんだこれは?!休みは移動時間ではないか……」
「そうです。仮婚約とはいえ、王子妃であるアレクシア嬢には教育を受けてもらう必要があったのです。キャメロン陛下亡き後もそのまま止まる事なく続きました。それだけではなく、ハリソン様が出来ていない分の仕事も彼女に振り分けられていたようです。寝る時間もあまりなかったと思われます」
『そうよ、あの時のシアはいつも青い顔をして辛そうだったもの。当時はシアに付いていくって決めていたから、彼女の扱いに皆で怒っていたわ。あの時は話せなかったから、シアの許可を得る事ができなかったもの』
今思うと、本当に余裕がなかったのだと思う。その上、ミラに味方する侍女たちばかりが私の元に遣わされたので、身支度も満足にできなかった時があった。
基本公爵家でも私付きの侍女はほぼいないようなものなのである程度ならできるのだが、王妃教育のダンスやマナーの際の身支度は流石に一人ではできない。その時に一人でなんとか身支度をするも、その姿を見た教育係から叱責が飛んだこともあった気がする。
そんなことをふと思い出していたら、エアルが私の思っていた事を怒りながら話していたらしい。参加者の中には公爵代理と同じように顔面蒼白になっている者も少なからずいた。特に私の王妃教育を担当したご婦人は、今にも倒れそうである。彼女には暴力を振るわれたこともあったっけ。
王国での日々がやけに昔のことのように思う。あの時は全てそれが当たり前だと思って生きていた。だが、共和国に来てライさんや……皆さんに出会って自分がどう生きていくのかを考える事ができるようになって、自分の人生を生き始めたんだと思っている。
そこまで考えて、ふと精霊たちが私を虐げた者たちに圧を掛けていることに気づく。仮にも彼女たちは精霊姫だ。彼女たちの魔力の圧は精霊の加護持ちであっても、怯んでしまうほどのものだ。そんな圧が精霊の加護を持たない魔力もそこそこの人間に当たったら……気が障る可能性もある。
だから私はエアルたちを止めた。あれだけ圧を掛けられたら、普段通り生活できるとは思わないから。すでにその兆候を見せている人もいた。
『シア、どうして?』
「今はそれよりも、やらなくてはならない事があるでしょう。そのために私たちはここに来たのだから」
『それもそうね』
そう言ってエアルは圧をかける事を止める。すると重かった空気がある程度まで軽くなったような気がした。
『今回は〜、エアルだけだったけど。私だって怒ってるんだからね〜?シアの許可が出たら〜、私も動くからそのつもりでいてよね〜』
一生許可を出す気はない。そんな事に時間を費やすよりも、私はエアルやディーネ、ウルとグノーの四人で楽しく過ごした方が絶対良い。
共和国に居た時は、楽しそうな顔ばかり見ていたので忘れていたが、確かに王国にいた時は悲しそうな顔だったり怒った顔だったり。彼女たちも鬱憤が溜まっていたと言うことか。
ある程度スッキリしたのか、エアルとディーネの顔は晴れ晴れとしている。そしてここから彼女たちが本題を切り出した。
主要メンバー以外で虐めていた人間(侍女、衛兵、教育係など)は軽いかもしれませんが、これでざまあは終わりになります。
私としては結構怖いと思うんですがいかがでしょうか?
いつでもお前に報復できるんだ、と言われているのと一緒ですから。




