28、決戦前夜
本日は少々短めです。
結局、モーズレイ侯爵はこの場所に足を運ぶことなく、たまにディアさんとお喋りしながら、私はゆったりとした日々を過ごしていた。
ライさんからの手紙は、ゴーレムが目立たない夜間に送り合っている。魔力量が多いからか、ゴーレムのスピードは思った以上に早いらしく、初日に送った手紙も半日ほどで着いたらしい。そこから1日一通報告も兼ねて送っている。
ちなみにエアル達は3日後に、私の元にやってきたので無事でよかった、と皆で喜びあった。
そしてエアル達が王都にたどり着いた5日後、ライさんからも王都に着いた旨が届く。ライさん達は王都にある宰相様が持つタウンハウスに泊まることになったらしい。
ポールさんを通じて協力を得ていたのは、宰相様だ。顔を突き合わせて計画を練り、私たちの救出はパーティ当日の朝、ということになった。
パーティ前日の夜。
ベッドへ横になっていた私は、気配を感じて身体を起こす。そしてそこにいる人を見て、身体が動かなくなる。エアル達は鋭い視線と敵意を彼に送り、臨戦体制である。
そう、扉の前に立っていたのはザリバーだった。だが、よく見ると何か様子が変である。殺気がないのだ。
「……何か御用ですか?」
恐る恐る尋ねると、彼はこちらを向く。その間に私も動けるよう体勢を整えた。双方睨み合っている(と思われる)無言の時間が過ぎていく。……数分ほど見合っていただろうか、相手が動き出す。
それを見た私たちはさらに構えるが、よく見るとザリバーは万歳の姿勢をとっていた。
「私は君を害するつもりはない。話しに来ただけだ」
「話しに来た?何を?」
「自由な時間は今しかないからな」
自由な時間とは何か、そう尋ねようとする前に、彼が早口で喋り出した。
「君は魔法の真髄を見たことがあるか?」
「……いいえ」
いきなりそんな話をされて、面食らう。エアル達精霊陣も、彼の行動に疑問を持ち始めたようだ。万が一に備えて、私に強固な結界を張ってくれていた。
防御を固めている様子は、きっとザリバーには見えないはずだ。私は彼女達に感謝しながらも、話を聞く。
「私は昔から魔法が好きで、それを活用できると誘われて帝国の諜報員になった。確かに、魔法を使っての仕事は楽しかったのだが……私は思ったのだ。どこまで魔法を活用できるのか、どこまで効率化できるのか……諜報の仕事以外は魔法を研究するほどに」
以前ディアさんが、雑談の中で彼の事について言っていたが、彼は魔法師団兼諜報員として活動していた逸材だったらしい。魔法師団では研究職として魔法の効率化や新魔法の開発を行っていたという。
彼が言っていることは、ディアさんの発言と一致した。未だに手を上げたままであるし本当に話すだけのようだ。だが、その次の瞬間、聞き逃せない言葉が私の耳に届いた。
「そして王国に来て知ったのだ。魔法の深淵に辿り着けるかもしれない方法を……だが、それは禁忌だった……人間が触れて良いものではない……」
「魔法の深淵が禁忌とはどういう事なのですか?」
彼は自分の話に夢中で、私の言葉が聞こえていない。もしかしたら、聞こえているがあえて無視している可能性もあるが。黙って聞くべきだろうと判断した私だったが、彼はまた爆弾を私に寄越した。
「それに触れ、何度も行使したことで、私の身体は既にボロボロだ。寿命はもって数ヶ月だろう」
「?!何故それを私に?」
思わず声が出てしまう。私は彼に拐われただけの人間である。数回会っただけの人間に何故それを言うのだろう。
「私が消える前に、誰かに話したいと思っていたからだ……」
「それが私だと?」
「それに……」
彼の話は先程から要領を得ないが、彼の視線は鋭く、何かを伝えようとしているのは理解できる。……残念ながら、色々と説明すべき部分が曖昧過ぎて、内容が理解できないのが問題なのだが、彼はその事について話すつもりはないらしい。
「貴女なら、止めることが可能だからだ」
そう真っ直ぐな目で言われても……と困惑する。精霊崇拝派の事だろうか。意味が分からず、首を傾げていると、彼はそのまま話し出した。
「私は深淵を覗く代償として身体と心を明け渡した。あれはこの世界にあって良いものではない……ゴホっ」
ザリバーは床に膝をついて盛大に咳をする。本当に身体の様子がおかしいらしい。浄化の魔法や、治癒魔法、状態異常の魔法をかけても、彼の身体は変わらない。
「無駄だ……そして時間だ。精霊崇拝派を……壊滅に……」
その瞬間、彼の足元に魔法陣が現れる。見る限り移転の魔法陣のようだ。
彼が去り、誰もいなくなったその場所に一通の手紙が舞い落ちる。私はその手紙が落ちるのを静かに見守っていた。
いつもありがとうございます!
本日短めではありますが、投稿いたしました。
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