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【受賞作品・書籍化中】私、もう興味がありませんのーー虐げられた愛し子は隣国でお店を開く事にしました  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍化進行中
第三章 王国編

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32、精霊実体化

本日の投稿分です。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

「私も、でしょうか」

「ああ、お主は訓練のために王国を出たのだろう?であれば、その成果を見せればよい」



 元々この国では一部の貴族を抜かせば、「出来損ない」「残り滓」など散々な言われようだった。

 まあ実際には証明する手段がなかったので、この様な悪意あるあだ名が蔓延したのだが。


 ちらりと公爵代理を一瞥すると、私がそんな成果など出ていない事を信じているのだろう。顔色は悪いが、口には笑みが見え始めている。

 ここで失敗すれば、恥をかく。それを想像しているのかもしれない。


 一方でミラは、皇帝陛下の意識が私に向いたことに安堵したらしい。ハリソン様は心配した様子で彼女の肩を支えているが、少し疑心暗鬼になっているのか、皇帝陛下とミラの顔を交互に見ている。


 私は深呼吸をした。

 


「では、訓練の成果をお見せしますわ」



 小声で「出番ね」とエアルとディーネに声をかける。彼女達もやる気満々だ。

 王国にいた時の私の扱いに怒っていて、文句を言いたかったらしい。精霊は人間を害することはできなかったので、手をこまねいている状況が続いていたのだろう。作戦で実体化できる事を知って喜んでいた。


 

「精霊姫エアル様、ディーネ様。お姿をここに」



 胸の前で手を組みながら祈る格好でつぶやく。仰々しい言葉ではあるが、無言で実体化させるよりも儀式感があり、注目が集まるだろうとルイゾン様からの助言を採用した。

 最初は身振り手振りにしては、と少し恥ずかしい動きをディアさんから提案され、それになりかけた所、ライさんが提案してくれたのである。


 そう私が声を張り上げて言えば、私の目の前が光に包まれる。この光はウルが出したものだろう。


 そしてその光が止む頃、姿を現したのは豪華な衣装……私の格好と似たドレスを纏っている二人の姿が現れたのだった。



「ほう、これは素晴らしい」



 皇帝陛下も私が精霊を実体化できるのは知っている。だが、見るのは初めてなので、驚いたのだろう。目を見開いてこちらを見ていた。

 周囲の貴族たちは口をあんぐり開けて、精霊の二人に注目している。特にミラと公爵代理は顎が外れそうになる程の開き具合だ。

 陛下とハリソン様もミラ達程ではないが驚いており、特に陛下は私を見る目が変わっている。


 

「そなた達のことだろうか。精霊姫と呼ばれる御仁は」

『ええ、そうよ。初めまして、皇帝陛下』

『ディーネだよ!宜しくね!』

「ああ、こちらこそ」



 そう話をする皇帝陛下とエアル達の間には、穏やかな空気が流れていた。ちなみにウルとグノーは念の為ミラに精霊が近づかないように結界を張っている。


 だが、そんな楽しそうに話をしている三人の空気を読まず、乱入してくる男がいた。


 

「精霊姫様ですと!?つまり精霊四天王のお一人、ということですか?」



 そう、陛下だ。興奮からかカッと目を見開いて話している。皇帝陛下と違い感情が表情に出ている上、唾が飛びそうな程前のめりに喋っている彼を見て、エアルとディーネはあからさまに嫌そうな顔をした。


 

『そうね、王国内では精霊四天王と呼ばれているわね』


 

 エアルはかろうじて答えたが、ディーネは陛下の空気の読めなさに引いている。精霊は人間の機微を感じやすいらしく、皇帝陛下からは敬愛の念を感じたようだが、陛下からは打算しか感じなかったようだ。


 

「いつも我が国を守護していただき、感謝の念が絶えませんな。今後も――」



 多分陛下は宜しくお願いします、もしくは国を守ってくださいとでも言いたかったのだろうが、それを遮ったのはディーネだった。



『え〜?別に私たちは国を守護していたわけじゃあないし〜。愛し子がいるから、そこに居ただけだもん』

『ええ。()()()()()()()()()愛し子がいたからね』

「成程!では、この国にはミラ嬢がいるので問題ないということになりますな」



 そう言われてミラは胸を張る。そう、出来損ないである姉ではなく、精霊の愛し子と言われたのは私だけだ、そんな想いが透けて見えるのだが……。

 よく考えてほしい。彼らを呼び出したのは私だ。それを忘れているのだろうか。

 それは皇帝陛下も思ったらしい。


 

「ヴィクター殿。彼らを実体化させたのはシア嬢だろう?シア嬢が愛し子であるとは考えないのか?」

「もちろん、シア嬢は愛し子なのでしょう。ですが、公爵代理の話によるとミラ嬢は彼女よりも力のある愛し子ですから、精霊姫様方はミラ嬢に付くはずですな」



 陛下は多分ミラの話を聞いているはずだ。きっと妹を虐める姉が愛し子であると思えないのだろう。もしくは公爵の話を本当に信じているという可能性もあるが、どちらにしろミラの話だけしか聞いていない時点で、公平性はない。

 改めて宰相様がいたから国が保っていたのだと実感する。

 

 私は静かに周囲を一瞥する。そう言い切った陛下は気づいていないが、周囲の貴族が公爵代理や陛下に送る視線は、少しだけ嫌悪が混じったものが多い。周囲は気づき始めているのだろう。

 そんな空気を感じ取ったのか、公爵代理が私を指差して声を荒らげた。



「そもそもアレクシア!お前はそんな力など持っていなかっただろう?!ミラから奪い取った力ではないのか?!」 

 


 周囲に聞こえる大声で話し出したので、指を指された私が注目をする羽目になってしまった。私は扇の下でひとつため息をつき、公爵代理を睨みつけた。

 彼は私の睨みに怯んだのか、荒らげていた声は止まった。注目された私が一歩前に出ようとすると、ライさんが私の腰を支えてくれる。もう、怖くない。

 

 

「公爵代理の仰る通り、()()()()()()()の私は、このような力を持っていませんでした」


 そう私が伝えれば、得意顔で「ほらやっぱり」とでも言いたげな公爵代理。そう、共和国に行く前は、の話。



「ですが、共和国で魔法を使う機会が増えた事で、エアル達を実体化できるようになったのです」

『シアが数百年ぶりの「真の愛し子」だもの。それくらいできるのよ』

「真の愛し子……?」



 初めて聞く言葉だからか、公爵代理も陛下も首を傾げている。単に分かりやすいように、エアル達と私で決めた言葉だ。



「初代愛し子様のような方のことを言います。エアル達によると、初代愛し子様は精霊の姿を人型で見ることができ、精霊達と話すこともできました。そして今このように、見ることができない精霊を、周囲の人間にも見せる……実体化ができる方だったそうです。そのような方を真の愛し子と呼ぶそうです」

「……つまり直近で生まれた精霊の愛し子は、シア嬢以外真の愛し子ではない、という事か」

「はい、皇帝陛下。仰る通りです。初代から数代にかけては、精霊王様の血や魔力が濃かったこともあり、最初から精霊さん達と話すことができたと言われています。ですが時を経るにつれて、精霊王様の血や魔力が薄まったため、その力は弱いものとなったようです。ちなみに私が幼い頃見ていた、精霊は光の球の形をしていて、人型ですらありませんでした」

 


 ここで気づいただろうか。エアルは、シアが数百年ぶりの真の愛し子、と言った。つまりミラは……。ここに気づいた者が少なからずいたらしく、会話に聞こえる範囲で後ずさっていったので、意図を理解したのだろう。


 

「成程な、つまりシア嬢は何かしら行うことでここまで辿り着いたという事か」

「はい。前公爵である母が以前話してくださったのですが、精霊の愛し子は訓練なしで、精霊の力を行使する事は難しいのです」



 皇帝陛下は私の話に納得されたらしく、「当たり前だろう」と小声で呟いている。一方で、話を理解できているらしいミラや公爵代理の顔色が悪い。

 誰も話すことのできない空気の中、それを破ったのは宰相様だった。

 


「……つまり、宮廷魔道士が新たな魔法を繰り返し練習して使えるようにするのと同じ、という事でしょうか」

『そう考えてもらっていいわ。精霊の力、特に私たち精霊姫クラスになると、人間には過ぎたる力なのよ。だから、きちんと魔力を使うことができる人間にしか力を貸さないの』

『つまり〜、今の所私たちはシアにしか力を貸すつもりがないって事〜!』


 

 エアル達がそう話せば、会場は驚きに満ち溢れた。精霊姫本人が力を貸す人間を明瞭にしたのだ。つまりそれ以外の人間に力を貸すつもりはない、とも取れる発言になる。

 その言葉に我慢ができなかったのか、公爵代理が顔を真っ赤にして叫ぶ。


 

「精霊姫様!何故ですか!何故、アレクシアに力を貸して、ミラには力を貸さないのですか?!まさか、アレクシアに脅されているのでは――」


 

 その言葉に激昂したエアル。彼女は一瞬で手に剣のような刃物を作り出し、公爵代理の咽を目掛けて振りかぶる。「エアル!」と私が叫んだと同時にその刃物は止まった。


 『大丈夫〜、あの刃物は幻影だよ〜掟に反していないから』とディーネが私に耳打ちする。私も全ての掟を知らないのだが、ディーネがそう言うなら問題ないだろう。



『何を言っているの?お前が……お前が、愛し子であるミラを駄目にした張本人なのよ?どの口が言うの』

「駄目にした張本人……だと……」


 

 公爵代理はエアルの言葉の意味が分かっていないのだろう。そろそろ、あの話をするべきだ。



「それについては、私が話をしますわ」



 そう言って、私は公爵代理を冷たい目で一瞥した。

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